第167話 盗賊


「皆さん、止まってください!」


 前を進むジーナが待ったをかける。慌てて止まると、目の前に人影が現れた。


「おっと、まさかこんなところにネズミが入り込むとはな」


 人数は5人。全員がその手に武器を持って俺たちの前に立ち塞がる。


 くそっ、あと少しでアジトの出口に繋がる通路へ出られたのに、一歩遅かった!


「ったく、見張りは何をしていたんだよ。使えねえなあ」


「お、親分! 森フクロウが二羽いますぜ!」


「なに! ……なるほど、捕まえられたお仲間を取り戻しに来たってことか。騎士どもじゃなくてほっとしたぜ」


 親分と呼ばれた一際大きな男。人相が悪く、顔にも傷跡があり、いかにも盗賊のボスという雰囲気だ。そしてその手には巨大な斧が握られている。


 戦闘になりそうなため、コレットちゃんを下ろして盾を構えた。コレットちゃんもさっきの音から回復したみたいだ。


「高値で売れる森フクロウをもう一羽連れてきてくれるとはありがてえな。他のやつに持ち逃げされねえように付けておいた魔道具が役に立ったようだぜ」


 ……そうか、あの檻に付いていた警報音が鳴る魔道具については他のやつは知らなかったのか。道理で拘束した盗賊たちが誰も知らなかったわけだ。


 拘束した盗賊たちはアジトのことをすぐに話したし、おそらくボスは自分の部下を信用していなかったみたいだな。盗賊団の絆なんてそんなものか。


「親分、しかもこっちは上玉のエルフの女だぜ。それにそっちの女も上玉だ!」


「おい、あいつは龍人族だぜ。きっと高値で売れるぞ!」


 下種な目でジーナやカルラを見る盗賊たち。やはりこいつら盗賊はろくでもない連中だ。


 少なくともこの国には奴隷という仕組みはないみたいだが、裏でそういうことをする腐った連中はいるのかもしれない。


「あのちっこいのはどうだ?」


「あいつは……おいおい、黒狼族じゃねえか! 親分、あれは駄目だ。うちの村じゃ不吉の象徴って呼ばれていますぜ」


「そんなやつもいるのか。じゃあ、あいつはいらねえな」


「………………」


 コレットちゃんを物のように見て、こいつらは本当に不快だ。もちろん盗賊たちに目を付けられない方がいいに決まっているが、それはそれである。


「……なあ、シゲト。こいつらを黒コゲにしてもいいか?」


「気持ちはわかるけれど、それは最後の手段だ」


 コレットちゃんを悪く言われて怒るカルラの気持ちはよくわかる。


 俺もこいつらを黒コゲにするのには賛成だが、洞窟内でカルラのブレスを使うのは俺たちも酸欠になるリスクがある。洞窟内は数人が通れるくらいには広いが、どのくらいで酸欠になるのかわからない。それに相手の実力もわからない状態でいきなり切り札を切るのはまずい。


 同様に洞窟内では生き埋めになる可能性がある以上、燃料を爆発させる手段も使うことができないため、それもキャンピングカーの中に置いてきた。


「すでにこの場所は街の騎士団に通報した。さっさとここから逃げた方が身のためだぞ!」


「なんだと!」


「親分、騙されちゃ駄目ですぜ。それならこいつらだけでここまで乗り込んでくるわけがねえっすよ!」


「そ、そうか! 危うく騙されるところだったぜ」


 一応駄目元で言ってみたが、さすがに引いてはくれないか。


 もしあの道を通った人が拘束した盗賊たちを街まで連行してくれたとしても、そこから討伐部隊を組んでここまで来るのにはかなりの時間を要するはずだ。


「そっちの男と黒いチビは殺しても構わねえが、森フクロウと女2人は絶対に殺すんじゃねえぞ。女2人はそこそこやるようだから気い付けろよ」


「へい!」


「了解っす!」


 盗賊たちが武器を構える。


 投降する気はないようだが、やつらはフー太たちだけでなく、ジーナとカルラも無傷で捕らえようとしているみたいだ。確かにどう見ても強そうな集団に見えないからなめられていても当然か。傍から見たら珍しくてか弱い女子供の種族と1人の村人が集まっている集団にしか見えない。


 一応親玉だけは多少はジーナとカルラの強さが多少は分かるらしい。やはりあの斧を持った大男は要注意だ。


 すでにこちらが別の盗賊たちを拘束して情報を得ていることはバレておらず、敵の情報をある程度掴んでいる。そして完全に俺たちを侮っていることはこちらのアドバンテージだ。


「コレットちゃん、スプレーを貸して。それと一番後ろに下がっていてね」


「う、うん」


 コレットちゃんからクマ撃退スプレーを預かる。


 いつもは俺よりも身体能力の高いコレットちゃんが使っているクマ撃退スプレーだが、やつらはコレットちゃんには手加減しない。それにまださっきの音の影響が残っているかもしれないし、盾を持っている俺が使うべきだ。


「二人とも気を付けてね。防御を中心で頼む」


「はい、わかりました!」


「おう!」


 出口へ通じる道が塞がれている以上、なんとか隙を突いてこいつらを排除するしかない。

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