2-1
辞令を受けた僕とテオは一緒に旅支度をするために街に買い物へと繰り出した。
「へへっ、まさかフェルと一緒に旅をする事になるとは思わなかったぜ」
鼻を擦りながら照れたように笑うテオはとても可愛らしいのだが・・・・
「勇者様、良かったら俺の店で武器を買ってってくれないか!?」
「いや、俺の店が先だ。勇者様、この町一番の防具に寄っていってくださいよ!!」
「待て待て、旅をする上で必須なのは食料だろ、勇者様、是非俺の店で!!新鮮な食材を取り揃えてますよ!!」
お城で歓待を受けた翌日に、テオが勇者である事が本国で大々的に発表され、テオは今ではまさに時の人だ。
しかし、そんな歓迎を受けてもテオの顔は思いっきり嫌そうに顰めており、耳の裏は真っ赤に染まっている。
だが、それも無理からぬ事なのかもしれない。下穿きを足首まで下ろし、真っ赤な顔の上着を捲って勇者の証を見せている姿をしたテオの艶姿が、新聞で街中に配られた訳なんだから・・・
「うぅ・・・フェ、フェル!!早く行こうぜ!!」
「・・・・うん」
それを理解しているテオは僕の手を思いっきり引っ張りながら、どんどんと人気の無い所に向かっていく。
完全に人がいなくなった路地で、テオは僕の手を離して深々とため息を漏らす。
「こんな形で有名になりたくなかったぜ・・・」
「・・・・テオは可愛いから仕方ない」
「それ、俺の息子さんの事じゃねぇだろうな・・・」
涙目で見下ろしてくるテオに、そこもエロくて可愛いという言葉を飲み込み、視線を逸らすと視界の端に入った店が目に止まった。
「ああぁー!!視線逸らしやがった。って事はそう思ってるって事だな!?」
「・・・・テオ、怒ってる姿も可愛いけど落ち着け」
ちょっと情緒不安定になっているテオを抱きしめて、背中をポンポン叩いて宥めて落ち着かせた後、先ほど視界に入った店を見るように促す。その店を見たテオも驚いた顔のまま、僕へと視線を戻すのだった。
「ごめんください」
俺たちは見つけた店に入店しながら、檻の中から向けられる凶悪な視線に息をのむ。
「グルルルゥ!!」
「がうがう!!」
「キシャアアァア!!」
そこには遠征で出会ったゴブリンたちとは比べものにならない魔物たちが檻の中で犇めいており、こんな魔物たちを国の中で売買している奴がいる事に緊張が高まる。
「はいはい、いらっしゃいませ~」
そんな俺の緊張と裏腹に、聞こえてきた声はまだ幼さを残した高い声の子供だった。
目元までフードで隠しており、顔も、性別も分からない。いや、それ以上に目の前の子供は本当に存在しているのかと感じるほど、目の前にいる子供の気配は希薄だった。
「おや? おかしいなぁ・・・君の力量で僕の店が見つけられる筈がないのに・・・・?」
おそらく一人称からして少年だと思われる子は、フード越しに不思議そうに首を傾げながら俺の隣にいるフェルへと視線を向ける。
「ああ・・・なるほど。なら、二人とも僕にとっては最上のお客人だ。ようこそ、魔物商へ」
深々と俺たちに頭を下げられている筈なのに、俺には少年に見降ろされているような妙な寒気を感じていた。
「僕の名前はゾウサータ。近しい者はサータって呼ぶから、お兄さんたちもそう呼んでくれると嬉しいかな?」
これが俺たちと四天王であるガカルが言っていた魔王である彼との初めての出会いだった・・・
しかし、その事実を知るのはまだ遠い未来の話・・・・
魔物商に訪れた僕は色々と戸惑いを覚えながら少年から説明を聞く。
・魔物を買うには、その魔物と戦って勝利する必要があり、勝って初めて売買の権利を得られる。
・強い魔物ほどに金額は高くなり、ちなみに一回ごとに挑戦料も貰う。
・店の場所は定期的に変わるから店に入るには今回以外はカードが必要。
要点をまとめればそんな感じだったが、それよりも先に僕は少年のすでに魔物を売り出していることに驚いた。
少年はゲームの序盤から普通に登場するのは知っていたが、序盤で魔物を売り出すという事はなかったはずだ。
序盤はせいぜい掘り出し物のレアアイテムの売買で、その売買もはっきり言ってボッタくりレベルの金額。
でも、その理由はなんとなく推察はできる。魔物を仲間にするシステムというのはゲームでもこの店で初めて教えられるが、一定以上のレベルになって初めて解禁されるのだ。
ようするに僕という存在の所為で序盤から解禁されてしまったのだろう。
流石に序盤でレベルを上げるなんてやりこみはしてなかったので、絶対とは言えないが・・・
「以上が説明になります。こちらがカードになりますので署名をお願いします」
「は、はい・・・いや、そうじゃなくて、こんな街中で魔物の売買なんてご法度だろ!!」
「大丈夫です。売りはしますけど、買いはしませんから」
「そういう意味じゃねぇって!!」
「・・・・テオ、無駄だから止めといたほうが良いよ」
仮にここで通報したとしても、少年の実力なら警備隊が来る前に店を移してしまうのは容易い。
ここで捕縛をしようにも、今のテオの実力では到底少年に及ばない。そもそもテオの性格だと子供の姿をしている少年を相手にそんなことをする気も起きないだろうけど。本当に天使かといいたくなる。
「それで、どうしますか?」
「どうするって・・・確かに魔物と戦って強くなりてぇにはなりてぇけど・・・」
素直に答えるテオに少年はクスクスと鈴が転がるような音で笑う。今のテオでは檻の中にいる一番弱い魔物が相手でも瞬殺されるとわかっていての質問なんだろう。
「貴方は・・・どうしますか?」
「止めとく」
即答する僕にテオはともかく、少年は今度は本当に驚いたように口を開く。残念ながら表情はフードで隠してしまっているので分からないが、驚いているというのも無理がないのかもしれない。僕なら少なくても檻の中にいる魔物なら連戦しても、すべて倒しきることが可能なのを理解しているのだろう。目の前にいる少年は流石の僕でも無理だけど・・・
それは実力の違いというよりも相性の問題だ。僕は多数への戦い方に特化しており、少年は単体での戦い方に特化している。戦いが始まればダメージ量の計算で僕が負ける。
「そうですか。それは残念です」
「・・・・・それに金がない」
「は? お金がないのに来ないでくださいよ!!」
「い、いや、あるんだけど!!ここが何の店か知らなくて金が足りたいって意味だよ。なあ、フェル!?」
慌てて訂正するテオの焦った顔が今日も可愛くてしょうがない。
怒っていた少年もテオの顔を見て落ち着いたようで小さく咳払いをする。
「・・・ちなみに魔物以外は売っていないのか?」
「あるにはありますけど、低級魔物一匹買えないなら買えませんよ」
「マジかよ・・・」
まあ序盤から見つけると神具とか、伝説上の武器よりも性能が上の武器や防具を売ってる店だし、それが買えたらバランス崩壊待ったなしなので仕方がない。
「・・・帰るか」
「・・・・うん」
「またのお越しをお待ちしております」
諦めて立ち上がるテオに、僕も同じように立ち上がって後に続いた。
「あなた方の旅の舞台がハッピーエンドでありますように」
そう言いながら見送りの言葉をくれる少年は、小さく僕の胸を疼かせた。
サータの店を後にした俺は、近くの武器屋と道具屋で旅に必要な物を揃えながら、改めてサータの店で見た魔物たちの金額の高さを実感する。王城で渡された支度金を数百倍もする値段を平気でふっかけてくる値札は今思い出しても身震いしてしまう
「・・・・テオ、寒いなら暖めるよ」
「寒くねぇから大丈夫だ。だから、ズボンの中に手を突っ込もうとすんのやめろ!!」
平常運転のフェルに待ったを掛けながら、旅の準備を終えた俺たちは翌日には隊長と副隊長の見送りを受けながら街の正門へと来ていた。
「困難な旅になるだろうが、くじけるんじゃないぞ」
「テオ君、フェル君、元気でいるんだよ・・くうぅ・・・」
隊長と違い、滂沱のごとく涙を流すノル副隊長には苦笑が漏れる。
この人もなんだかんだで俺を気にかけててくれて、フェルと同じようにちょっとエッチだったけど優しい人だった。
「テオ君の新聞の写真は軍のポスターにして入り口に飾っておくからね!!そうだ勧誘用の紙にも・・・」
「「それは止めろ(止めてください)!!」」
そんな事をされたら、俺はもうこの街に二度と来ない自信があるぞ。
今でも、街中に見られてるんだと思うと、あんまり来たくない気もするが・・・
「まずはユミバナの街で魔王の情報を集めていくのが良いだろう」
「はい、本当にお世話になりました」
俺は深々と頭を下げながら、見習い騎士としては短かったけど、小間使いとしては長く過ごした街並みを目に焼き付けて、振り返って街を後にした。そして、新しい旅が始まったんだけど・・・出だしから見事に躓いている。
「・・・・・? こっちか?」
「おい、そっちに行ったら遠征で行った村に行っちゃうだろ!?」
まず、フェルが実は方向音痴なうえに地図の見方が分からないという事が判明した。
「・・・・・これぐらいでいいかな?」
「ちょちょっ!?待てって、そんなに入れたらユミバナに着くまで食料がもたないだろ!?」
初めてのキャンプでの食事で食料計算が全くできないし、見張りというのもやった事がないようで、見張りの順番を決めるどころか、俺と一緒に寝ようとしたり、これは毎回なんだけど俺にフル○ンで旅しろとか言ってきたりする。外で心はともかく、身まで開放的になる変態な趣味は俺にはない。
とにかく、旅をする上での知識と技術がフェルには全くなくて、戦闘では一応活躍してくれるけど色々と頭の痛い問題だ。明日にはユミバナの街に着くし、魔王の情報を集める前にやることが決まってしまった。
「フェル、次の街についたら冒険者ギルドに登録して、しばらくはボーダーを雇って旅の仕方とか、冒険の仕方を習ったり、冒険者が開く講義会に参加して勉強しようと思う」
「・・・・チュートリアルが終わったと思ったら、チュートリアルが始まる・・・だと!?」
なんか驚いた顔をされているが、そうでもしないと今後の旅で絶対に尾を引いていくのは目に見えている。
というか、こいつは小間使いになるまでに、そういった知識を一切習ってなかったんだろうか? 貴族でもない限りは、村とか街に遠出しての買い出しに行くために、そういう事も習うはずなんだけど・・・
「なあ、フェルって小間使いになる前はどうやって過ごしてたんだ?」
焚火をしながら、テオからの問いかけに僕は久々に返答に困りながら、膝抱っこしている上半身裸のテオの身体を撫でる。いつもの訓練の後のマッサージと評してテオの鍛えられていく身体を堪能するのは至福の時だ。いや、それよりも今は返答に応えないと・・・・・
「・・・・奴隷商人に飼われていた」
「え? マジかよ」
色々と考えた末、とりあえず前に隊長さんが誤解した内容を引用させてもらった。
正直に異世界の隠しダンジョンで引きこもりをしてましたと言っても信じてもらえないだろう。というか、信じられたらテオを頭の病院に連れて行くのが僕の使命になりそうだし。
「・・・・そうか、そんなつらい経験してたのか。俺、てっきり貴族のボンボンだと思ってた。ごめんな・・っ」
「・・・気にしなくていい。それよりも、もっと触っても良い?」
「ああ、ああ!!好きなだけ触っても良いぜ」
「・・・下も」
「それは絶対にやめろ!!」
「ちぇ・・・・」
ズボンを脱がそうとしたら速攻で断られ、僕は仕方なく大胸筋を触ったりして弄る。
「んっ・・んくっ・・ふぁ・・・」
少しずつ固くなっていく突起を感じて、ソコを中心に撫でるとくすぐったそうに身を捩られる。
「んんぅ・・・自分で筋肉ほぐすより気持ちいい・・かもっ・・・」
普段なら恥ずかしがるテオが珍しく素直に僕の肩に頬をのせて頬ずりする仕草が可愛くてしょうがない。
「・・・テオは本当に可愛い。可愛すぎて困る。絶対に守るからね」
「・・・・そりゃどーも」
「・・・不満そう?」
「男が可愛いなんて言われて喜ぶかよ。それに、俺は辞めたけど騎士なんだぞ? 守られるんじゃなくて守るんだ」
「・・・そうか。テオは可愛い」
「お前、少しは人の話聞こうな? うひゃ!!」
断言する僕にテオは呆れたようにコップを取ろうとしたが、引き続き触っていた僕に反応してしまってコップを落としてしまう。幸い、温くなっていたのでやけどすることは無かったが、少しだけ反省だ
「・・・大丈夫か?」
「おう、でも、ビショビショだな・・・しゃあねぇか・・・」
濡れたままが気持ち悪かったようで、テオはズボンを脱ぐと全裸に靴だけという格好になり、恥ずかしそうにムスッとしながら大きく広げたまま焚火にあたって暖を取る。そんな男らしい姿に僕は後ろからテオの身体つきを触りながら何回も首筋や頬にキスを繰り返す。
騎士になるために鍛えられて、うっすらと割れている腹筋や腕や太ももの筋肉、それとは裏腹にまだまだ幼さを残したやんちゃな顔立ち、本当にどこを見ても触っても気持ちいいし可愛い
「・・・・おい、流れでなんかこうなってるけど、これ、いつまで続くんだ?」
「もうちょっとだけ裸ん坊のテオを抱っこしてたい」
「いや、さみぃから・・・替えの服着てんだけど?」
「お前、そんな小さな子相手に何をしてる!?」
「「え?」」
テオとのイチャイチャタイムを堪能していた所為で、全く気付かなかった人の気配に僕とテオは同時に声を上げた。
目の前にはエルフの少女が弓を構えながら、真っ赤な顔で僕を凄い形相で睨みつけていた。ああ、ゲームキャラのヒロインの子だなぁとか思っていると、事態に気づいたテオが
「んぎゃあああぁぁ!!フェ、フェル、人、人が来たから!!」
「・・・大丈夫だ。テオなら見せても問題ない」
「俺に問題があるの!?せ、せめて隠させてくれよ!!」
「こ、こら、この状況分からない!?本当に射るよ。いい!?」
隠そうとするテオの手を止めながら、再びイチャイチャしようとしたが、速攻で服を着こんでしまったテオに僕は肩を落とすのだった。初めてのヒロインとの出会いは逆アンラッキースケベという本来とは逆の出会いを果たしたようだ。
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