第9話 父、絶体絶命
「お前は、本当の飯島咲希じゃないだろ。俺はそう言っている」
俺は、とぼけたような顔をしていると前髪の長い男子は追い討ちのように少し口角をあげながらそう言葉を放つ。
「は、私は飯島咲希だよ」
少々睨むような視線で前髪男にそう反論した。
「飯島咲希の偽物、周りをよく見ろ。これから大変なことになるぞ」
そう言うと、前髪男は振り返りそのまま独特な歩き方で教室の方に帰って行ってしまった。
(俺、もう偽物ってバレてる…。なんで分かるんだ…)
俺は、前髪男に指摘され辺りの廊下を見る。
掲示物やら交通安全のポスターなどが貼ってあったがもっと目立つ光景が俺の正面には広がっていた。
そこには、俺が殴ってしまって倒れてる女子生徒。そして付き添う取り巻きの2人、それだけに飽き足らずそいつらが呼んだのか先生2人まで駆け寄ってきていた。
(やべえ、一大事にしてしまった…)
「飯島咲希、職員室に来なさい」
「はい」
俺は、ガタイのいい屈強な先生の眉間に皺を寄せている顔の圧力に負けて頷きながら返事をする。
殴ってしまった女子生徒は俯きながら取り巻きの2人に介抱されながら保健室へと向かって行った。
それと同時に、俺はジャージを着ているガタイのいい屈強な先生に職員室に連行される。
職員室に入るとコーヒーの匂いと、パソコンのタイピングやプリントを印刷する音なんかが聞こえる。
「ここに座ってろ」
屈強教師に指示され俺は渋々、椅子に座らせられる。
まるで、「おすわり」と言われる犬のような感覚を味わい屈辱的な気分になった。
(俺、いい歳こいた大人なのに何やってんだろ…。絶対あのジャージの先生俺より年下だよな…)
そんな風に、先生が戻って来るのを待っているとポケットからスマホの通知音がなる。
確認すると、飯島直希からメッセージが来ていた。
(飯島直希ってことは咲希からのメッセージか)
「上手くやってる?」
スマホの画面には、その言葉が映し出された。
俺は、謝罪の念と不甲斐なさを感じ。
「やっちまった」
そう返事した。
咲希にメッセージを返し終わり、正面を見るとさっきのジャージの先生が鬼の形相で待ち構えていた。
「飯島、何スマホいじってんだ」
声も鬼だった。
俺は、いい歳こいてちびりそうになりながらも反応する。
「い、いやちょっと時間を確認しただけです」
「そうか…。飯島なんであんなことをした」
まるで自白を強要する刑事のようにジャージの先生は言い詰めてくる。
「トイレをしてたら、急にあいつらが水をぶっかけてきたからです」
先生の目を真剣に見つめ正々堂々、正直にあったことを赤裸々に話す。
「でもな、お前のやったことは暴行罪、傷害罪立派な犯罪だ」
正論を言いつけられてぐうの音を出なかった。
しかし、いじめがあったことは報告したい。
「あいつらは、毎日、毎日常習的に咲希に嫌がらせを繰り返しいじめてきた。それはどうなんですか先生」
俺は今娘の体だがもう関係なく保護者としての意見をぶつけた。
「その話は、後で聞く」
「後っていつですか!」
思わず声を荒げて大声を出してしまう。
その瞬間、職員室は静寂に包まれ大勢の先生は俺をガン見してした。
その静寂と視線を気にせず、ジャージの先生は口を開く。
「それは、お前の停学期間が終わってからだ。飯島咲希、生徒指導部から処分を言い渡す。お前を、1週間停学処分とする」
ジャージの先生は、生徒指導の先生だった。
そして、生徒指導の先生は右手に反省書、左手には停学通知書を持って俺を睨みつけた。
その紙を見て俺は絶望した。
咲希に顔向けできない。
それと同時に、先生への怒りが込み上げてきた。
(いじめをほっといてこの始末かよ…)
「本当に、停学期間が終わったら話聞いてくれるんですか?」
「ああ、聞くよ」
生徒指導の先生は、白々しい態度でそう言う。
(この問題、思ったより闇が深いな…)
俺はそう察し、素直に2つの紙を受け取った。
そして、永遠に思えるぐらいの説教聞かされそれを耐え凌いだ。
もう6限のチャイムは鳴り終わり廊下がざわつき始めた。
早い生徒は下校しているのだろう。
「これで、話は終わりだ。お前は、明日から1週間停学だ。停学期間が終わったら殴った浅沼さんにちゃんと謝るんだぞ」
「はい」
俺は、これ以上拘束されたくないので感情を押し殺して黙って返事をする。
「失礼しました」
職員室出ると、そこには梨沙が咲希のバッグを持って立っていた。
「はい、咲希のバッグ。帰ろ…」
「あ、ありがとう…」
(こいつ、本当にいいやつなんだな)
俺は、梨沙からバッグを受け取り梨沙と一緒に昇降口へと向かう。
辺りを見ると、生徒の数はまばらになっていた。
おそらく、下校時間のピークは過ぎたのだろう。
「咲希、今日は災難だったね。職員室で何言われたの?」
梨沙が優しく問いかけてくる。
「私、停学になった。だから明日から1週間学校に来れない」
「えっ!?」
梨沙は、目を大きく開けて驚いた様子だった。
「ごめん」
「いや、咲希は悪くないよ。こんな言い方良くないかもしれないけど休んでる間ちゃんと心と体休めてね」
「うん、ありがとう」
梨沙は、落ち込んだ様子から笑顔に戻っていた。
そして、何かに気づいて喋り出す。
「あ、半田くん」
俺は、梨沙から視線を前に直す。
そこには、さっきの前髪男が立っていた。
「よお、飯島大丈夫だったか?」
「う、うん…」
適当に返事をする。
それは、こいつが咲希じゃないことを100%ではないかと思うが見抜いているのでさっさと話を終わらせて帰りたかったからだ。
「わりぃ、梨沙さん俺ちょっと飯島と話あるから先帰っててくれない?」
梨沙が半田と言っていた前髪男がそう言ったので俺は背筋が凍ったような感覚になった。
「咲希帰り1人で大丈夫?」
「いや、待っててほしいな」
そう言うと、半田は横槍を入れてくる。
「俺が、飯島を家まで送るから大丈夫だよ」
半田が作り笑いのような不気味な笑顔でそう梨沙に話す。
「じゃ、じゃあ私2人の邪魔しちゃ悪いし帰るね」
梨沙は、そう言うと靴を履き替えて帰ってしまった。
(り、梨沙…)
そして半田と2人きりになると、あの作り笑いから急に真顔になって俺を問い詰める。
「飯島咲希の偽物、お前職員室で何があった」
「ちょっと、怒られただけだよ。しかも私は本当の咲希だよ」
無理だと分かっているが一応抵抗する。
「じゃあ、昨日古典の時間怒られたクラスの人の名前言えるか?」
(えっ。やっべ。昨日のこと?そんなの分かるわけないだろ)
「えー誰だろう忘れちゃった」
そう言うと、半田は真顔で俺を見つめてきて答えを言った。
「飯島、お前だよ。お前、昨日古典の時間ずっと机に突っ伏してて怒られたじゃん。まさか自分が怒られてことを忘れるなんてな」
呆れたような物言いで昨日のことを話してきた。
「そ、そうだったね笑」
俺は、引きつった作り笑いをして誤魔化そうとした。
もう日は暮れ辺りは暗くなりカラスが鳴く中、半田は一言囁くように真顔で問いかけてきた。
「お前、入れ替わってるだろ」
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