第142話 トレドーレの街


「ふあ~あ」


「ホ~」


 朝起きるとちょうどフー太も一緒に起きたところだった。


 相変わらず大きくなったフー太はもふもふとしており、温かくてとても触り心地が良い。


「ん? ああ、昨日キャンピングカーのレベルが上がってベッドが大きくなったんだっけ」


「ホー!」


 なんとなくいつもよりベッドが広く感じたのだが、それもそのはず。特殊機能である空間拡張が追加されたんだったな。


 改めて車内を見回してみると、昨日よりも広くなっていて気持ち的にも余裕がある。やはり家とかもそうだけれど、天井が高くなるとより広々と感じるよなあ。


「シゲト、フー太様、おはようございます」


「シゲトお兄ちゃん、フー太様、おはよう」


「おはよう、ジーナ、コレットちゃん」


「ホー!」


 後ろの寝室で寝ていたふたりもすでに起きているみたいだ。


「ぐかああ~」


「……カルラはまだ寝ているみたいだな。気持ちよさそうに寝ているみたいだから、起こさないであげよう」


 組み立て式ベッドの上からはカルラのいびきが聞こえてきた。随分とぐっすり寝ているようなので小声で話す。


「わかりました。それにしても、キャンピングカーの中が広くなってより快適になりましたね」


「うん! テーブルも広くなってすっごいね!」


 2人もキャンピングカーが広くなったことに驚いているようだ。後ろの寝室は元々2人で寝るには広かったけれど、更に広くなってより快適になったらしい。


 透明化も便利だったけれど、この空間拡張もかなり便利だ。よくキャンプは不便を楽しむのが良いと言われているけれど、異世界をキャンピングカーで旅する場合にはなんでも便利な方が良いに決まっているのである。




「シゲト、前方に街が見えてきましたよ」


「ホホー!」


「おっ、トレドーレの街が見えてきたか」


 カルラも起きてから朝食をとった。そして2~3時間ほどキャンピングカーで走ったところ、俺にはまだ目視できないが、ジーナとフー太にはこの先に街が見えてきたようだ。カーナビの方にも目的地の街が表示されている。


 噂の黒い砂漠はトレドーレの街から少しだけ進んだ場所にあるらしい。直接そちらへ行く前にトレドーレの街で買い物と情報収集を行う。これまでの経験上、観光をするにしても現地で情報を集めてからの方が良いことは分かっているからな。

 

 街の手前でキャンピングカーを降りてキャンピングカーをしまい、カルラには外套を着てもらって街の中へ入った。




「へえ~これはまた随分と家の造りが他の街とは違うな」


「土の壁やレンガ造りの家のようですね。それに家の所々に穴が空いております」


 トレドーレの街の家々はこれまで訪れてきた街とは少し様子が異なっていた。


「ねえ、シゲトお兄ちゃん。ちょっとこのあたりは暑くない?」


「そういえば少し暑い気がするな。そうか、暑さを防ぐための家になっているわけか」


 コレットちゃんに言われてみて気付いたが、そういえばいつもより暑い気がする。さすがにアステラル火山にいた時ほどは暑くないけれど、いつもの上着だとちょっと暑いくらいに感じられた。


 そういえば元の世界でも砂漠のある地域は暑くて雨が少ないという特徴があった。この異世界でもそこは同じなのかもしれない。


 この街の家は茶色や黒色の家はなく、温度の上昇を抑える白色やベージュ色の家ばかりだ。家に穴が多く空いているのも風通しを良くするためだろう。


「ちぇっ、この外套はだいぶ邪魔だな……」


「悪いけれどちょっとだけ我慢してくれ」


「ホー……」


 外套を着たカルラともふもふとした羽毛のフー太はだいぶ暑そうにしていた。


 とはいえ、カルラが外套を脱ぐと面倒ごとが起きる可能性もある。とりあえず情報収集を先にすませるとしよう。




「トレドーレ砂漠は向こうの方角に歩いて1時間といったところだよ。道案内の看板もあるし、同じように砂漠を見に行く人が多いから迷うことはないと思うね」


「ふむふむ」


 市場で買い物をしながら情報収集をする。食料やその土地特有の食材を見ながらその土地に住んでいる人たちに話を聞くことが一番効率がいい。


 情報収集といえば酒場や冒険者ギルドが定番ではあるらしいが、森フクロウのフー太と竜人族のカルラがいるとトラブルが起きるかもしれない。それにお酒を飲めるのが俺しかいないからな。


 今は野菜などを購入しながらお店の犬の獣人のおばちゃんに話を聞いているところだ。


「あとは砂漠の奥の方へ行くと道に迷ってしまうから気を付けるんだよ。なにせ辺り一面真っ黒で目印なんかないからね」


「なるほど、それは怖いですね」


 確かに砂漠だと目印になる物がなければどちらから来たかわからなくなってしまいそうだ。ということはそれなりに広い砂漠らしい。


 だけどその点については心配無用だ。なにせこちらにはキャンピングカーのカーナビがあるからな。


「まあ、運試しで幻のオアシスを探すような人も稀にいるけれど、あまりお勧めはできないね」


「幻のオアシス?」

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