第168話 土魔法の使い手
「へへっ、可愛がってやるよ!」
「今から楽しみだぜ!」
盗賊のうち三人がジーナとカルラに近付いてくる。
一応武器を構えてはいるが、明らかに二人を侮っていた。
これなら――
「いきます!」
「いくぜ!」
油断して近付いてくる盗賊たち3人のもとへジーナとカルラが同時に仕掛けた。
二人とも力も強いが、特筆すべきはその速さだ。ジーナはロングソードを構えて地を駆け、カルラはその両方の翼を広げて一直線に盗賊たちのもとへ飛ぶ。
「なっ、ぎゃあああ!」
「ぶへっ!?」
「ぐはっ、ふげっ!」
ジーナが鞘に入れたままのロングソードで右側にいた盗賊の脇腹を撃ち抜くと、そのまま洞窟の右壁まで吹き飛んだ。カルラが左側にいた盗賊をその勢いのままにぶん殴り、今度は左壁の方へ吹き飛ぶ。
そして返す刀で二人の攻撃を同時に受けた真ん中の男はその場に崩れ落ちてピクリとも動かなくなった。
相手が完全に油断していたとはいえ、やはりジーナもカルラも本当に強い。
「ちっ、だから気を抜くなと言ったのによ。本当に使えないやつらだぜ」
仲間が3人も一瞬でやられたというのに、まだ余裕の表情を浮かべている大男。
「カルラ!」
「ああ、わかっているぜ!」
一気に3人の盗賊を倒したジーナとカルラだが、その表情は険しいままだ。
あの大男は見かけだけではなく、本当に強いのかもしれない。
「……ったく。女どもは無傷で捕らえてえんだが、思った以上にやるようだし、そうも言ってらんねえな。少なくとも取引相手が決まっている森フクロウだけは逃がさねえよ」
大男が巨大な斧を構えた。
男も大きいが、その手に持つ斧もかなりでかい。あの体格で大斧を振れば、間違いなく俺なんかは一刀両断されてしまう。ジーナはロングソードを引き抜き、カルラは両手の爪を伸ばす。
「おい」
「あ、ああ」
そしてその大男の後ろに残る男が戸惑いながらも返事をした。
ナイフを構えてはいるが、他の盗賊たちとは若干異った風貌であるあの男の役割はすでに分かっている。
「いくぞ!」
「「っ!!」」
大男が動く。俺が想像していたよりも遥かに俊敏な動きだ。
大斧が地面に突き刺さり、砕けた岩が周囲に飛び、振動がここまで伝わってくる。
「ほうっ、今のをかわすとはやるじゃねえか。部下に欲しいくらいだぜ」
「盗賊の仲間になるわけがない!」
「ああ、まっぴらごめんだぜ!」
ジーナとカルラはその強力な一撃を見事に避ける。
2人にはあのスピードが見えているようだ。しかし、どう見てもとんでもない威力だ。俺が持っている盾でもあの一撃を防げるかは怪しい。
そしてあの大男の攻撃に援護が加わると非常にまずいぞ。危険はあるが、俺も動くしかない。ジーナとカルラがあんな大男を相手に戦っているんだ。俺も覚悟を決めろ!
「うおおおおお!」
盾を構えたまま奥にいる盗賊へ突っ込む。
「ちっ」
「させません!」
「ここは通さねえぜ!」
大男が俺の方を向くが、ジーナとカルラは大男が俺の方へ来るのを防いでくれる。
「雑魚が! ストーンバレッド!」
くっ、動揺もしていないし、魔法の発動も早い。
このアジトを作った土魔法の使い手が魔法を使ってくる。こいつが土魔法を使えることは先に拘束した盗賊たちからすでに聞いた。こいつの土魔法があの大男のパワーが加わると面倒なことになってしまう。
「ぐっ……」
何もないところに突然岩でできた礫が発生し、ものすごい勢いで俺へと襲ってくる。
咄嗟に持っている大盾で全身を隠すが、盾越しにでもかなりの衝撃だ。
「ふん、このまま押し潰してやる!」
まったく近付ける隙がない。もう少し近付かないとクマ撃退スプレーの射程には入れない。
くそっ、どうしたらいい……?
「ホホー!」
「フー太!」
俺の背後からフー太の声が聞こえた。まさか、そのまま突っ込む気か!
「くっ!」
しかし、土魔法の使い手が突然魔法を解除した。連続して襲ってきた岩の礫が突然止まる。
「ストーン――」
「そこだ!」
プシュウウウウ
「ぐわっ、なんだこれは! ぎゃああああ、目が、目がああ! げほっ、がほっ!」
相手が森フクロウであるフー太を傷付けまいと異なる魔法に切り替えようとしたところで、盾を置いて走りだして噴射したクマ撃退スプレーが土魔法の使い手に直撃した。
唐辛子の辛み成分であるカプサイシンは目や呼吸器官に強烈な刺激と痛みを与える。ジーナから聞いた話では魔法を使用する時はかなり集中力を使うらしい。目と喉の痛みに苦しんでいる状態で魔法を発動することはできない。
「ホー!」
「ちょっ!」
まだ少しスプレーの効果が残っているというのにフー太が男へと突っ込む。
「ぐえっ!」
そして高速で飛翔し、男へ衝突する瞬間にその身体が巨大化して衝突する。ものすごい衝撃に土魔法の使い手が思いっきり後方へ吹き飛び、そのまま動かなくなった。
あれだけ高速で飛んでいた身体が一気に俺よりも巨大化して衝突したのだ。下手をしたら、さっきのジーナとカルラの攻撃よりも吹き飛んだかもしれない。
「ホ~」
「よかった無事だったか……。でもあまり無茶はしないでくれよ」
「ホーホホー♪」
戻ってきたフー太に怪我はなさそうだ。クマ撃退スプレーは目とクチバシを閉じて突っ込んだようでダメージは受けていないようだ。
俺を心配して突っ込んでくれた気持ちは嬉しいけれど、あの男が森フクロウであるフー太を傷付けないように魔法を止めなかったら、大怪我をしていたかもしれない。
別の土魔法を使おうとしていたし、おそらく空を飛ぶフー太を捕らえられる魔法を使おうとしたのだろう。本当にクマ撃退スプレーが間に合って良かった。
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