第152話 お友達


「確かにこの者はシゲトの言葉を理解しているようにも感じられますね」


「もしかしてフー太様と一緒なのかな?」


「フー太と……?」


「ホー?」


 フー太が首を傾げる。


 言われてみると、フー太はみんなの言葉はわからないが、俺の言葉だけは理解できていた。もしかするとこの精霊も俺の言葉が理解できたりするのか?


「精霊さん、右手を挙げてもらってもいいかな?」


「ピィ!」


「………………」


 俺がそう言うや否や、精霊さんがその小さな右手をピンと挙げた。


「精霊様、左手を挙げていただいてもよろしいでしょうか?」


「ピィ?」


 ジーナの言葉には首を傾げる妖精さん。


 どうやら本当に俺の言葉だけを理解しているようだな。フー太の時と全く一緒だ。やはりこれは俺が異世界から転移してきたことと関係があるのだろうか。


 他の魔物には俺の言葉は通じなかったし、ドラゴンの時は俺の言葉は通じていなかった。ジーナたちとは普通に話すことができているし、いったいどういう仕組みになっているのだろう? まあキャンピングカーの能力も完全にはわからないし、今更か。


 ……やはりそう考えると、あの時ドラゴンに狙われていたのは俺ということのなるのかな?


「そういえば、このオアシスで遊んだり、果物をもらったりしちゃったけれど、大丈夫かな?」


 自然に宿る精霊というのなら、この子はこのオアシスの精霊なのだろう。一応汚したり、生態系を壊さないように配慮はしてきたつもりだけれど、ここにいる俺たちを追い出しに来たというわけじゃないよね?


「ピィ」


 精霊さんが頷く。どうやら俺たちを咎めに来たという訳ではないらしい。


「お代わりもあるけれどいる?」


「ピィピィ!」


 いろいろと考えている間に精霊さんがフルーツパフェを食べ終わった。俺の言葉に手を挙げて返事をする。この子の大きさからしたら結構多いと思ったのだけれど、よく食べるなあ。


 ちょうどみんなの分のお代わりを持ってくる途中だったし、この子の分も持ってきてあげるか。




「そうそう、そんな感じでカットしたフルーツと生クリームを交互に挟んでいく感じだよ」


「うん、わかった!」


「色鮮やかでとても綺麗ですね。それに味も甘くて本当においしいです」


 お代わり分のフルーツパフェをコレットちゃんとジーナにも手伝ってもらいながら作っている。カルラとフー太には外で精霊さんと一緒に待ってもらっているところだ。


 生クリームはボールでホイップしてあるが、絞り袋なんかがあればいろいろと他のお菓子も作れるようになる。異世界では売っていないと思うが、似たような物を探してみてもいいかもしれないな。


「最後に上へアイスクリームを載せれば完成だよ」


「できたあ!」


「ええ、見事な出来栄えですね」


 精霊さんの分を含めてみんなの分も完成した。


 今回はお代わり分なのでちょっと少なめだ。でも俺が盛り付けた時よりも綺麗かもしれない。こういったセンスは俺にはないからな。


「ピィ」


「うわっ!?」


 声がした方を向くと、いきなり俺の左肩に先ほどの精霊さんが乗っていた。


「びっくりした……。キャンピングカーの中にも現れることができるのか……」


「すっごいね!」


「ええ。そんなこともできるのですね」


 冷房の冷気を逃がさないためにキャンピングカーのドアは閉めていたのに、どうやらそれを無視して移動できるみたいだ。それに俺の左肩へ乗っているのにまったく重さを感じなかった。


 本当に精霊というものは不思議な存在だ。


「シゲト、ちょっと来てくれ!」


「ホ、ホー!」


「ああ、今行くよ」


 キャンピングカーの外からカルラとフー太の声が聞こえた。きっと精霊さんがいきなりこっちに来たから驚いているのだろう。


 お代わり分のフルーツパフェも完成したし、外に持って行ってあげよう。




 完成したフルーツパフェをジーナとコレットちゃんと一緒に運ぶ。精霊さんは俺の左肩に乗ったままだ。


 そしてキャンピングカーの外には思ってもいない光景があった。


「「「………………」」」


「精霊が消えたと思ったら、いきなり女になっちまったんだ。あれっ、なんでシゲトの肩にそいつが乗ってんだよ!?」


「ホホ―!?」


 二人の驚いた声は精霊がキャンピングカーの中へ移動してきたからと思ったのだが、テーブルにまた突然小さな女の子の精霊が現れたからだった。


 さっきまでいた男の子の精霊は俺の肩にいる。その精霊とは別に女の子の姿をした精霊が増えていた。


「君のお友達かな?」


「ピィ!」


 俺の問いに肩にいる男の子の精霊が頷く。どうやら他にも精霊のお仲間さんがいるらしい。


「フルーツパフェって言うんだけれど、君も食べるかな?」


「ピィ!」


 女の子の方の精霊さんも俺の言葉が分かるらしく頷いた。まあ、ひとり増えたくらいなら問題ないか。


 さすがに何十人もお友達を呼んできたらさすがに考えるが。




 二人の精霊さんはフルーツパフェに満足したようだった。そのあとは再び泉でのんびりと過ごした。精霊さんはそれ以上増える様子もなく、みんなと一緒にのんびりと楽しんでくれたようだ。


 精霊さんは空も飛べるらしく、フー太と一緒に泉の上で飛び回りながら遊んでいる。その様子をキャンピングカーの隣に張ってあるタープの下から眺めているだけでも十分に癒された。

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