第156話 友人との別れ


「もしかして、この果物の実をくれるの?」


「「ピィ!」」


 頷く二人の精霊。


 どうやらこの果物の山を俺たちにくれるらしい。


「こんなにたくさん……本当にいいの?」


「「ピィ」」


 目の前には百個以上の果物の実があった。こんなにもらってもいいのかとも思ったけれど、よく見ると昨日収穫したはずの木の上にあった実がいつの間にか増えていた。


 精霊はこんなこともできるのか。


「ありがとう。みんなで食べさせてもらうよ」


 せっかくの精霊さんの厚意だ。遠慮なくいただくとしよう。


「すっげ~! こんだけあれば当分はデザート食い放題だぜ。サンキューな、ちびすけ!」


「どれも本当においしかったですからね。ありがとうございます」


「精霊様、本当にありがとうございます」


「「ピィ!」」






「また来るよ、本当にありがとう!」


「精霊様、またね!」


「またな~チビ助ども!」


「ありがとうございました!」


「ピィ!」


「ピィピィ!」


 もらった果物をすべてアイテムボックスの中に収納し、最後にみんなで一緒に朝ご飯を食べて、幻のオアシスをあとにする。


 精霊の二人はキャンピングカーを最後まで見送ってくれた。


「また来ようね、シゲトお兄ちゃん!」


「土産もたくさんもらっちまったしな。久しぶりに人目を気にせずのんびりできたし、楽しかったぜ!」


「ホーホー!」


「そうだね、この三日間は本当に楽しかったよ。また遊びに来よう!」


 幻のオアシスを出発し、トレドーレ砂漠をキャンピングカーで走り、トレドーレの街を目指している。


 みんなよっぽど楽しかったようで、車内でもオアシスの話題ばかりだ。友達になった精霊さんたちにも会いたいし、また来るとしよう。


「………………」


 しかし隣の助手席に座っているジーナだけはあまり楽しそうな顔をしていない。


 昨日まであんなに楽しそうに遊び、フルーツパフェをおいしそうに食べていた様子が見る影もないのはこのオアシスでの思い出がつまらなかったわけではないのだろう。


 むしろ最高に楽しかったからこそ、このあとに待っている別れが寂しくなるに違いない。仲良くなった精霊さん二人と別れたことで、そのことがより感じられたのだろう。


 ジーナと出会ってからのこの一月は本当に楽しかった。できることならこのままみんなと一緒にこの異世界を旅していたい。とはいえジーナにはハーキム村という帰る場所がある。う~ん、ジーナの護衛を延長できないか、ジーナと村長さんに相談してみようか迷うところだ。




『目的地まで到着しました』


 カーナビが目的地周辺に到着したことを告げる。


 幻のオアシスを離れ、何度かタイヤが空回りしたのを車外に出てキャンピングカーを収納し直すこと数回、無事にトレドーレ砂漠を超えて、元来た砂漠の入り口付近にまで帰ってきた。


「よし、ここからは歩いて戻ろう」


「ホー」


 キャンピングカーを透明化しており、ここからは他の人は見えないが、もう少し進むとトレドーレ砂漠を観光しに来た人が大勢いる場所になる。ここからはみんなで歩いてトレドーレの街まで戻る。


「せっかくなら少しだけ遊んでいこうか?」


「うん!」


「そうですね。あの魔物に乗るのは少し面白そうです」


 真っ黒な砂漠の丘の部分を歩きながら、来る時に地元のおっちゃんから聞いていた話を思い出す。確か大きな砂丘からボードで滑り降りる遊びや魔物の背中に乗れる遊びができたはずだ。


「……楽しそうだったけれど、少しにしておこうぜ。やっぱこの周辺はちょっとあちいからな」


「ホホ―……」


「そうだな。一番暑くなる昼よりも前には切り上げよう」


 この熱された黒い砂漠の中で、龍人族であることを隠すために外套を羽織っているカルラの言う通り、ここは泉や木々のあるオアシスの何倍も暑い。さっきまで冷房の効く車内にいたからより暑く感じてしまう。


 暑さに強いはずのカルラがこれだから、フー太やコレットちゃんも相当熱いに違いない。


 とはいえ、こういった観光地で楽しめる機会はそこまでないので、その土地で楽しめる料理や遊びはしっかりと体験しておかないとな。


 ……たとえそれが観光地限定のぼったくり価格であったとしても多少は財布の紐が緩むというものである。




「いやあ~面白かったな! あの砂の丘を滑り降りるやつは空を飛ぶのとは違った感覚で楽しかったぜ!」


「僕は口の中が砂だらけになっちゃったよ!」


「砂の上だから転んでも全然痛くなかったね。ただ、黒い砂は熱かったから、転んだらすぐに飛びあがっちゃったな」


 砂漠入口の海の家的なお店でサーフボードより少し小さいくらいの板を借りて、砂丘の上まで登り、滑り降りる遊びをした。なだらかな丘を滑り降りるのは本当に楽しかった。


 子供のころに大きな滑り台のある公園で段ボールを使って滑り降りたのを思い出したな。しかも周りはすべて砂だから、転んでしまっても全然痛くなかった。


 黒い砂はとても熱くて、そのまま寝っ転がっていたら火傷しそうなくらいだったけど。あと今日のシャワーは念入りに浴びておいた方が良いな。俺も髪の毛の中に砂が入り込んでしまった気がする。

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