5 悪役令嬢は、決意する

 ヴィヨン様との顔合わせは、無事終わりました。

 けれど、ヴィヨン様の「つまらない生き方だ」という言葉が、わたくしの頭の中でぐるぐると渦巻いています。

 私と2人でいた2時間ほどの間、ヴィヨン様は一度もお笑いになりませんでした。

 私といても楽しくない、それどころか私にいてほしくないというお気持ちだったのでしょうか。




 数日して、お父様から、婚約が内定したと言われました。正式な発表は、やはり来年になるのだそうです。

 これで、私はヴィヨン様の妃になれる──嬉しいはずなのに、心が浮き立ちません。

 理由は、ヴィヨン様のお言葉。

 「つまらない」という言葉どおり、ヴィヨン様は、私といてもちっとも楽しそうではなく。

 ゲームでのことを思い返してみると、ヴィヨン様は、庶民上がりのブーケの破天荒さを気に入っていたように思います。

 一方で、ブーケでは王妃としてはもたないことにも気付いていたはずです。

 私が前世で最後に攻略に失敗した際は、アメリケーヌを正妃に、ブーケを側妃にして、使い分けていましたから。

 結局、どう転んでも、私ではヴィヨン様をお幸せにはできないのでしょうか。

 ヴィヨン様は、私といる限り、あの感情を落としてきたような仏頂面のままなのでしょうか。

 私は、…どうすればいいのでしょう。




 私自身の幸せを考えるならば、ヴィヨン様と結ばれるのが一番でしょう。

 けれど、それではヴィヨン様はお幸せにはなれません。

 私が欲しいのは、本当に見たいのは、幸せになったヴィヨン様。

 ヴィヨン様のハッピーエンドは、ブーケの隣にしかないのかもしれません。

 そのために私にできることは、悪役令嬢としてブーケを正妃に相応しく鍛え、嫌がらせをし続けて、婚約者の座を明け渡すこと。

 それしか、ないのですね…。

 そういえば、神か悪魔か、私をこの世界に生まれ変わらせてくれた存在は、私が命尽きるまで悔やみ続けてもいいと言っていましたっけ。

 正妃になろうと、修道院送りになろうと、どちらに転んでも、私は生涯悩むことになるでしょう。正しい選択だったのか、と。




 ヴィヨン様は、私とでは、幸せになれない。

 「つまらない生き方」とは、王妃になるために淑女たらんとして研鑽を積むことでしょう。私は公爵家の娘ですもの、ブーケのように奔放には生きられません。

 私にとって何が一番大切かと言えば、それはヴィヨン様がお幸せになること。

 ゲームにおけるハッピーエンドこそが、ヴィヨン様の幸せに続く道です。

 ならば。

 私は、悪役令嬢としての立場を全うして、ブーケをハッピーエンドに導きましょう。

 どうせ、ゲームには、追放エンドや処刑エンドはありません。それに、私は50歳くらいまでは生きられると保証されています。

 ならば、修道院に入れられたとしても、ヴィヨン様のお噂くらい耳に入るでしょう。




 路線変更です。

 私は、悪役令嬢として、ブーケに嫌がらせをして断罪されましょう。

 それがヴィヨン様を幸せにする唯一の道、私が生まれ変わった意味です。

 お父様、お母様、王妃になれなくてごめんなさい。けれど、私は、愛に生きると決めたのです。

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