第166話 もう一羽の森フクロウ


「………………」


 先頭を進むジーナの後ろでコレットちゃんが指を差してみんなに道を教えてくれる。この薄暗い洞窟の中ではコレットちゃんの聴覚と嗅覚が頼りだ。


 ここからは盗賊たちにバレないよう小声すらも出さない。広い洞窟だから足音がそれほど響かないのは助かる。拘束した盗賊たちから集めた情報によると通路に罠はないようだが、慎重に進んで行く。


 こんなに大きな洞窟をどうやって作ったのかというと、盗賊の中に土魔法を使えるやつがいるらしい。ジーナの風魔法やカルラのブレスのようにああいった力は非常に強力なので、いつも以上に警戒しなければならない。


 これほど立派な住居を作れるのなら盗賊なんてしてないで真面目に働けよとも思うが、人には様々な事情があるのかもな。


「………………」


 コレットちゃんが耳をピンと張りつつ、ひとつの扉の前まで案内してくれた。奥の方からは人の声が聞こえてくるが、ここからは聞こえてこない。


 合図をしつつ、盾を持った俺が扉を開ける準備をする。ジーナはロングソードを構え、カルラは爪を伸ばして突入の準備をした。この扉には鍵は掛けられていない。さすがに盗賊のアジトへ盗みに入るようなやつはいないという判断だろう。


 扉をゆっくりと開けて中を見る。ここまでは明かりがあったが、この部屋には明かりがなくて真っ暗だ。


 少なくとも人の気配はしないようだな。今ライトを――


「ホー!」


「フー太!?」


 アウトドア用のランタンを出そうとしたところでフー太が先走って中に入ってしまった。急いで声が漏れないように部屋の中へ入って扉を閉めた。


「ホホー!」


「ホホーホー!」


 持ってきていたランタンを点けると、ここは小さな部屋のようで、周囲には武器や防具、その他様々な物が散乱していた。そして部屋の真ん中には大きな檻があり、その中にはフー太と同じ森フクロウが捕らえられていた。


 フー太よりも少しだけ小さいが、同じように真っ白でもふもふとした羽毛にクリッとしたつぶらな黒い瞳。どうやらこの子が捕らわれていた森フクロウで間違いないようだ。他に捕らえられている人や魔物はいないようでほっとした。


「俺の言葉がわかるか? 君を助けに来た。盗賊たちにバレないように小声で頼む」


「……ホー!」


 やはりフー太や幻のオアシスにいた精霊と同じように俺の言葉が理解できるらしい。最初は両方の翼を広げ、威嚇していたようだが、仲間のフー太と俺の言葉で落ち着いてくれた。


「ホーホホー?」


「ホーホー!」


「ホー!」


 フー太と森フクロウが小声で会話をしている。俺の言葉だけでなく、同族の言葉はわかるらしい。


「フー太様と一緒だね!」


「大きさもほとんど同じだから、フー太と見分けがつかなくなりそうだぜ」


「ええ。ですが、胸の模様が微妙にフー太様と異なりますよ」


 みんなの言う通り、フー太とこの森フクロウはとても似ていた。歳も近いのか、鳴き声や大きさもほとんど同じだ。しかし、唯一胸の黒い紋様が微妙に異なっている。


「とりあえず話はあとにして早くここから出よう。ジーナ、この檻は壊せそうか?」


 森フクロウが捕らえられている檻は森フクロウの身体の何倍もある巨大な金属製の檻だった。フー太と同じ身体が大きくなって抜け出せないようにしているのだろう。森フクロウを捕らえたあとにわざわざ作ったのかもしれない。


 ジーナのロングソードと剣技があればいけるか?


「……はい、問題なさそうです。せいっ!」


 ザンッ


「やった!」


 目にも留まらぬほど鋭い彼女の斬撃は森フクロウが閉じ込められていた檻の金属を見事に両断した。


「ホホー♪」


「ホーホー!」


 檻から捕らえられていた森フクロウが出てくることができた。


 檻から出てきた森フクロウはフー太と一緒にじゃれ合っている。これで目的は達した。


「よし、早くここから――」


 ビービービー


「なっ!?」


 無事に森フクロウを奪還し、このまま盗賊のアジトから脱出しようとしたその時、ジーナが破壊した檻からけたたましい音が鳴り響く。


 この部屋が小さいこともあって、ものすごい音量だ。思わず両耳を塞ぐ。


「シゲト、そいつだ! おらっ!」


 カルラが鋭い爪で檻についていた鈴のようなものを貫くと、けたたましい音が止まった。


「防犯用の魔導具のようですね。すみません、私のせいで……」


「いや、今のは俺の責任だよ。それよりも早く脱出しよう!」


 今回は指示を出した俺のせいだ。盗賊たちに見つかることなく森フクロウを救出することができたこともあって気が緩んでしまい、檻の確認を怠ってしまった。


 くそっ、最後の最後でやらかしてしまった!


「ううう……」


「コレットちゃん、俺の背中に掴まって!」


 今の警報音によって、耳のいいコレットちゃんがうずくまっている。一応歩けるみたいだけれど、少しフラフラしていた。


 大きな盾を持っているから、抱っこするよりも背中にしがみついてもらって、盾を後ろ手に回した。俺よりもジーナの方が力はあるけれど、今の音を聞いてやってくる盗賊たちと戦闘になる可能性が高い。


 コレットちゃんはかなり軽いとはいえ、巨大な盾の方がかなり重い。レッドドラゴンの時もそうだったが、火事場の馬鹿力とでもいうのか、人間必死になれば信じられない力が出るものだ。


 みんなで急いでアジトの出口へ向かって走った。




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