姫崎京子ー人斬り姫ー

第14話 燃える記憶と

　屋敷の外から爆発音が聞こえた。すぐに刀に手を伸ばす。その気配に気づいた一くんも目を覚ました。

「爆発音。近づいてくる足音が一人。後鐘の音…がする…？」

　不寝番が戸を叩く。剣客が一名。玄関に急ぎ向かうと、そこには永倉さんがいた。

「…火事。」

　あけ放たれた玄関扉からは秋の乾燥した明け方の空気と町の方から火災を知らせる鐘の音が入ってきた。永倉さんは静かにうなずいた。心臓が重く鼓動を早めた。

　跳ねる髪を簪で短く一つに纏める。一くんは署で剣を起こし、深夜番と共に対応にあたる。猫たちに蘭家へ使いを頼み、私と永倉さんは現場に向かう。

「永倉さん、原因は分かる？爆発音聞いたけど。」

「分からん。飲んでたら火の手が上がってた。」

　人が道にでて様子を伺い始めた。長屋の屋根上を走る。

　数分で火の手が上がっている建物についた。二手に分かれ、建物を覗き見る。二階建ての平屋が立ち並ぶ店街。七扇の近くだということに気づく。手前は永倉さんに任せ、奥へと進んだ。

　幸い七扇に被害は無かった。しかし、火の元はこちら側のようだ。混乱する住民たちに声をかけ、火の手から遠ざかるように指示する。そうしていると、朱現くんらが来てくれた。朱現くんが気にかけるような表情を見せる。

「早速ごめん、別行動！住民の救護優先！」

　あの日の記憶は鮮明。たまに夢に見る。全身を焼かれ焦がされていく感覚が苦しい。それでも、今人を助けに動かない理由にはならないだろう。

　各建物を回り、人が残されていないか確認する。時間が経ってきて崩れそうな建物が多い。この耳は全ての音を拾う。感覚を澄ませる。あちらこちらで泣く声が聞こえるのが辛かった。

　足に触れる手を感じてはっとする。そこには小さな女の子が抱き着く形でいた。

「お姉ちゃん、お兄ちゃんが痛いの。助けて。」

　頭痛が響き始めた。

　ねぇ、お兄ちゃん。京ね、頑張るから。辛くないよ。頑張るから。

　ああくそ。

「お嬢さん。どこにいるの、お兄ちゃん。連れてって。」

　着いた家の裏口の前で母親らしき人物を男が引き留めている。息子が。悲痛な叫び。

「動くなお母さん！息子さんどこ！」

　少し距離があったが、大声で問いかける。一階の入口近くの部屋か。

「向こう側に川と大きな通りがある、そっちに行ってて。」

　羽織の裾で口を覆いながら真っすぐ突き進んだ。飛び込んだ燃え盛る炎は同じ色だった。

　幸いまだ家の中には火の手が及んでいなかった。熱が伝わり煙たいが、それだけ。予断は許されない。急いで子供を探す。

　見つけた子供はしっかりした子だった。口を覆い、姿勢を低く裏口に近いところで待っていた。子供を阻んでいるのは燃える扉だけのようだ。

「少年！聞こえている？怪我はない？」

「大丈夫！」

勢いがある返事で安心する。彼を羽織で包み、手を引く。

　右手に少年を、すらり抜かれた刀を左手に。目を伏せているよう伝える。刀を構えた時、扉の向こうから悲鳴が聞こえてきた。何事かと驚く少年の背を押す。

「京がいるから大丈夫。君は十分良くやった。任せな。」