第16話:縛られる愛
理解できない頭で必死に彼を見上げれば、彼は愛おしそうに目を細めた。手に繋がれた鎖もないのに、必死に彼の手を握る。
「ディア! どうして! ……私が約束を破ったのに、何で……」
「泣かないで」
頬を拭おうとした彼の腕は、床に落ちた。
「……死なないって言ったじゃない。くだらないことで死んじゃダメって」
「……うん。ダメだよ、レイナはダメ。でも、僕は──」
声にならない、空気が彼の唇を掠めた。じわりじわりと白を汚す赤は、生暖かくどろりとしている。
遠くで、弟の嘲笑う声と誰かの叫喚がした。
***
真っ白な王子様は淡いピンクのベットに横になって、一向に瞼を動かさない。
彼が倒れてすぐに従者が駆けつけた。ディアと私は保護され、レイは捕獲された。密会で王子が襲われたとなれば、国の不安が高まるためディアは、この部屋に連れてこられた。
「『姫を置いて王子は死ねない』って言ったくせに」
傷口に巻かれた包帯は、赤黒い。ベットサイドからそっと彼の手を握っても、握り返されることはない。
「嘘つきは嫌いって言ったじゃない」
包帯を取ろうと立ち上がる。その時、風より小さく掠れた声がした。
「君になら騙されたっていいけどね」
紫の瞳がゆっくりと私の瞳を捕らえた。
「馬鹿……。私のこと庇うなんて何で」
言うことを聞かないでレイに会ったのも、王としての弟のことも理解出来なかったのは、全て自業自得だ。彼はそれでも私を守ろうとした。身体だけでなく、愛する弟に裏切られるという傷から私の心も守るように。
「言ったでしょ。一番大切なのは君だって」
彼は私の存在を確かめるように髪を撫でた。怪我してないかと不安げに見つめる彼は本当に馬鹿だ。明らかに彼のほうがずっと酷い怪我をしている。
「僕を選んでくれて、ありがとう」
選んだつもりなんてなかったのに。幼い頃に憧れた王子様は爽やかな人だったのに。嗚呼、現実はこうも違うのか。
「選べなくしたのは、貴方じゃない」
「だって、愛してるって思ったんだよ。この子の最期は、僕が決めたいって思える程に」
白くて優しい香りが一瞬で私を包んだ。呼吸もしづらい程に抱きしめられているのに心地よいとさえ感じる私は、もうとっくに彼に捕らえられている。彼はいつの間にか私の心ごと縛り上げていたらしい。手足は軽いのに、心はこんなにも彼に囚われ逃げられないなんて。
「レイナ。僕のお姫様になって」
「……考えておくわ」
ふわりと笑った男は、私の手をとった。用済みになった枷は、二人の抱擁に深々と溜息をついた。
縛愛ロイアリティ*敵国皇太子に溺愛監禁されています* 涼風 弦音 @tsurune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます