第105話

「「…」」


2人は口を開けたまま固まっていた。

正直言って海を走るなんてふざけているとしかおもえないだろう。しかし、桜の兄さんが残したノートに書かれている裏ルートは本当に海を走るルートなのだからそうと言うしかない。


「まあ、何も説明をせずにこう言っても分からないか…すまん、キチンと説明するわ」


俺はそう言いながら今見ているページを捲り、その裏ルートが書かれたページを全員に見える様に開いて説明を始めた。

そして、数分後に話終わると固まっていた2人は動き出し叶は両腕を前で組んで渋い顔になりならがら考え始め、一二三も無表情ではあるがこちらも叶と同じポーズで考えていた。


「…一二三さんや、どう思います?」


「多分いけると思う。不安要素は海のモンスターが出てくるのかが分からない点」


「ですよね…ま、渉が運転してくれるなら俺達3人が頑張って襲いかかってくるモンスターを迎撃すればいいか」


叶の質問に一二三が返答して、その返答に叶が頷きながらそう言った。

確かに、このノートには裏ルートで出るモンスターの事は書かれていない。

正直言って裏ルート最大の脅威はそこだ、ぶっちゃけ俺を抜いた3人でモンスターの対処ができるのかは分からない。

しかし、そこさえ乗り越えれば約65kmで目的地に着く。一万kmが約65kmになるのはデカい、故に俺と桜は裏ルートを使う事を決めたのだ。


「…裏ルートはかなりの博打だ、しかも荷台にいる2人にはかなりの負担がかかると思う。だが、このルートなら確実に一ヶ月以内に禁層に到着できる。それでもいいか?」


俺がそう言うと2人は俺の方に顔を向けた。


「俺は別にいいぜ。夏休みが終わるまでに到着できるルートがコレしかないのなら俺も全力でこの博打にかける」


「私も同意、でも荷台だと私の格闘術が行かせないから銛なり鉄球なりの投擲できる物をプリーズ」


叶は真剣な顔になって俺にそう言い、一二三は無表情だが野球の投手がボールを投げる動作をしながらそう言った。

そして俺はそれを聞くと桜の方を向く。


「…だそうだ、裏ルートで行くぞ桜」


「うん、了解」


俺が桜にそう言うと、桜も叶と同じく真剣な顔になってそう言う。

コレで俺達は完全に裏ルートで深層を目指す事になった訳だが、それなら3人にはやってもらいたい事がある。


「…なら、俺からの提案だが3人には中層で食料、特に一二三が採ってきたバナナみたいな果実を中心に集めてきてもらいたい。

俺はその間に一二三の装備を製作したり車体の整備などをする、作戦開始は今日の23時だから20時になるまでにできるだけ多く集めてもらえると助かる」


俺は3人に向かってそう言う。実際にコレはかなり重要で特に一二三が取ってきたバナナみたいなアレは彼女曰くかなりのカロリーがあると言う事なので一二三が全力を出すためには是非欲しい食べ物だ。


「…別にそれはいいけどよ、少し気になった事を聞いてもいいか?」


俺が3人に提案を言うと、叶が手を上げて質問をしてきた。


「さっき一二三の装備を作るとか言ってだけどさ。それ、ギルドが決めたルールに違反していない?俺みたいに武器を貸し出すとかじゃないよな、大丈夫か?」


「「…あ」」


叶の発言に一二三と桜が反応する。そして3人が配信しているドローンに映るコメントもそんな感じに疑問に思った人達がいたのか質問のコメントが流れていた。

確かに、ギルドが決めたルールには申請していない装備に関して厳しく制限している部分はある。

しかし、その点は俺に抜かりはない。


「ああ、問題ない。何故なら俺がダンジョンで作る装備に対してギルドは何も言ってこないよ、そう言う契約だからな。事前に昨日スカイツリー前のゲートでその旨がまとめられた書類を提出してるから完全に大丈夫だ」


「…あ、だからあの時遅刻してきた訳か…」


俺がそう言うと叶は俺が昨日遅刻した理由がわかり頷く。そして何の事かわからない様な顔をしている一二三に昨日俺が集合時間に遅刻した事を話してドローンの向こう側の人にもわかりやすく契約内容を説明した。

俺はギルドと月神製薬との会議の時に俺の支払う金額を話し合う段階で俺があらかじめ決めていた漢方の購入の件に加えて、


⚪︎俺、もしくは俺が認めた者がギルドで検査していない装備をダンジョン内で装備していてもいい権利


⚪︎俺の一任で俺の作った物を他人に渡してもいい権利


などを含めた複数の権利とギルドで所有していて俺が絶対に必要な物(所有者が死亡してダンジョンから排出された装備品、モンスターの血、魔石など多数)を定期的に俺に渡してくれる事を条件にだして、代わりにお金は要らない事と回復薬βの外部製作の件を了承する事で手を打ったのだ。

因みにギルド側は回復薬βの件はコレだけの条件では俺に対して利益にならないからと今後何かあったらギルドが全面協力する事と、そのための専用ホットラインを作る事で解決したのだ。


「…つまり、俺が作った装備ならダンジョン内で着替えても大丈夫って事だよ」


「なるほど、それなら安心。できるだけ動きやすい装備でよろしく」


そして、俺が話終わると一二三は納得したようで俺に装備の注文をしてきた。

そして俺は…


「ああ、了解。だから…






さっさと今着ている人参の着ぐるみパジャマか着替えろ、何サラッと新しいパジャマを出して着ているんだよ。俺が作るまで自分が装備していたヤツをつけていてくれよ」


一二三に着ぐるみパジャマからチャイナドレスに着替えるように言った。

一二三が今着ている着ぐるみパジャマは人参だ、茄子の方は何処にあるのか分からないが少なくとも朝食を食べていた時の服装は茄子で会議に集まった時には人参に変わっていた。

まさかの早着替えである。


「断る、エッチ」


「いや、別にそんな意味では無い。寝るためのパジャマを無駄に消費したくないだけだ」


無表情だか顔を赤くしてそう言う一二三に俺はツッコミをいれる。


「チャイナドレスはしばらく無理、アレを着るくらいなら私は人参か茄子を着る。文句なら原因である私の両親に言って」


「…やばい、そう言われると何も言い返せないな…」


俺が頭に手をあてながらそう言う。確かに一二三は昨日、自分の両親の秘密を知ったばかりだ。そんな状態でチャイナを着ろなんて言われても着たくないだろう。


「…了解。今すぐに茄子の方を俺に渡してくれ、1時間位で戦闘用に強化する。だからこれ以上パジャマを壊すなよ」 


「了解。今から持ってくる…あ、尻尾を出した時に破れた穴はそのまま尻尾を出せるようにしてもらえてたら嬉しい」


「はいはい、了解」



一二三はそう言うと自分のドローンをこの場に残して何処かに歩いて行った。そして残ったドローンを見るとコメントがチャイナドレス派と着ぐるみパジャマ派でかなり荒れていた。いや、着ぐるみパジャマ派ってなんだよ?動物とかなら分かるが茄子や人参だせ、需要があるのか?


「…考えるのは後でもいいか…取り敢えず2人ともは頼んだ事は大丈夫か?」


「お…おう、俺は大丈夫…だが…」


「…」


俺がその事を考えるのを後回しにして残りの2人に大丈夫なのか確認をとった。

しかし桜が不機嫌な感じの雰囲気を出しながら目がすわっていて、叶はそれにビビりながら返事を返してくれた。

…いや、どうしたんだよ桜、さっきまで普通だったじゃん。しかも一二三とのパジャマの話から叶に見えない位置を狙って体を摘んで捻るのはやめて下さい、まじ痛いです。

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