第9話 ネットで高額なレトロゲームは意外と中古ショップのまとめ買いコーナーに埋もれていたりする
通学路がアッピラ街道に見えるのは、俺の海馬がイかれちまったからだろう。
そりゃそうさ。神様が妹と化して今日の予定は魔法少女との遭遇となりゃ、誰だって気が狂うに決まってる。
信じられるか? そんな非現実のまっただ中だってのに、コンビニ前で中年と思わしき頭部が寂しげなおっちゃんがタバコを吹かしてるんだぜ?
まったく、現実ものか異世界ものかはっきりしてほしいもんだ。
などと思いながら横目に妹を窺えば、感嘆を漏らしながら方々を見渡している。
「綺麗ですね。地球って」
木漏れ日に目を細めながら、天は快晴の空を見上げる。
桜舞い散る並木道はセラピー効果抜群だ。この道を歩き慣れた俺ですら効果が継続しているのだから、今日がはじめての天の内で舞い上がる高揚感は天をも摩するものだろう。天だけに(なんちってっ)。
この町は山を越えなきゃスーパーがないド辺境ということもなく、朝から晩までネオン光線が絶えない都心ということもなく、自然と人工物が仲良く手を取り合っている住み心地抜群の超大当たりスポットである。
不満点を上げるなら、近辺に高校が一校しかなくて進学先はほぼ一択、ということくらいだろう。ちなみに中学校は四高、小学校は六校ある。
市長はこのアンバランスを解消するつもりがないのかね。
商店街はそこそこに栄えている。TVで特集された商品は予定通りに入荷されて陳列されるし、新作ゲームの発売日は開店前の店に長蛇の列ができる。
最近だとレンタルショップやら古本屋なんかにも同じように新作ゲームが配送されていてそっちがなかなかに穴場なのだが、しかしそれはゲーマー界隈では周知の事実で、姉貴や百合クラスになると一日早くゲームが買えるという幻のスポット『駄菓子屋』に陽も昇らない内に突撃して、陽が暮れた頃にはオタク特有の早口で総評会を開催している。
あの二人のおかげで、俺の趣味はまだまだ趣味の領域なんだなって胸を撫で下ろすことができる。二人に並ぼう、なんて心意気はさらさらない。
しかし百合は剣道で全国大会出場、姉貴は生徒会長という輝かしい成績を収めているのだが、なんだろうなこの厭世観は。神の采配を疑いたくなるね。
それからほどなくして
ここが異世界人の巣窟だなんて話を一体誰が信じようか。
マザーテレサも俺の脳内を疑うだろうさ。
生徒玄関までのやたら長いアスファルトの道を歩きながらなんの気なしに屋上を見上げると、見るからに怪しいショートカットの女生徒が目に映った。
手を胸に添えたり、勢いよく正面に突き出したりしている。
「天、あの子か?」
訊かずと答えは知れたようなものだが、一応確認しておこう。
天は俺の視線の先を追うと、
「はい。魔力を感じます」
へぇ魔力。火球でも放つのかねぇ。
などと他人事のように思いながら少女を見つめるが、依然としてそれらしいことは起きない。
唇が形を変えているから詠唱やら口唱やらをしてると思われるのだが、またも変化なし。肩を竦めたかと思うと、同じことを繰り返しはじめた。
姉貴の言う通り、少女は殊勝に魔法道に打ち込んでいるようだった。どうせ励むのなら剣道か柔道にしてほしいもんだ。生憎、うちの学校には魔法部がないんでね。
「勘違いじゃないか?」
ことごとく不発に終わっているようだが、そもそも彼女が魔力? を秘めたる存在なのかも定かではない。
思案投げ首していると、天がぶるりと身体を震わせた。
「急ぎましょう兄さん! このままでは学校が倒壊してしまいます!」
どうしてそうなる。
「説明は後でします! 兄さん、『彼女の元に行きたい』と願ってください!」
どうやら事態は刻一刻と差し迫っているらしい。
詰問の余地などなく、天は颯爽と生徒玄関に駆けていってしまった。
「……」
えっと、彼女の元に行きたいと願えばいいんだよな?
俺は視界を遮断して、上述したことを願った。……これでいいのか?
不安ながらに瞳を開くと、矯めつ眇めつこちらを眺めるオッドアイ少女が映った。
「…………」
ぱちぱち。ぱちぱち。
こくり。こくり。
鏡写しを先に止めたのは彼女の方だった。
「な、何者ですかっ⁉」
へんてこなファイティングポーズを取りながら尋ねてくる。
わけわからんが、俺は一瞬の瞬きの内にテレポーテーションしたらしい。
俺の目に映るのは見間違えようのない屋上の風景と、つい先ほどまで生徒玄関手前から見上げていた小柄な少女だ。
どういう原理かまるでわからないが、そもそも地球の原理が宇宙規模で適応されているはずもないので、三秒ほどで思考放棄した。
俺が祈ればなんでも叶う。それだけ理解していれば十分だろう。
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