第189話

会場が一気に盛り上がりを見せる。

まあ、無理もないだろう。何せいずれ自分達がダンジョンで使える様になるであろう乗り物…と言うかロボットの登場に身体障害者用の新たな義足の発表、そりゃ盛り上がる要素しか無い。


「うわぁ…予想以上の反応…これ、この後のやつを言うとかなり荒れそうな気がするよ…」


夏美はこの様子に若干引き気味になりながら右足を片手でまた着ける。


「まあ、別に大丈夫…かな?…この盛り上がりを見たから今更だが心配になってきたぞ…まあ、別にいいか。機体をお披露目した時点で賽は投げられてる訳だしね…」


俺もまた夏美の言葉に反応しつつ彼女の隣に移動して夏美が持つアタッシュケースを受け取りに行く。

そしてアタッシュケースを受け取ると俺はまた会場全体を見えるように数歩前にでる。


「…会場の皆さん、この度は我々〈狩友〉の為にこのような催しを開いていただき誠に感謝いたします」


俺はできるだけ丁寧な口調でハッキリと話始める。

会場全体も俺の言葉が聞こえ始めると全体的に静かになり始めた。


「しかし、この催しに来ている人の中には、夏美のメンバー入りの件について不満がある方々がいる事は我々も承知しています」


俺は一旦大きく息を吸う。


「だからこそ…だからこそ、今この場でこう言わせてください」


そして俺は真剣な顔になる。


「俺は本人の希望もあり夏美の為に特殊な義足を用意させて貰いました。

これにより、夏美はダンジョンでも自由に行動ができるようになりました。しかしそんな特殊な義足を求めている人は夏美以外にも沢山いることは十分に理解しています。

ですので…」


俺はそう言ってトランクを開けて中身を見せるように掲げる。


「明日からこの東京タワーの会場にて俺達がダンジョンを制覇する、又はダンジョンで全滅するまでの限定的な期間にて夏美と同型の義足の試作量産型とこの義手の試作量産型を展示or試着するブースを設けさせてもらいます。勿論このブースを開催するのには理由はあり、沢山の人がこの試作量産型を試着した際の稼働データや試着具合のアンケートなどの沢山のデータを元により良い正式な量産型を開発するのが目的です。

更には今後ろにあるMB〈O〉もコレを含めた15台を作りましたので同じく展示or試乗できるブースを開催します。

こちらも義手や義足と同じくデータを集めるのが目的ですので、みなさんよろしければ明日以降も東京タワーの会場に来ていただけたら幸いです。

勿論このブースは全て無料、つまりタダで展示品を見る事や試着や試乗もできます!」


俺がアタッシュケースの中にある試作型の義手を見せながらそう叫んだ。

すると会場が一気に爆発するように盛り上がる、そして俺は『鷹の目』のスキルを使い会場の外を見た。


(…うし、食いついてるな。流石は過激派の身体障害者救済団体だ、本物の障害者達を使って抗議してくるのは予想できたんだよね)


俺は会場の外にいた抗議していた団体のうち8割いた身体障害者達全員が抗議用の品々を放り出して喜んでいて、残りの2割の健康体の人達が慌てふためいている光景を見て口角をあげた。

今回の夏美の件で何かしらの団体が抗議してくるのは予想できていた、故に逆にそれを利用できないかと考えたためにあえてその団体をこのイベントから追い出さなかったのだ。その予想は見事に的中、お陰で国内でも結構有名な過激派の団体が動いてくれた。


(コレで義足や義手の件は間違いなく国内のそう言った団体の耳に入るはずだ。そうなれば必要なデータも大量に集まるはず、それに男の夢でもある人型ロボットも集客効果とデータ収集に拍車をかけるはずだ。何せ騎乗できるロボットなんて人類の夢でしかないからな、普通に見たい、乗りたいと思うはずだ。

そう言った人達がSNSなんかでこのイベントの件を投稿してくれれば海外の実業家の人や身体障害がある人の目にも止まる、そうなればデータ収集だけではなく日本の経済的な収入と正規量産型の開発資金の確保などその他義手や義足についての様々な問題が片付けられる、実に効果的な宣伝だよ…まあ、コレを考えたのは桜と夏美だかな…あ、渡辺さんも共犯か…)


俺は更に盛り上がりを見せる会場を見ながらそう考えた。おそらく今渡辺さんは予想が当たって喜んでいるんだろうな…仕事は劇的に増えそうだが。

…あ、後で機体の専属整備員達にシートベルトをつけるように言っておこう。設計図を見せながら説明すれば大丈夫のはずだ、何せあの15機の製造は俺が自ら30人の整備員になる予定の人達と二週間のデスマーチでイベントの3日前に完成した品物だ。途中で技術を盗もうとしていた人とか様々な理由でクビになった人を除き、あの地獄に耐えて正式に専属の整備員になったあの13人なら明日までにシートベルトの増設くらい余裕のはずだからな。

だが、その内にいるあのイカレ女にはきつく改造するなと言うのも忘れないでおこう。

何せあの人は俺以上のロボマニアだから俺の技術を吸収して何か覚醒してしまったらしく、知らない間に独断で全機体の両腕を何故かロケットパンチができる仕様に改造していた。

俺ですら無理だったロケットパンチの原理を1人で完成させたのは普通に凄いが、そのせいで納期には余裕を持って終わる予定を全機体の腕を作り直す羽目になって納期ギリギリのイベントの3日前まで遅らせてしまった大戦犯だからな…腕はいいんだよ…腕は…な…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る