第9話、絵に描いたような・・
当初、キルマイルス帝国第三軍 指令クラクニス将軍の予想では、
聖樹弱体で混乱するサラスティアの隙を突き国土の中ほどで一戦して勝利した後、
王都まで押し寄せるはずであった。
ところが、両軍が
しかも、大きな森が両側に迫り出しているため、間の狭い草地を通過するしか無いやっかいな場所である。
狭い場所を大群が通過する時、当然の如く敵軍から 矢と魔法の集中砲火を受けるため甚大な被害がでてしまう。
かと言って、森の中に展開しようものなら獲物の音に
混乱は必至で 戦どころでは無い。
【それがこの世界の森の現実。人とその他の生物?の力関係は対等と言っても良い。
人が必ず狩る側な地球とは違うのだった。】
意味するところは数の優位が生かせない 帝国軍にとって最悪な場所である。
そればかりか、時間が経つほど聖樹の回復が進み自軍が不利となる。
キルマイルス軍司令部は予想外の苦戦に進退窮まっていた。
「早く行こうぜ。この三軍なら あの程度の敵は蹴散らせるだろー」
「殿下、いま少しお待ちくだされ。もう少し近づければ 魔法部隊が両側の森に爆炎の魔法を打ち込めます。獣や魔獣をそれで森の奥に追い払うのです。先にそうしなければ 傷ついた兵たちの血の匂いで人外どもが押し寄せてまいりますゆえ」
「むぅ、魔物ごときでか・・」
「いくら我が軍が精強といえど 三方向から攻撃されては一溜まりもありません」
キルマイルのクラクニス将軍は 安全な本陣に居るにも関わらずゴリゴリと集中力をかじり取られていた。
他の参謀たちも軍議を邪魔されてホトホト疲れ果てている。
「王子よお前は敵の回し者か」 と言いたくなるほどだ。
「ボクはねー、早くカワイイ姫に会いたいんだ。そう、ちょうど これ位の可憐な女の子に・・」
「・・・・・・・」
「えっ」
「「えっ?」」
「「「「「「なにっ!」」」」」」
彼らの目の前に突然現れたのは、腰まで有る長い黒髪で黒いドレスを着た10歳くらいの少女。
双方 驚きのあまり しばらく見詰め合ってしまった。
「貴様、何者だ。ここを何処だと思って 「わぁーーい。君、可愛いね」 おるかぁ・・」
だきっ☆つきっ
「!、なっ、・・やめ」
将軍の怒鳴り声を遮り、王子が軽薄な声を出してハルカの後ろから抱き着いた。
その姿に その場に居た一騎当千のツワモノたちもガックリと肩を落とし、著しく士気を下げる。
「さわ・るな・」
「王子のボクが愛でてるんだ 光栄に思いなよん。あーやっぱ胸は無いねー。
いいよー、その方が好みだしぃ本命はこっちだからねー。そろそろ感じちゃったかなー」
さわさわさわさわさわさわっ
ハルカが魔法に集中出来ないほど 変態の手付きは素早かった。
胸を撫で回し、ハルカに鳥肌を浮き上がらせ 満足すると その手はスカートの中に滑り込んで行く。
「やだ・・やめ‼」
「いいねー、そそるねー。どれどれ・・・ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
嫌がる少女を 後ろから抱きしめ スカートの中に手を入れている
痴漢を絵に描いたような光景である。
王子の凶行に軍の司令部は 皆 泣きたい心境であった。
「!?うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ。何かあるぅぅ」
いきなり奇妙な声を上げ、変態はハルカから離れた。
胸とスカートを手で隠し 涙目で睨む可憐な乙女。・・に見えるハルカ
それが 彼らの見た最後の光景であった。
カァッ・・クコォォォォォォォッッッッ‼
およそ聞いた事も無い音を聞いて 後ろを振り向いたキルマイルス兵士が見たものは、青白い巨大な円柱が天に向かって登っていく光景であった。
それは高温の炎が全てを焼き尽くす魔法。
術の範囲以外には熱が広がらない局地殲滅魔法である。
魔法で作り出された青から白へグラデーションをゆらめかせて燃え上がる美しい炎。
白昼にも関わらず他が暗く見えるほどに輝き50メートルもの高さまで立ち上っていた。その光景は敵軍であるサラスティア軍本陣からもハッキリと確認できた。
両陣営の全軍が魂を抜かれたように呆けて その光景に見入っていた。
******************
「はぁ、はぁ、ネコ・・・おきろ」
「ミギャーァ」
ネコはヒゲを容赦なく引っ張られ、否応無く意識を覚醒させられた。
そこは小高い丘、見下ろした森の先では 両国の軍が未だに混乱していた。
足元には レレスィから貰った魔物避けの杖が作動している。
「脱出の・・転移が、敵のど真ん中。・・アホか」
「いや、それはのぅ、脱出場所を特定出来ないように ランダムに座標が決められる仕組みなのじゃ」
「使えね・・」
ハルカは先ほどの悪夢から回復しておらず、ものすごく不機嫌であった。
感情に任せて殲滅魔法を使ったため、一瞬転移が遅ければ 自らも骨すら残さず焼かれていただろう。その時既に気を失っていたネコはその恐ろしい場面を見ていない。
「ネコは最後の仕事・」
「何をすれば良いにゃ」
ハルカの魔力は既に限界近くまで使われていた。
それでも尚、最後の締めくくりをネコにさせるつもりでいる。
*********
司令部を失ったキルマイルス帝国軍は混乱の極地にあった。
が、困惑しているのは正確な情報が得られないサラスティア軍も同じである。
「いかが致しましょう。敵は混乱しております」
「うむ、だが先ほどのアレが何なのか分からぬでは迂闊に動く事はできんぞ」
「左様ですな。魔法が使われたのは疑い無いのですが なにぶん見たことも無い現象でした」
「この機に一気に攻め入りたいのは山々ではあるが、攻めると成れば あの場所を通らなくてはならん。もし これが敵の罠であるなら形勢は一気に傾くぞ。
万が一でも我々が負ける事になれば敵は大攻勢に出る。 とても都の守備隊では耐えられまい」
「だがしかし、どうしたものか・・情報はまだ届かんのか」
キーーン・・
スピーカーがハウリングを起こした時の不快な音が 全ての者達に聞こえてきた。
ハルカの魔法は変な所で
「なっ、なんだ?次から次へと」
『混乱しておる両軍の兵士たちよ、我が魔法を見て驚いたであろう』
「何事だ、この声は何処から聞こえて来るのだ?」
『わしは、サラスティア王国 筆頭魔導師のロスティアじゃ。
この声も魔法で伝えておる。わしを探してもムダ ムダ ムダじゃ』
「ロスティア様だと?むぅっ意味が分からん。
だが この声、そしてこのふざけた物言いは確かにあの方だ」
「どういう事なんだ?」
『キルマイルス軍司令部は燃やし尽くした。骨すら残ってはおるまい。
キルマイルスの兵たちよ、武器を捨てて降伏せよ。
抵抗するならば同じように焼き尽くしてくれる。二度と家族の顔は見れぬと思え』
言葉の内容に驚いたサラスティアの将軍たちは 急ぎ天幕から出て 敵陣をうかがう。
「魔法兵、どうじゃ。敵の様子が見えるか?」
「は、はい。敵は次々武装を解除している模様です。聞こえた声は真実のようです」
「そうか・・王家自ら国難を退けてくれたか」
「よしっ、全軍、警戒しつつ前進。敵軍を拘束する」
戦いは、まさかの乱入で波乱の収束を向かえた。
ハルカと遭遇した当事者は皆 燃え尽きてしまった為、先ほどの魔法の真実を知るものは居ない。
ハルカは魔法の使用者をロスティアに押し付けたのだ。
この戦いで 主力となる精鋭と世継ぎとなる変態を失ったキルマイルス帝国は国の方針を大きく変更する事となる。
「どうにゃ、ハルカ。これで良いのか?」
見ると疲れ果てた子供が丸くなって寝ていた。
事前に敷物と魔物除けを準備し、声が届くのを見届けるなり 寝てしまったようだ。
「振り返れば何とあっけなかった事よ」
ロスティアは小さなネコの体でハルカに寄り添う。
そして驚くべき事実に気が付く。
そう、今の戦いで自国に降りかかっていた危機的問題はほぼ全てが片付いた事になるのだった。ハルカは意図せずに国の危機を救っていた。
彼女は改めて振り返る。
国の危機を予感して召喚の儀式を行った。
呼び出したハルカは予想とは全く違うタイプの転移者ではあった。
憎まれ反発され、その行動を縛る事など不可能であった。
だがロスティアと多くの仲間が命をかけてまで望んだ願いを適えてくれた。
ロスティアはハルカに心から感謝した。
結果的に見ればそれ以上の功績である。
長年懸念されていた国家間の心配事が殆ど解決してしまったのである。
ロスティアですら知らなかった事だが、変態王子が 孫のマラカ姫を狙っていた野望も 今回ハルカが焼き尽くしてくれたのだ。
とても罪の償いには為らないだろうが、取り戻した命の続く限り ハルカの助けになるよう心に誓う子ネコだった。
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精霊樹の魔法使い。はるかな時への旅路 北の山さん @ofsfye
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