第144話 トレドーレ砂漠


「ホー……」


「うん、僕もけっこう暑いかも……」


 外套をかぶったカルラだけでなく、羽毛に覆われたフー太と黒色の髪の毛や尻尾をしたコレットちゃんも暑そうにしている。


 アステラル火山の山頂にいた時よりも暑いかもしれない。


「おっ、兄ちゃんたちは観光か?」


「はい、ちょうどさっき着いたところです」


 みんなで黒い砂漠の前に立ち尽くしていると、隣にいた4、50代の男性が話しかけてきた。


 この人や俺たち以外にも数人の観光客らしき人たちがいる。


「さすがにそんな格好じゃあ暑いだろ。今はまだ涼しい時期だが、本当に暑い時はパンツ一枚でも暑いからな」


「これで涼しい時期なんですね……」


 話し掛けてきたおじさんはタンクトップのような服に短パンという完全に夏仕様の服装だ。


「もしかして砂漠をそのボードで滑るんですか?」


「ああ、これがなかなか楽しいんだよ。街からここまで来るのもいい運動になるし、休みの日はこいつで楽しんでいるってわけさ」


「へえ~面白そうですね」


 おじさんは2メートルほどの長い木の板を持っていた。どうやらこの砂漠の丘になっている部分から木の板に乗って滑って遊ぶようだ。


 他にも同じようなことをして遊んでいる人もいる。なるほど、そんな遊びも面白そうだ。


「あっちの方で貸し出している店もあるから、よければ試してみるといい。他にも魔物に乗ってトレドーレ砂漠を歩き回ったりもできるぞ」


「なるほど、それも面白そうですね」


「魔物にも乗れるんだね」


「うまい飯とかもあんのか気になるぜ」


「ホー!」


 おじさんが指差す方には小さな建物がいくつかあり、遊具の貸し出しや魔物のレンタルをおこなっているらしい。


 エジプトの砂漠ではラクダに乗れると聞いたことがある。どこの世界でも観光地で考えることは一緒のようだ。


「……なんとも変わった面子だな」


「ええ、縁あってみんなで楽しく旅をしています。そういえば、このトレドーレ砂漠の夜は寒かったりしますか?」


 おじさんはコレットちゃんを見てもそこまで忌避感を現さなかったけれど、念のため話題を少し変えた。


「ああ。兄ちゃんは初めて来たのに良く知っているな。確かにこの砂漠は日が落ちると一気に寒くなるから、ここで遊ぶのなら夕方くらいには引き上げた方がいいぞ」


 そのあたりは元の世界の砂漠と同じようだ。


 元の世界にいたころ何かの本で読んだのだが、砂漠は昼間40度を超えるのに夜はマイナス10度以下まで下がることがあるらしい。


 熱は地面や植物、空気中の水分によって蓄えられている。しかし、砂漠には植物がほとんど生えず、空気中の水分はすぐに乾燥し、砂は熱を吸収しやすいが蓄える力は弱いため、日が沈むと一気に冷え込んでしまうようだ。


 この砂漠の砂の色は黒色で普通の砂漠よりも熱され、空気中の水分がより少なくなるから夜は余計に寒くなるかもしれない。事前に聞いておいてよかったよ。


 それにしても、一日の最高気温と最低気温の差が50度近くあるってヤバいよなあ……。そりゃ砂漠では生物が少ないわけだ。


「教えていただきありがとうございます」


「いいってことよ。そんじゃあな、せっかく来たんだからこのトレドーレ砂漠をたっぷりと楽しんでいってくれ」


「ありがとうございました」


「あ、ありがとう」


「あんがとな、おっちゃん」


「ホホー♪」


 いろいろと教えてくれたおじさんにみんなでお礼を伝えた。おじさんはボードを片手に持ち、片手で俺たちに手を振ってから去っていた。


 観光客に優しい地元の人がいる土地ってなんだかいいよな。その分俺たちもごみを捨てたり自然を壊したりしないように注意するとしよう。




 おじさんから話を聞いたあと、観光客やボードで遊んでいる人が多い入り口から少し進んでからキャンピングカーを出し、軽い昼食をとったあと、黒い砂漠の上を走っている。


 魔物にも乗れるそうだったが、みんなと話してまずは先に幻のオアシスとやらを目指すことに決まった。


「うわっ、やっぱり砂の上は走りにくいな」


「砂がすべってうまく走れないみたいですね」


「ホー……」


 先ほどからキャンピングカーのタイヤが結構な頻度で空回りしているっぽい。なんとか走れてはいるが、何度か外に出て様子を見ないとな。


「それにしても外は暑かったぜ……」


「うん……。でもこのキャンピングカーの中はとっても涼しいね!」


「冷房っていう冷たい風を出す魔道具みたいなものなんだ。確かにこれがないと蒸し焼きになるところだったよ……」


 今は冷房をガンガンに効かせているから車内はだいぶ涼しいけれど、冷房がなければヤバかった。


「それに高い山や目印になる物がないし、カーナビがないと間違いなく迷っていただろうな」


 なにせ一面真っ黒な砂漠だ。高い山もないし、一面同じ景色に見える。唯一昇っている日の位置で判断するしかないだろうけれど、時間が経つと動いていくから、それも難しいだろう。


 幻のオアシスとやらは歩いていくと結構な距離があるし、幻と呼ばれるのも納得だ。とはいえキャンピングカーで進めばそこまで時間はかからない。


 さて、何があることやら。

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