着陸

――乗務日誌 Z時間 二四一三年九月八日 二二五〇時 記入

――我々は火星指令の着陸許可を受領した。九日〇一〇〇時より着陸態勢に入る。


「着陸警報!」


 カエルム船長が警報を発令すると、ブリッジに緊張が走った。


『着陸警報、乗員は着陸に備えよ、乗員は着陸に備えよ。お客様にお知らせいたします。この列車はまもなく着陸態勢に入ります。シートベルトをご着用ください。次は火星地上仮設駅、次は火星地上仮設駅です――』


 自動放送の後、サリー少尉が船長に報告する。


「船長、全セクションより着陸準備完了報告」


 続いて、クレイ中尉。


「ILS-Aグライドパス受信しました」

「進路構成、ILS-Aグライドパスを使用」

「進路構成、ILS-Aグライドパス、セット……ヨシ!」


 グォンという音とともに、光のレールが弧を描くように火星の地上へと吸い込まれていく。


「進路開通。信号、二万KPH。船長、ご命令を」


「歴史的瞬間だな――」


 カエルム船長がニヤリとする。


「――行こうか。九〇〇一列車、発車!」


 カエルム船長が前方を指差した。


「九〇〇一列車、発車!」


 クレイ中尉は復唱してから、コンソールに指を走らせる。マスターコントローラーに最大値

をセットすると、列車が前方に向かって一気に加速して行く。


 私とルナは補助席で固唾を飲んで、前方を眺めていた。


「いよいよだね、ルナ」

「仕事中は階級を付けてください、ヒカリ少尉」

「ああ、そうだった。ルナ准尉」

「……何か気に入りません」

「どっちやねん」


 といいつつも、分かるよと、手を握って応じる。


 列車は一気に加速する。プラズマの光に包まれながら、地上を目指す。


「大気圏突入、信号六〇〇KPH」


 列車は高度と速度を下げながらエリシウム平原上空を飛行する。地平線の向こうから、キラリとコロニーのドームが現れた。


「信号一〇〇KPH」


 列車は時速百キロまで減速する。


 列車は地表スレスレを飛行しながら、鉄の軌道に車輪を下ろす。キーンと金属が擦れる音とともに車両に伝わる僅かな衝撃が、着陸成功を知らせる。


 やがて、列車は火星地上仮設駅の櫛形ホームに進入し、ゆっくりと停車した。


「火星地上仮設駅。四日と三時間六分二十五秒延着。停止位置、ヨシ」


 クレイ中尉が報告すると、ブリッジは歓喜に包まれた。

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