第124話 ドラゴンステーキ


「うおおお、こいつは気持ちいいな! 温かい湯が毎日使えるなんて最高だぜ!」


「カルラお姉ちゃん、狭いからあんまり動いちゃ駄目だよ」


 ……カルラのやつはだいぶ声がでかいな。キャンピングカーの外にいるのに、シャワー室の中の声が聞こえてくる。


 まあ、初めてキャンピングカーのシャワーを浴びた時はジーナもコレットちゃんもだいぶ驚いていたか。


「とてもいい香りですね。晩ご飯がとても楽しみです!」


「ホホ―♪」


「焼いてみたらだいぶ柔らかくなったからね。俺もどんな味がするのか楽しみだよ!」


 キャンピングカーの外では先にシャワーを浴びた俺とジーナとフー太が晩ご飯の準備をしている。


 燃料の爆発により、お腹の部分は食べられなかったが、背面の大部分は無事であった。今回使用する肉はドラゴンの腰の辺りの部位だ。牛の部位に照らし合わせるのならサーロインの部位になる。


 ドラゴンの肉は牛肉よりも鮮やかな赤色をしていて、牛肉よりもさらに白い純白のサシが入っていた。見た目だけで言うのなら、非常に美しい肉である。


 肉質は少し固めで包丁を入れると少し力が必要だったが、試しに少しだけ焼いてみると、その肉はとても柔らかくなった。これくらいの柔らかさなら、筋切りをしたり、タマネギのみじん切りに漬ける必要はなさそうだ。


 やはりドラゴンと言えば、まずはあの料理だろう!




「お待たせ、今日の晩ご飯のドラゴンステーキだよ!」


「んっ、これが肉なのか? 銀色で綺麗だけれど、全然うまそうじゃねえぞ……」


「カルラお姉ちゃん、これはアルミホイルって言って、中に美味しいお肉が入っているんだよ!」


 他のみんなはダナマベアのステーキを食べた時にアルミホイルを見たことはあるが、カルラは初めてだったな。


 前回と同様、スキレットを熱して牛脂ならぬドラゴン脂を引いて、ドラゴンのサーロインの両面を炭火で一気に焼き上げる。そしてアルミホイルに包んでしばらく時間を置く。こうすることにより、肉の中心部までじんわりと加熱され、少しレアな状態で食べることができる。


「おっ、確かに中から肉が出てきたな! こりゃあうまそうだぜ!」


「ええ、確かにこれはとても美味しそうです!」


「ホ~♪」


 アルミホイルの包みを開けると、中からは綺麗な焼き目を見せるドラゴンステーキが現れた。


 そして香ばしい肉の香りが辺りに広がっていく。


「まずは肉の味を味わうために軽い塩コショウで食べてみよう」


 いつも通り、まずはシンプルに塩コショウのみで味わう。アウトドアスパイスやソースなどで食べるのも間違いなく美味しいのだが、肉本来の味が一番分かるのは軽い塩コショウである。


 ナイフをドラゴンステーキに通すと、スッと肉が切れていく。やはりこのドラゴンの肉は生よりも熱を通すと柔らかくなるようだ。


 肉の断面にはまだ少し赤身が残っている。焼き加減はまずまずのようだ。さて、味の方はどうかな。


「うん、中から旨みの凝縮された肉汁が溢れてくるな! 牛や豚、それにダナマベアよりもさらに一段上の味だ!」


「すごい、今まで食べたどんなお肉よりもおいしいよ!」


「ええ、香りも素晴らしいですし、想像よりも柔らかく、赤身と脂身どちらもくどくなくて最高においしいです!」


「なんじゃこりゃあ! ブレスで焼いた肉よりも遥かにうめえじゃねえか!」


「ホーホホーホー‼」


 みんなも今までで一番の反応みたいだ。それにしても、ドラゴンの肉は本当にうまい。これはもう肉の旨さが遥かに際立っているな。


 どうしてあんなに凶暴そうなドラゴンの肉がこんなにうまいのか不思議でしょうがないが、今この瞬間にみんなと一緒にこの味を楽しめることに感謝しよう。




「次は別の味で食べてみよう。これはアウトドアスパイスという様々な香辛料が合わさっている万能調味料だよ。こっちはドラゴンステーキを焼く時に出た肉汁と調味料を合わせたオニオンソース、そっちはポン酢という調味料を使ったおろしだれソースだね」


 みんな早々にドラゴンステーキを平らげ、続いて2枚目のステーキを前にする。ステーキは時間差を付けて焼き上げ、アルミホイルで休ませている間に次のステーキを焼いてある。


 たとえお腹がいっぱいになって余ってしまったとしても、アイテムボックス機能で保存できるのは便利だよな。


「おおっ、こっちの方がうめえぜ! 肉にいろんな味が付いていやがる!」


「ええ。やはりこちらの香辛料を掛けるとどんな肉でも美味しく食べられますね!」


 カルラはアウトドアスパイスの味は初めてだ。この世界は香辛料などがまだ高価だから、コショウなんかもあまり味わう機会がなかったのかもしれない。


「うわあ~こっちのソースもドラゴンのお肉にすっごくよく合うよ! ソースだけでもとってもおいしいね!」


「ホホ~♪」


「うん、おろしだれソースもさっぱりとしていていけるな。しかしどの味付けにも決して肉の味が負けていない。やっぱりこの肉はすごいな!」


 おろしだれソースは以前に作って保存してあったものだが、オニオンソースはドラゴンソースの肉汁を使って作り直した。


 味付けを変えるだけで、ドラゴンの肉の味わいがガラリと変わるが、どれも最高においしい。やはりこのドラゴンの肉はすごいな。

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