第30話 着飾る理由


 そして翌日、なんやかんやダブルデートという名の食事会の約束を昼にとりつけられた。ので、その二時間くらい前。アイルは強制的にユーリウスを天空城のクローゼットに連れてきていた。


「デートなんだから、おしゃれくらいしたら?」


 そう言いながらひたすら洋服を出してみるも、古い服かおめかし用の正装しかない様子。

 アイルが渋い顔をしていると、様子を見に来たリントが口を出してくる。


「まあ、天空伯として会議に招集されるか、お見合いのときに着飾る以外に用はなかったからねー」

「なーるほど?」


 アイルとリントが会話をしている間、ユーリウスはずーっとむくれている。

 というか、昨日冒険者ギルドを出てからずーっとである。


 さすがに大人げないユーリウスに対して、アイルは一言言ってみた。


「そんなに不貞腐れていると、かわいい令嬢ちゃんに嫌われちゃうよ?」

「……どうして、他の女との逢瀬で着飾る必要がある?」

「仮に、私とのデートだったらどうするの?」

「なっ……」


 アイルの何気ない質問に、途端顔を赤くしたユーリウスが尋ね返す。


「アイル殿は……どんな服装をした男が好みなんだ?」

「葉っぱ以上に露出してなければ何でもいいかな?」

「何と比べた⁉」


 ――これで多少は機嫌も治ったかな?


 ユーリウスの扱いにも慣れてきたアイルは、引き続きユーリウスのデート向きの恰好を見繕う。だけど、やっぱりいい感じのオシャレな服はなくて。


 ――正直、いつもの黒い鎧が一番カッコいいまであるけど。

 ――だからと言って、鎧を着てデートに来る男はなぁ。


 下手なことを口にするとユーリウスがうるさいのが目に見えているので、胸中で悩むに留めていると、今度はユーリウスがまともな質問を重ねてくる。


「そういうアイル殿は、どんな恰好で行くつもりなんだ?」

「別に、普段着ているこれでいいと思うんだけど……」

「これにしろ」


 ユーリウスが差し出した服は、少年が着るような服だった。

 ヒラヒラのブラウスに、カボチャパンツ。彼が少年時代に着ていたものなのだろうか。たしかにサイズ感は細身のアイルなら着れそうでもあるが……今はそういう問題ではない。


「え、仮装?」

「俺は……他の男に、俺のかわいいお嫁さんがもっとかわいくした姿なんて見せたくないっ!」

「なーるほど?」


 アイルは真剣に考え込んでから、こう結論付けた。


「じゃあ、お互いいつもの恰好でいっか?」

「あ、あぁ……」


 有耶無耶に解決した二人を見て、リントがくつくつと嬉しそうに笑っていた。


 その意図をアイルは察していたけれど。

 ユーリウスは案の定気が付いていないので、アイルはこっそりと肩を竦める。




 そして、デートの待ち合わせ場所。

 昨日の冒険者ギルドのある町にある、少しオシャレなレストランの前で。


「ユーリウス様ぁ、お待ちしておりました♡」

「来てくれて嬉しいよ、アイル」


 案の定、メルティ嬢は修道服を脱いで、令嬢らしい軽やかなワンピースに身を包んでいるし、勇者クルトはマントを脱いだ軽装ながら、シンプルな出で立ちがより美青年っぷりを輝かせている。


 正直、町には不釣り合いのキラキラな二人に、アイルは自分らを見比べて少し後悔していた。


「やっぱりうちらもオシャレするべきだったかな?」

「心配するな、どんな格好をしていてもアイルど殿はかわいい」


 鼻の穴を大きく膨らませるユーリウスに、アイルはぼそりと呟く。


「……自分の旦那をよりよく見せてドやりたい欲求って知ってる?」

「なっ⁉」


 途端、アイルの予想通りに顔を真っ赤にさせた怪物伯に、アイル自身も思わずケラケラ笑っていると。勇者クルトが、とても爽やかな笑みでアイルに手を差し出した。


「それじゃあ、入ろうか」

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