第128話 焼き立てパンとベーコン


「それじゃあ、まずはこっちのパンから食べてみようか。とりあえず見た目は良い感じで焼けているね」


「こんなにふわふわしていて柔らかいパンは初めて見ました。これが酵母というものの力なのですね!」


 このパンはレーズンのような果物を使った天然酵母液を使用して焼いたパンだ。いくつか作ってみた天然酵母液の中で、こいつが一番泡を出していたから期待している。


 もちろん単純に泡がたくさん出てればいいというものでもないとは思うけれど、こねた生地はちゃんと膨らんでいたし、焼き上げたパンはいつものパンと比べると遥かに柔らかかった。


「うわあ~すっごくいい香りだね!」


「おう、すっげ~うまそうだぜ!」


「ホホーホー!」


 まだ焼き立てのパンを半分に割ると、中からは白い湯気と共においしそうな小麦の香りが広がっていく。この世界の小麦は元の世界の小麦のように完全に真っ白というわけではないけれど、それでもめちゃくちゃおいしそうである。


「うん、食感が変わるだけでこんなに味が変わるのは驚きだ!」


「っ!? いつも食べているパンよりも遥かにおいしいです!」


「うん! 柔らかくって、とってもおいしいよ!」


 外側はパリッとしていて、中はもっちりと柔らかい。細かい味で言えば元の世界のパンには敵わないかもしれないが、少なくともこちらの世界の固いパンよりも遥かにうまい。


 焼き立てというのもだいぶ大きいだろうな。しっとりとした焼き立てのパンは噛むたびに小麦の味がじんわりと口の中に広がっていく。


「こりゃうめえな!」


「ホホ―ホー♪」


 俺以外のみんなの反応もいいようだな。ただのパンだけなのにこれだけ味が違うとみんなが驚くのもわかる。


「少し面倒かもしれないけれど、いつものパンよりもこっちの方がおいしいから、これからはパンを焼いていこうか」


「ええ、賛成です!」


「うん!」


 よしよし。パンはほぼ毎日食べるし、味の改良ができてなによりだ。時間は少しかかるが、天然酵母液は果物ひとつでできるからお金もほとんどかからない。これで食卓が豊かになるのは嬉しいところだ。


「……こっちのパンはあまり膨らんでいないみたいだし、こっちのパンは天然酵母液の元になった味がパンに移っちゃっているな」


「全然味が違っていて面白れえな。俺はこっちのパンの味が好きだぜ!」


「ホホ―!」


 天然酵母液の種類やパンに入れた分量によって微妙に味や柔らかさが違っている。カルラとフー太がそれぞれ選んだのは違うパンし、それぞれの好みによって一番好きなパンは分かれそうだ。


 それにオーブンレンジの発酵モードを使わずに発酵させたら味が変わるかもしれない。このパンでも十分においしいけれど、他の焼いたパンも試してみてそれぞれが一番おいしいと思ったパンのレシピを覚えておくことにしよう。


 あと今は基本的で失敗が少ない丸パンだけれど、いろんな形や味のパンがあるからな。キャンピングカーのオーブンレンジでパンを焼けることもわかったし、旅をしながらおいしいパンを焼く方法を模索していくとしよう。




「次はベーコンだね。こっちは時間が掛かったぶん、うまくできているといいなあ」


 ベーコンは1週間以上前から仕込んできたものだ。この世界では塩やコショウなどが高価なこともあって、ベーコン自体が少し高級品だ。やはり塩やコショウを補充できるのは大きいな。


「うおっ、すげえ量があるじゃねえか!」


「2種類の肉を2種類の方法で作ってみたからね。どれがおいしかったか教えてね」


 ワイルドディアとダナマベアの肉を塩漬けにしたものとソミュール液に漬けた計4種類を用意してある。おかげでキャンピングカーの冷蔵庫の方は肉でいっぱいだったな。まあ、アイテムボックス機能があるから大丈夫だったけれど。


「少し厚く切ったベーコンの両面を軽く焼いてと……」


 4種類のベーコン皿へ載せる。こいつにアウトドアスパイスを掛ければ最高の酒のツマミになるのだが、まずは味を見るためにそのまま食べてみる。これがうまくいけば、今回手に入れたドラゴンの肉でもベーコンを作ってみるつもりだ。


「うわあ、おいしい! どれもとってもおいしいよ!」


「ええ、これはいいですね! 普通に肉を焼いて食べるよりもおいしいかもしれません!」


「うん、どれもなかなかいけるな」


 4種類のベーコンを食べ比べてみる。


 元の世界では何度か作ったことのある手作りベーコンで、この世界の肉で試すのは初めてだったが、うまくできたようだ。まあ、ちゃんと塩抜きの味見をしたし、そこまで間違いはないと思っていた。


 そこをちゃんと確認しないと塩抜きが甘くてしょっぱすぎたり、塩抜きをし過ぎて味が薄かったりしてしまうのが失敗の要因のひとつでもある。


「うおっ、どれもめちゃくちゃうめえ! 順番を付けるのが難しいな。このどっちかの肉からは選べねえぞ……」


「僕もダナマベアのお肉の方が好きかな!」


「私もそちらの方が好きですね。どちらも同じくらいおいしいです」


「ホホ―!」


「やっぱりダナマベアの肉の方がベーコンに適しているみたいだな」


 ワイルドディアの方もわるくないけれど、ダナマベアのベーコンの方がうまいのはみんな同じ意見のようだな。ダナマベアの方が高級肉というのもあるが、ベーコンには適度に脂身のある方が適している。ワイルドディアは赤身部分がだいぶ多かった。


 塩漬けとソミュール液はそれほど変わらないみたいだ。個人的には塩漬けにした方がベーコンの塩っけにムラがあって逆に好きだったりする。人間の舌は味にムラのある方がより差を感じられると聞いたことがある。


 ふむ、手作りベーコンもいい感じだったな。さて、それじゃあ焼き立てのパンとベーコンを使ってもう一品くらい作ってみるとするか。




【宣伝】

こちらの新作は現在毎日更新中です!

3年連続カクヨムコンテスト受賞を目指しておりますので、この作品も応援いただけますと幸いです(*ᴗˬᴗ)⁾⁾


『スキル【万能温泉】で、もふもふ聖獣達と始める異世界辺境村おこし。』

https://kakuyomu.jp/works/16818093090379642458

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る