第137話 ロースト
「よし、今日はここまでにしよう」
ノクターラの街を出発して、1時間ほどキャンピングカーで走ったところで少し道を外れて停車する。
少し空が赤くなってきたところだが、今日はここまでだ。
「それじゃあいつも通り手分けをして晩ご飯や他の準備をしよう。そうだな、カルラはアイスクリームを作る手伝いをしてくれ」
「おう、わかったぜ!」
いつもは晩ご飯の準備や洗濯、野営の準備をみんなで手分けをして行っている。カルラも増えてくれて手が増えたのは大きい。
街でホワイトミルブルの乳をたくさん購入できたことだし、みんなの好きなアイスクリームもたくさん作れるようになった。ホワイトミルブルの乳をひたすら混ぜるのは地味に大変だから、力のあるカルラやジーナに任せるとしよう。
そしてここ2日間は街で食事を食べていたこともあって、少し手の込んだ料理を作りたくなってしまった。せっかくのレッドドラゴンの肉がまだいっぱいあることだし、このキャンピングカーで初めてのあれを作ってみるとしよう。
「晩ご飯ができたよ。さあ、食べよう」
調理が終わってキャンピングカーの外に料理を載せたお皿を持っていく。
すでにみんなが準備してくれていたテーブルの上にお皿を載せる。
「あれ、シゲトお兄ちゃん、まだお肉が赤いよ?」
「本当です。お肉は赤いまま食べるとお腹を壊してしまいますよ」
「ああ、これは生に見えるけれど、中にはしっかりと火が通っているから大丈夫だよ。これはローストという俺の故郷の調理方法なんだ」
確かに皿の上に載ったドラゴンの肉の断面は少し赤く見えるが、これはローストドラゴンなのでちゃんと中まで火が通っている。
元の世界でキャンプをしている時によく作っていたローストビーフだが、今回は素材にレッドドラゴンの肉を使い、肉を焼く際にはキャンピングカーに内蔵されているオーブンレンジを使用した。
まずはレッドドラゴンの肉を少し大きめの肉に切り分け、多めの塩コショウとアウトドアスパイスを肉の表面に擦り込む。強火で一気に表面を焼き上げて、しっかりとした焦げ目をつける。
そして予め120度ほどに加熱しておいたオーブンレンジの中に入れて、そのまま30分ほど加熱していく。加熱が終わったところで、金串を肉の塊に刺して肉の中の温度を確認し、しっかりと中まで加熱されていることを確認してから肉を薄く切り分けた。
本来キャンプ場でローストビーフを作る際にはもう少し時間がかかるのだが、やはり文明の利器であるオーブンレンジは便利であったな。
「俺はこれくらいだったら普通に食っちまうけれどな」
「ホホーホー」
「……フー太はともかく、カルラはちゃんと加熱して食べないと駄目だぞ」
フー太は生でも肉を食べられるかもしれないけれど、本来肉はちゃんと加熱をして食べなきゃお腹を壊してしまう。もしかすると竜人族は肉を生で食べられる可能性はあるかもしれないけれど。
「っ!? お肉がとてもジューシーですね! 本当に中は熱が通っていて、おいしいです。それに噛めば噛むほど、濃厚な肉の味が口の中に溢れてきますね!」
「うわあ~とってもおいしいよ! 普通に焼いたお肉とは全然違う味だね!」
「おおっ、こいつはうめえ! まだほんのりと温かいし、この肉にかけているソースがいいな!」
「ホー♪ ホホー♪」
ローストドラゴンの外側は香ばしく焼き上げられており、まだ赤い部分からはじっくりと加熱されたレッドドラゴンの肉の旨みがたっぷりと味わえる。
ローストビーフといえば常温や少し冷えた状態で食べることが多いけれど、こうしてできたばかりのまだ温かい状態で食べるのもおいしかったりするんだよな。
まあ、このローストドラゴンは調理方法というよりも肉自体のおいしさがとんでもないのだが。
「うん、ガーリックオニオンソースとおろしソースはいいな。和風に醤油やめんつゆで食べるのもいいけれど、それならわさびが欲しかったところだ」
「シゲトお兄ちゃん、わさびってなあに?」
「俺の故郷で使われている調味料だよ。少し辛いんだけれど、良い香りがしてさっぱりとしているんだ」
チューブで売っているわさびとかをキャンピングカーに積んでいれば良かったんだけれど、さすがにそれは持ってきてなかった。ステーキやローストビーフなんかはさっぱりとしたわさび醤油も結構好きなのだが惜しいところだ。
「どのソースを掛けて食べてもおいしいですね」
「うん! どれで食べるか迷っちゃうよ!」
以前に作ったガーリックオニオンソースとおろしソースはそのままローストドラゴンにも使えた。濃厚なローストドラゴンの肉の味とよく合っている。
シンプルにアウトドアスパイスで食べてもおいしい。焼き肉のタレは焼き肉の味になってしまうからちょっと微妙か。確か肉に塩コショウをつけ込む際に焼き肉のタレに漬けるという方法もあったはずだから、今度はそっちで試してみるか。
それにしても色々な料理を試してみるのも悪くないものだな。せっかくこのキャンピングカーにはオーブンレンジがあることだし、パンやクッキーだけでなく、こういった料理にも挑戦してみるとしよう。
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