八郎為朝、押して参る!

 妖狐や傾国の美女として名高い、玉藻の前。その子供として生まれたのが主人公の八郎だった。しかし父親は妊娠期間の短さから、主人公が自分の子ではないのではと疑い、厳しく当たる。そんな中で育った主人公の性格は、よく言って磊落。悪く言えば短気で焦慮だった。
 しかし、父親から見張り役として与えられた青年は、主人公が小さな器ではなく、狭い世界に留まる人材ではないことを見抜いていた。そして商人として様々な人を見てきた老爺もまた、主人公が大器だと見抜き、青年にアドバイスを与える。
 そして主人公は武芸の道を極めながらにして、寺に預けられる。そこで主人公は真理を追究して日々を送る兄弟子に出会い、深く自分や世界を考えるようになる。その寺にいるときに出会ったのが、後に主人公に付き添うことになる面々だった。
 寺から俗世に戻った主人公は、海を越え、大宰府を目指すことになるのだが、この時代の海では海賊ともいえる海軍が縄張りを主張し、交易船を襲うような荒れた世界だった。
 主人公一行は、果たして海を越えて大宰府につけるのか?
 そして、主人公が目指す政のあるべき姿とは?
 主人公がこれからどうしていくのか?

 歴史小説において実在の人物を扱うとなると、歴史好きな読者にはストーリーがばれてしまうということになる。ここが歴史ものの難しさだろう。
 しかしこの作品は、幼少期の主人公が成長するにつれて、様々な人々と出会うことで、主人公の心が変化していく様を見事に描き切っている。例えば幼少期に磊落すぎる性格だった主人公が、戦に勝っても胸にむなしさを感じたり、武芸以外にも人と通じることを学んだりしていくのだ。この繊細な心の機微と、歴史的な考証の正確さが相まって、ストーリーの先は読めるのに、話の展開は読めないという、巧みな物語を生み出している。歴史好きではない小生も、あっという間に最新話まで拝読してしまうほどの面白さが、ここには詰まっている。

 歴史が好きでも嫌いでも、御一読をお勧めします。

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