16R 誰かの作為(ブーケ視点)

 定期考査の後、あたしは、自治会に所属するよう言われた。

 あたしと、王子様と、ブラン様っていう成績が4位だった人の3人だ。なぜか1位のドヴォーグ公爵家のご令嬢は入っていなかった。

 後で殿下──王子様のことをなんて呼べばいいかわからなくて困ってたら、ブラン様から「殿下」って呼べばいいって言われた──から教えてもらったんだけど、公爵令嬢さまは、妃教育のためにお城に通うから、自治会には入れないんだって。王子様と結婚するのって大変なんだなぁ。




 考査の後にお母さんのことを悪く言ってきた人達は、今は何も言ってこない。

 公爵令嬢様──あたしからは許可なく名前を呼んじゃいけないんだって──は、ごくたまに自治会に顔を出しては、色々と教えてくれる。

 この前、1人で大量の資料をまとめなきゃいけなくて、ひいひい言ってたら、ふらりと顔を出されて、あたしの手元を一目見て、


 「どうしてそんな非効率的なことをしているのです! まずは大きくグループ分けをして、それからまとめなさい。

  この程度のことで、殿下のお手を煩わせたら承知しませんよ」


なんて言いながら、やり方を教えてくれた。

 言い方は少しキツめだけど、理不尽なことは絶対言ってこない。

 何か言う時は、必ず、殿下の邪魔をするなとか足を引っ張るなとか言うけど、それだけ殿下のことを大事にしてるんだと思う。本当は自分で殿下のお手伝いをしたいのに忙しくてできないから、もどかしいって思ってるみたい。

 でも、不思議と、殿下がいない時にしか顔を出さないのよねぇ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 7月の考査も、9月の考査も、あたしは2番だった。我ながら頑張ったと思う。1位は、やっぱりドヴォーグ公爵家のお嬢様だった。

 周りから陰口は叩かれているけど、面と向かってけなしてくる人はいない。お嬢様が時々あたしに話しかけてくれるから、言いにくいのかも。誰か何か言いそうになると、タイミングよくお嬢様が来てくれるから。

 そうして、陰口にも慣れ始めた頃だった。

 王国語の授業の時、教科書を開いたら、今日の授業で使うところがなくなってた。一瞬わからないくらい綺麗に切り取られてる。

 教科書を借りられるような相手はいないし、隣の人は、見せてもらえるほど仲良くもない。

 仕方ないから、かけられないことを祈りながら授業を受けた。

 授業の後、教室のゴミ箱を覗いてみたけど、切り取られたページは見付からない。

 どうしよう、自治会で、誰かにお願いして写させてもらおうか。そんなことを考えていたら、トイレのゴミ箱で見付けた。

 グシャグシャに丸められた教科書を広げてみると、「身の程知らず」とか「売女の娘」とか書き殴られてた。

 なんで、それがこんなとこに?

 まるで、誰かがこの悪口を許せなくて丸めたみたい。あたしに見せないように切り取ったとか?

 なぜかお嬢様の顔が浮かんだ。

 まさか、そこまでして助けてくれないよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る