15R 助け船(ブーケ視点)

 学園に入れてもらっても、貴族として育っていないあたしには、居場所なんてなかった。

 どこからか、あたしが最近引き取られた庶子だって噂が流れたみたいで、遠巻きにされてるのを感じる。

 周りは、何人かずつのグループに分かれてるようだけど、あたしに近付いてくる人はいない。

 教室では、事務的な、最小限の会話しかない。

 それも仕方ないとは思う。

 素性の怪しいあたしに、わざわざ近付こうとする物好きなんて、そうそういるわけがない。

 用事でなくあたしに声を掛けてくれたのは、入学式の日に温室で助けてくれた、名前も知らないあの2人だけ。

 お父様に言われて学園に入ったけど、あたしはここで何をすればいいの?

 あたし、貴族のマナーも常識もほとんどわかってないのに。

 勉強だけは、家庭教師の人から褒められたから、定期考査は頑張ってみた。あたしにできるのは、これくらいだから。

 お父様が恥をかかないくらいの点数は取りたいと思ってたけど、結果はまさかの2位だった。

 クラスじゃない。学年で2位だ。

 家でお父様に報告したら、喜んでくれた。その時聞いたんだけど、1位を取った人は公爵家のご令嬢で、3位は王子様だって。そう言えば、入学式の時に新入生総代であいさつしてたのって王子様だったはず。やっぱり王子様って頭もいいんだ。

 1位の公爵令嬢様は、小さい頃からデキがいいので有名な人で、王子様の婚約者なんだそう。

 揃って頭がいいとか、やっぱり王子様ともなるとすごいんだなぁ。

 考査で満点っていうのが初めての快挙だっていうのもお父様に聞いた。

 お父様は、「さすが名にし負う才媛は伊達ではないな」なんて感心してた。




 このことで、あたしは自治会に入ることになって。

 お父様は喜んでくれたけど、周りはそうじゃなかった。

 あたしみたいな庶子が2位になんかなったのが、周りは面白くなかったみたい。

 翌日から、視線がキツくなった。今まではあたしを相手にしてなかったのが、今はあたしを敵視してる。

 陰口も叩かれてるみたいで、時々「あんな猿が」みたいな声も聞こえる。

 考査なんか、周りに埋もれる点数でよかったのにって思ったりもした。どんな点数だったらよかったんだろう。




 そんな数日を送っていると、女生徒が3人、あたしの机を取り囲んで文句を言ってきた。

 「薄汚い淫売の娘が」とか「どうせ父親は男爵じゃないに決まってる」とか「財産狙いだ」とか言われた。

 お母さんは、お父様を心から愛してた。お父様に頼らないで、あたしを1人でこっそり育てるつもりだったんだ。お母さんは、死ぬまで、お父様のお金なんか当てにしたことなかったのに!

 キレそうになった時、「そこをおどきなさい!」という凜とした声が響いた。この人、温室で助けてくれた人だ…。この人も、あたしに文句言いに来たの…?

 あたしを囲んでた3人は蜘蛛の子散らすみたいにいなくなって、温室の人はあたしの前に来た。


 「なかなかの成績を取ったようね。けれど、まだまだだわ。

  わたくしが忙しいから、穴埋めとしてあなたが自治会に選ばれたの。私の代わりがあなたに務まるとも思えないけれど、選ばれてしまったからには、殿下の足手まといになることは許さないわ。

  いいわね? 心しておきなさい」


 すっごいキツい目で睨まれて、キツいこと言われたけど、この人はあたしが庶子だってことには触れなかった。

 「私の代わりに」って言ってたから、きっとこの人が1位を取った人。ドヴォーグ公爵家のご令嬢で、王子様の婚約者。




 ドヴォーグ公爵家のご令嬢がいなくなった後、あたしを囲んでた人達は、もう寄ってこなかった。

 もしかして、この人達を黙らせて、あたしを助けてくれたの?

 よく考えてみれば、あの人の言った言葉は、あたしの成績なんて大したことないんだからいい気になるな、自治会では王子様の足を引っ張らないよう努力しろってことだ。

 ちっともけなしてない。あたしのことも、お母さんのことも。ただ、まだ努力が足りない、もっと努力しろって言ってきただけ。




 温室の時も、自分が怪我してまであたしを助けてくれて、しかも忘れろなんて口止めまでして。

 アメリケーヌ・フォン・ドヴォーグ様、だっけ。

 貴族にも、こんないい人がいるんだ。

 あたしも、どうせ貴族になるなら、こんな素敵な貴族になりたい。

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