第188話

〜〜 side 佐藤 渉 〜〜



「渉、それ移動速度がかなり早いな?」


「二足歩行で人型ロボットに回転する3つのレンズ…私は嫌いじゃない」


俺と夏美が先にステージに到着した後、直ぐに叶と一二三がステージの端から登場する。


「ありがとう、一二三…てか、目的地に着いたからエンジン切って降りられるようにしてくれ。流石の俺でもこれ以上夏美の体を支えるのがキツくなってきたんだが?」


「ほい、了解」


俺が一二三にお礼を言いながら夏美に機体のエンジンを切る様にお願いする。

すると機体はまた両腕を後ろに組むようにすると体の一部が窪み、腕がその中に入って収納された。そして正座の体勢になり俺の背中の面の壁が外れてスロープが展開された。


「夏美、スマンが先に降りる。そっちは任せていいか?」


「うん、アタシはこの子の稼働データをコピってからいくから気にしないで」


俺は夏美を支える体勢を崩しながら聞くと、夏美はそのまま急いで足元に置いていたノートパソコンが入ったバッグを拾いつつそう言う、俺はその言葉を聞いてから後ろを向きスロープを使い先に機体から降りる。


「不思議ね、コレだけの巨体だから重量もそれなりにあると思っていたのに足跡で陥没している部分が無かったわ。そのロボットは見た目よりも軽いのかしら?」


「いや、まずコレを一般の人に使わせようとしている事に驚こうよミリアさん。多目的ロボットって事は戦闘もできるって事だからかなりとんでもない品物だよ?」


俺が降りると最後のメンバーのミリアさんと桜がそう話しながら出てきた。


「あの〜」


「ん?どうしたのですか?」


俺が2人の会話に混ざろうとしようとしたらマイクを持っている司会者らしき男性が話しかけてきた。


「あの…こちらのロボットは一体…?」


「これ…ああ、『メタルボーイ タイプ〈オリジン〉』、通称『MB〈O〉』の事?」


「はい…」


司会者がMB〈O〉を見ながらそう言ってくる。

俺は目的の最初の段階が上手く行った事を確信しながら狩ゲーの話はなるべく言わないようにしつつ期待の説明を始めた。

惑星開拓がテーマである狩ゲーの『テラフォーマー 《美しくも残酷なこの惑星で》』において乗り物は収集した物や狩った獲物の運搬やまだ見ぬ未開の地に行く為に必須と言える要素だ。

故に空中や海などと言った特殊すぎる地形以外の全地形に対応しつつ、道を塞ぐ岩などの障害物の排除や段差などの走りにくい地形や場所でも進める小型かつエネルギー自体が確保しやすく、オプション次第でどんな状況でも使える乗り物がゲーム中盤で必ず必要になってくる。

そんな中でゲーム内でも様々な選択肢はあるが、今回はゲーム内でエイセン並に人気があり量産性や整備性、更にはカスタムパーツによる汎用性の高さもあり最高時速80Kmまで出る人型機体である『メタルボーイ タイプ〈オリジン〉』、通常『MB〈O〉』を今回は製作させてもらったのだ。

この機体は二足歩行による空と海以外の全地形及び障害物排除の為の腕型マニピュレーターを標準装備している機体であり、機体の基本スペックやクレーンやドリルなどの重機などをオプションとして装備できるなどが可能な為探索以外にも建設や運搬、拠点防衛や災害時の救助活動など様々な事ができる。

さらに言えば心臓部にあたる専用バッテリーと強化モーター以外は特殊な材料は機体の装甲として鋼鉄百足の甲殻が必要になる以外は簡単に制作できるし、整備性も簡単だ。

ただ、専用バッテリーの製作には粉状にした魔石、モンスターの血と硫酸、干して粉状に砕いた静電気キノコが必要であり、強化モーターも鋼鉄百足の甲殻と深層のモンスターの骨が必要になるので、その辺は今後の課題となっているらしい。

何せ俺は今まで普通に使っていたので全く気づかなかったのだが、この世界では魔石は唯の石としての認識しかなかった為に粉砕して使うという発想が無かった、更に言えば魔石を粉砕する機械や手段も無かった。故に俺が魔石の有用性をギルドと月神製薬(父さん含む)に説明したら正に大騒ぎになった。ついでに父さんにコブラツイストをかけられながら魔石について知っていることを1から10まで全て教えるように言われてしまった。

その為一応装飾品として加工する技術はあったのでそこから派生して粉砕する機械を作り、製薬とかに使用する研究をすると仲介役として渡辺さんが言っていた。

余談だが『メタルボーイ タイプ〈オリジン〉』の『タイプ〈オリジン〉』は無改造、つまり素体の状態の事を表しており、例えば武装した機体は『メタルボーイ タイプ〈ソルジャー〉』、通称『MB〈S〉』と言う名前になり、逆に運搬を重視した機体は『メタルボーイ タイプ〈ライフライン〉』、通称『MB〈LL〉』と呼称される中々ユニークな機体である。


「…なるほど、つまりコレは将来的にギルドが量産するダンジョン用の乗り物の試作品って事なんですね?」


「YES、飲み込みが早くて助かるよ」


俺は追加で魔石の事や材料の事の説明ははぶきながら説明すると、司会者を含む観客全員が納得したのか写真や配信などをされつつも納得している様子を見せてくれた。


「つまり、夏美さんはコレを使いダンジョンにはい…


「あ、因みにコレはまだ試作品だからダンジョンでは動かないよ」


…え?じゃあ両足が無い夏美さんはどうやってダンジョンに入るんですか?」


司会者さんが未だ機体に乗って作業をしている夏美を見ながら何か勘違いをしているようだったので、言葉の途中で遮るように否定した。

すると夏美はこちらに気づいたのか、もしくは作業が終了したのかこちらを見た後に足下に置いていたアタッシュケースとパソコンを手に持って機体から降りてくる。


「え…」


その姿を見てまた俺達以外の人達が言葉を失った。

しかし、夏美はそのまま俺の方に向かって来て、俺の隣で立ち止まる。


「渉、機体の紹介をするならアタシの足も紹介してよ。今回はコレが本命なんだからね」


「もちろん、そのつもりだ」


俺はそう言うと、夏美は右足を上げる。俺はすかさずその足を持つと例の音がなり右足が外れた。

任も周りから悲鳴みたいな声が出るが夏美は片足だけで立っている姿を見るとその声も直ぐに無くなる。

俺はそれを確認すると夏美に右足を渡す。


「あ…あの、その…えっと…」


司会者も一連の動きにビックリして何を言おうとしているが言葉が詰まってしまっている。しかし夏美は片足で器用に司会者の方を見ると笑顔になった。


「ああ、驚かしてごめんね。でも、コレがアタシがダンジョンに入っても大丈夫な理由…この狩りバカが作ったダンジョンでも通用する普通の足と遜色ない完璧な義足なんだよ。

しかも戦闘用のギミックまで織り込んだ変態仕様、ほんと呆れるくらいに完璧なアタシの新しい足なのさ」


「おい、狩りバカは言いすぎだろ?」


夏美の言葉に更に会場は盛り上がりを見せて、俺は夏美にバカにされた事に文句を言ったのだった。

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