エピローグ 悪役令嬢は、2人の幸せを願う
ハッピーエンドに至れないまま、ヴィヨン様のプロポーズを受けた後、
陛下と王妃殿下から直接お祝いのお言葉を賜り、正式に王太子妃として迎えられることが決まったのです。
ヴィヨン様が仰ったとおり、婚儀は3か月後、私の体力の回復などを見越して決まった日程のようです。
既にドレスは発注済みだとか。
その後は、お城で与えられた部屋に住むことになったため、引越の準備に一旦屋敷に戻ったのですが。
お父様やお母様、お兄様に、嫁することになったご挨拶をしたところ、お父様から「今後は、勝手に裏で動くことは控えるように」とのお言葉をいただきました。
するなではなく、控えろと言われるあたり、やはり高位貴族ですよね。
「それと、これはお前に返しておこう」
と、ペンを渡されました。これは、ブーケのペン。
なるほど、私のしていたことは、お父様にはお見通しで、フォローしてくださっていたのですね。
「ありがとうございます」
詳しい話はできませんし、求められてもいないでしょう。私は曖昧にお礼を述べるだけに留めました。
そうして、私はお城に住むようになりました。
正式な婚姻、お披露目までは、私は客室に留まることになっており、王妃教育の仕上げをするべく王妃様の下、学んでいます。
先日、2週間にわたって寝込んでしまったことで、体調や体力の低下を心配され、下にも置かない扱いを受けています。
私がお城に持ち込んだのは、ブーケのペンと私のペン、隠しておいた攻略ノート、そしてヴィヨン様からいただいたリボンだけ。
ペンをブーケにどうやって返そうかと思っていたら、なんとブーケが私付きの侍女として現れました。
公爵家に復帰したのに侍女!? と驚いたのですが、名目的には私の話し相手として上がり、実質は公爵令嬢としての教育を受けるようです。私がしていたのは最低限でしたから。
その上で、本人の希望で、私の身の回りの世話のうち、髪や化粧などについては本当にやることになったのだとか。
「1年と短い間ですが、お世話させてください。
アメリケーヌ様には、返しきれない恩があるんです」
あれだけの激動の中で翻弄されて、それでもそんなことを言って笑えるブーケは、本当に強い子です。
結局、ヴィヨン様とブーケとの間には恋愛関係は本当になく、ほかの男性にも恋愛感情はなかったとのことなので、全てはこれから、ということでしょうか。ゲームでは、こういうエンディングはなかったので、彼女はゲームの枠を超えてしまったということになりそうです。
せっかく目の前にいるのですから、ペンを返すとしましょう。
「あなたの大切な人の形見を返すわ。必要なことだったとは言え、悲しい思いをさせたわね。ごめんなさい」
とペンを返したら、泣いて喜んでいました。ブーケにとっては、永遠に、クミンが母という認識なのでしょう。私もそれでいいと思います。
ヴィヨン様は、立太子されたことで、大変お忙しくなられました。
もちろん、陛下がご壮健でいらっしゃいますから、王としてのお仕事を引き継ぐとか、そのようなお話にはなっていませんが、今後は少しずつ国政に関わることが増えますので、各部門への顔繋ぎや、より深い実情の把握などが必要となることは言うまでもありません。
私も正式に王太子妃となれば、様々な公的行事への参加であったり、ヴィヨン様の公務の補佐であったりという仕事が増えてくるはずです。
それにしても、まだ信じられません。
私を傍に置くことをヴィヨン様がお望みになるだなんて。
ゲームではブーケに向けていた優しい笑みが私に向けられているなんて、思いもよらなかった幸福に包まれます。
婚姻前ですから、夜も2人でゆっくりというわけにもいかず、一緒に過ごせる時間はごく僅かです。
夕食後の語らいでは、周りに給仕やら侍女やらが大挙していますから、差し障りのないお話しかできないんですよね。
今日は、珍しく、その後で時間が取れましたが。
「ゆっくり時間を取れなくてすまない。
王妃教育が続いているが、病み上がりで辛くはないかい?」
毒を受けたということに関しては、私には覚えがないのですよね。なにしろ、緊張の糸が切れて倒れたくらいの感覚でしたので。
この辺りは、毒の影響で記憶が混濁したのだろうという医師の見立てにより、深く追求はされていません。普通に考えれば、毒矢を受けたにもかかわらず自力で馬車まで移動し、屋敷に戻っているわけで、どうしてすぐに騒ぎ立てなかったのかと追求されそうなものです。
「ご心配いただきありがとうございます。
私、こう見えても丈夫にできておりますので、ご安心ください」
さすがに“50歳くらいまでは死なないことになっております”などということは言えませんから、はしたなくない程度に頑丈アピールをしておきます。
ヴィヨン様にもブーケにも、相当なご心配をおかけしたようですから。
「確かに病気で倒れるようなことはなかったけれど、頑強な騎士というわけではないんだ。
もう少し自重を覚えてほしい。
アミィの体は、もはやアミィだけのものじゃない。
この国の未来を育む大切な体……ああ、いや、こんな建前的な言い方はよくないね。
アミィは僕の大切な妃だ。
君の代わりなんて、どこにもいない。むしろ、周りがアミィのために体を張って守るような存在なんだ。
お願いだから、僕を心配させないでおくれ。アミィ以外に僕を幸せにできる人なんていないんだから」
ヴィヨン様から、こんな甘いお言葉をいただける日が来るなんて…。
「この身に代えましても、必ずやお幸せに…」
「だから、身に代えてとか、命に替えてとか、言わないでくれって言っているじゃないか。
アミィの身に何かあれば、僕はその瞬間不幸になる。
そのことを
「はい…。
この身は、永遠にヴィヨン様と共に」
きっとあなたをお幸せにいたします。
あなたのお傍で、いつまでも。
3か月後、私は王太子妃となりました。
エンディングスチルのように、お城のバルコニーに2人で並んで民に手を振ります。
あら、そういえば、私、結局、この感動的なエンディングを自分では見られないのですね。立っているのが自分自身なのですから。
そう思っていたら、気を利かせたブーケが、絵師を呼んで私達の姿を描かせてくれていました。
描かれた絵は、正にエンディングスチルのよう。違うのは、ヴィヨン様の隣に立っているのが私だということ。
2人の姿は、正に幸せと希望に満ちています。
いつか神様が言っていた“私の魂には世界5つ分の価値がある”という言葉、今なら信じられます。
これほど幸せに満ちた魂など、きっとどこを探しても見付からないでしょう。
一生、2人で幸せを積み上げて、天に召される時には、この幸せに満ちた魂を神に捧げましょう。
転生した悪役令嬢は、王子の幸せを願う 鷹羽飛鳥 @asuka_t
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