悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
13-72 住所不定! 真なる魔王はどこにいる!?
13-72 住所不定! 真なる魔王はどこにいる!?
刀を抜いてヒーサに斬りかかろうとするティースであったが、従者のマークはそれを必死で押し止めていた。
ティースが受け取った刀が呪われてしまったのか、とにかく何でも斬りたがろうとしている困った状態になっていた。
さすがにこれは捨て置けないと止めに入ってみれば、本来その役目を負わなくてはならないヒーサが、完全に丸投げ状態で身を引いている有様だ。
抗議の視線を投げ付けるのがせいぜいであった。
なお、ヒーサはそれをあえて無視し、いよいよ消えそうになっているヨシテルに視線を戻した。
「いや、公方様、申し訳ありませんな。どうにもわがまま放題な愉快な者達が揃いましてな」
「類は友を呼ぶと言ったところか」
「まとまりのない連中でして、まとめ役の私がいつも苦労しております」
「一番の問題人物が何を抜かしますか」
テアの痛々しい視線が飛んだが、ヒーサはこれも無視した。
なにしろ、“問題”だなどと一切認識していないからだ。
「それにしても公方様、死ぬ死ぬ言っているわりには、随分としぶといですな。体がほぼ砕けたというのに、首だけで喋られるのは、何と言うか不気味です」
「おお、汝の渋い顔が見られて、なんだか活力が湧いて来てな。ハッハ、精々自分の嫁に寝首をかかれんようにな」
「呪物を置いていくとは、悪趣味ですな。もういいですから、さっさと消えてください。呪いの方も、あとで『
「なんじゃ、つまらん。汝がぶった切られる様を見られると思ったのに」
「あぁ~、演目が終わったんなら、さっさと役者は舞台から下りていただけませんか。次の舞台が始まりますので」
「カシンとの一戦か」
「その前に、カシンの起こすであろう大規模な反乱の鎮圧でしょうかな」
「ふむ……」
すでに消えかかっているヨシテルであったが、なにやら神妙に考え始めた。
そして、意を決してか、ヒーサを睨み付けた。
「まあ、いいか。あやつへの意趣返しという意味も込めて、汝に情報を出しておこう」
「余程、あいつがお嫌いなようで」
「上手く隠せているようで、隠し切れておらなんだからな。あやつが我に頭を垂れつつ、心の中で舌を出しておった。利用しているのはお互い様であったが、奴の方がより悪辣だ。いずれ“真なる魔王”が復活した際には、用済みの駒として処分するつもりであったろうし」
「分かった上で、敢えてそれに乗られるとは物好きですな、公方様は」
「汝を切り刻めるのであれば、我は悪鬼羅刹となる事も厭わんぞ」
「私も随分と嫌われたものですな」
「己の成してきた事を考えろ、痴れ者」
「無駄口を叩くなら、さっさと消えていただけませんか?」
「ちゃんと話すわい。そう、“魔王の隠れ家”についてな」
「“魔王の隠れ家”ですって!?」
この言葉に飛びついたのはテアであった。
【魔王カウンター】で魔王っぽい相手を三名計測した事があったのだが、それがヒーサ、アスプリク、マークだ。
結果、ヒーサが“5”、アスプリクが88”、マークが“87”となった。
最高値である“100”に近ければ近い程、魔王に覚醒する可能性が高く、実際テアはアスプリクかマークのいずれかが魔王だと踏んでいた。
(でも、今日それは否定された。まあ、ヨシテルの言葉を信じればって前提だけど。なら、“真なる魔王”って誰で、どこに潜んでいるのかって話になる)
数々の世界を回ってきた経験から、テアは存在を隠匿しようとする魔王の存在も知っていた。
ジッと潜み、絶好の好機になるまで姿を見せず、あるいは擬態し、正体を悟らせない。そういうタイプの魔王だ。
今回もそれなのか、というのがテアの予想であり、魔王の器を複数用意することで、かく乱を狙ったのではないかとも考えていた。
その隠れ潜む場所を特定できるのであれば、真相に大きく近づくこととなる。
是非にも知っておきたい情報であり、ヒーサ以上に前のめりになるテアであった。
「教えて、早く! どこに魔王はいるの!?」
「随分と食いつきが良いな。まあ、当然と言えば当然か。探し人が“すぐ近く”にいるのだからな」
「すぐ近く、ですって!?」
「案外、足元というやつは見逃してしまうものなのだよ。常識に縛られている限りは、絶対に見えてこないからな。世の中、規則や法と言うものを平然と踏み躙り、あるいは改変し、もしくは都合よく解釈して、自分の思うがままに世界を描く。そういう輩もいると言う事だ」
「それってどういう……」
「で、魔王の潜む隠れ家の場所だが」
その時だ。
辛うじて残っていたヨシテルの体が、一気に燃え上がった。
青白い炎であり、まるで地獄の幽鬼が出迎えに来たかのように、ヨシテルの体を貪り、跡形もなく消し去ってしまった。
炎が収まったそこには、チリの山となったヨシテルがそこにいた。
そして、そこの上にわざと降り立ち、塵を踏み躙るように現れたのは、黒の法衣をまとう一人の男であった。
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