第11話 (BGM:一人だけ英語タイトルのかっこいいやつ)


「キャアアアアアアアアアッ!」

「ぎゃあああああああああっ!」


 ヒョオオオッ! と物凄い突風が目と鼻の先をかすめていった。


「っ!」

「いでっ!」


 俺は唐突に地面に投げ出された。


「全員、森の中に退避!」

「「ラジャー!」」


 お頭の号令に子分たちがパッと散らばった。そうか、ここはちょっと開けてるから、上からでもよく見えるんだな――

 ――俺ははたと気が付いて、捕まる前に踵を返した。


「ハンクス!」


 彼は地面にうつぶせに寝転がったまま、荒い呼吸をしていた。近くで見ると血ヤッベェなオイ……!

 初めて見る“大怪我”を前に俺の視界が滲んだ。


「は、ハンクス……っ! ハンクスぅ……!」

「……逃げろ、セイリュウ」

「うわああああああああ死ぬなぁあああああああああハンクスぅぅぅぅうううううああああああああ!」

「おい」

「嫌だよぉぉぉおおおおおハンクスが死んじゃったら俺この先どーすればいいんだよぉぉぉぉおおおおっ!」

「おーい」

「あーら、大丈夫よぉ、アタシがいるもの」

「オカマ……!」

「話を聞け」

「ストレートにそう呼ぶのやめてくれる?! アタシはベスター! ベスターよ可愛い子ちゃん!」

「ごめん、俺オカマがオカンとか悪寒しか感じないから……」

「フラれちゃったわぁあああっ?! イヤァアアアアアアアアアアアアッ! これが反抗期ってやつなのかしらぁぁぁぁぁぁあああっ?! ――逆に燃えるわね」

「うわあああああああヤメロッ、触るなあああああ助けてハンクスぅぅうううううううううう!」

「……何なんだこいつら……――っ!」


 急に腹にタックルをくらって俺は森の中に押し倒された。


「いってぇ……」


 うめきながら目を開けると、新緑の瞳が目の前にあった。ハンクスはぱっと立ち上がると、乱暴に顔を拭って、肩から矢を引き抜いた。それを手の中で折って放り捨て、動作確認みたいに腕を伸ばし足を曲げる。肩を回す。飛び跳ねる。

 めっちゃぴんしゃんしている……倒れていたのが嘘みたいだ。


「……え。元気じゃん」

「ああ、元気だな。何か知らんが、治ったらしい」

「はぁ?」

「そこでちょっと待ってろ。瞬殺してくる!」


 そう言うが早いかハンクスはバッと踵を返して、森から飛び出た。

 俺たちがさっきまでいた場所に爪を突き立てていた飛龍の足元を潜り抜け、転がっていた剣を拾い上げる。そして構えて、


「グギャアアアアアアアアッ!」


 飛龍の巨体がハンクスに跳びかかった。

 俺は息を飲んで身を乗り出し――次の瞬間、目を疑った。


 翼が根元から落ちた。


「え……マジで……?」


 なんて俺が呟いた時には、尻尾、もう一方の翼、最後に頭が落ちて――血しぶきの中でハンクスが剣を納めていた。うーわ、かっけぇ……なんだコイツ……嘘だろ……。


(ゲームのムービーでこういうのあるよな……強キャラの登場シーンとか、そういうの……)


 そういう奴に限って終盤に行くにつれ使えなくなったり、真っ先に混乱してパーティを全滅へ追いやったりするのだが、とは思うだけにとどめておいた。ハンクスにそれやられたら一秒で全滅しますわ……。

 ハンクスは顔に付いた血を乱暴に拭いながら、こちらに戻ってきた。


「さて――」


 おや? ものすごく不機嫌そうだぞ?

 と思った俺の目の前に立ったハンクスは、次の瞬間拳を振り落とした。


「っ!!」


 頭をぶん殴られた。火花が散った。


「おあ……いった……あう……」

「何を馬鹿なことをしていたんだお前は。お前が死んだら世界が滅びるかもしれないというのに、どうして逃げなかった? 馬鹿か? 馬鹿なのか? 馬鹿なんだな?」

「いや……だって……」

「だってもクソもあるか。役割をしっかりと理解しろ。お前の場合は生き延びることが最優先だ。次ああいう場面になったらとにかく逃げろ。何も考えずに逃げろ。いいな」

「……」

「もう一発必要か?」

「大丈夫ですわっかりましたぁ!」


 俺は慌てて頭を下げた。さっきの殺人的な拳骨をもう一回なんて絶対に無理だ……さすが副隊長……副と付くやつはたいてい鬼だ……。

 ハンクスは溜め息をついて、俺に手を差し伸べた。その手を借りて立ち上がり、ハンクスの先導で来た道を戻る。


「だが、まぁ、怪我を治してくれたのはお前の力だろう? それは助かった。ありがとう」

「俺の力だった? マジで?」

「わからないのか?」

「わっかんないっす」

「マジか……」

「アラ、アタシ“聖女の涙はあらゆる怪我を癒す”っておとぎ話、聞いたことあるわよ?」

「へぇ、そんなおとぎ話があるんだ」

「あまり有名じゃないけどねぇ。ヒジリオ様だって同じなんじゃない?」

「その可能性は高いな――」


 ハンクスが急に立ち止まって、振り返った。


「オイ、盗賊。なぜお前が付いてくるんだ?」

「えっ?」


 ハンクスが指さした方を向く。

 と、そこでは高身長でショッキングピンクの髪のオカマ様がニッコリしていた。


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