第3話

――結婚半年前


「シャルロア、中々時間が取れなくてごめん」

「ダイアン、仕事は大丈夫かしら? 無理していない?」


こうして私達は王宮の食堂で偶に時間を合わせて食事を摂るようにしている。私は少しの時間でもダイアンと一緒にいる事がすごく幸せだと思っているし、そう感じているの。


「半年後が待ち遠しいよ」

「私も」

「母さんが今度の休みに一緒にお茶をしようと言ってたよ」

「今度の休みは招待客へ手紙を書く日だから午後からなら行けるわ」

「じゃぁ、俺も手伝うよ。シャルロアと一緒に過ごしたいし」


ダイアンとの何気ない会話でも仕事の疲れを忘れさせてくれる。『早く結婚したいね』と、言い合う。小さいけれどこれが幸せなんだと噛みしめる毎日。


「じゃぁ、また今度の休みに」

「あぁ。楽しみに待っているよ」


そうして私は騎士団へと戻っていく。


私が戻る第二騎士団の詰所には既にラダン副団長とガイオ先輩達数名が昼食を終えて報告書を書いていた。

先輩たちは先日王都近郊の訓練へ出掛けていたのでその報告書に追われているのだ。報告書書きが苦手な騎士は多い。


私は訓練場に行くための準備をしているとラダン副団長が話し掛けてきた。


「シャルロア、また婚約者と一緒に食事を摂っていたのか?」

「えぇ。お互い忙しいですから少しの時間でも一緒にいたいんで」

「妬けるなぁ。あぁ、でも、注意しておけよ」

「何がですか?」


ガイオ先輩が横から真面目な顔をして私に話をする。


「将来有望な者は男女共に狙われやすいからな。お前は爵位がないから狙われないが、ダイアンだっけ? 次期子爵なんだろ? 令嬢達の標的にされないといいな。最近の令嬢は強いぞ? 婚約者から堂々と略奪を狙う者もいるらしい」

「あぁ、あの男爵令嬢が有名だよな」

「男爵令嬢?」

「あぁ、アンネリア・ラッスカ男爵令嬢だ。彼女は確か婚約者探しのために文官になったんだ。高位貴族の子息に声をかけまくっていくつかの婚約を潰したらしい事で有名だな。

まぁ、一介の男爵令嬢が高位貴族との婚姻は無理だろう。

結局潰すだけ潰して結婚できずにいる。シャロアの婚約者はまだ新人だから知らないだろ? 引っかかる前に教えておいたほうがいいぞ?」

「まさかダイアンに限ってそんな事はないと思いますよ」

「……そう言っているのも今のうちだぞ? ハハハッ」


どうやらガイオ先輩は真面目に言っていたし、少し気になる。


明日にでも彼に話をしてみよう。

私はそう思い訓練場で訓練を始めこの日はそれ以上考える事無く過ぎていった。




翌日、私は訓練を終え、昼食を摂りに食堂に向かう。食堂に入ってすぐに彼に気づいた。


「ダイア……」


私の声は言い終わる前に途切れた。


親しそうに話をしながらトレーを取り、席に着いた彼。彼女は誰?私は昨日の事もあって不安になりダイアンの元へ早歩きで向かった。


「シャロア、どうしたんだい?」


私を見つけたダイアンは笑顔で話し掛けてきた。横にいた女性は私を彼女だと感じたようでダイアンにピタリとくっついた。


「ダイアン、お隣にいる女性は誰かしら?」

「? あぁ、彼女? 彼女はアンネリア嬢だよ。この間俺の部署に顔を出した時に声を掛けてくれてね、そこから話す様になったんだ」


!!


私は驚きを隠せなかった。


昨日先輩達が言っていた令嬢がまさか自分の婚約者を狙っているなんて。

それと同時にアンネリア嬢との距離に苛立ちを覚えた。


「あぁ、あの有名なアンネリア・ラッスカ男爵令嬢様でしたか」


私は少し大袈裟に声を出す。


「何? 彼女は有名なの?」

「えぇそうよ。何故婚約者のいるダイアンにくっついているのかしら?」

「ひっ、酷いわっ! わっ、私はただっ、ダイアンと一緒にご飯を食べれたらと思っただけよっ」


私の一言で彼女は大袈裟に被害者ぶりながらダイアンに更にくっつこうとしている。


あぁ、この女は彼を私から奪うつもりなのね。


食堂は彼女の声で一気に注目を浴びてしまったようだ。ざわざわと声が聞こえてくるが皆私達を見ている。

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