12-21 開廷! 王都騒乱の真相を求めて!(1)

 予想通り、“星聖祭”終了と同時に審問が始まった。


 初期段階ではかなりの騒動になったが、途中から徹底された箝口令かんこうれいにより、一般にはそれほど情報は出回っていないが、貴族の独自の情報網を通じて上流階級には、思った以上に情報が拡散されていた。


 それの証拠として、審問が行われる王宮の大広間には多くの貴族が集まり、傍聴席はごった返す有様だ。


 祭りのために王都に来ていた貴族も多く、大広間に溢れんばかりの数が揃っていた。



(が、ここで問題発生。ヨハネスの姿が見えない)



 ヒーサは審問される側の席に座りつつ、列席者の顔触れを見回したが、法衣に身を包んだ教団関係者の中に、法王ヨハネスの姿を見つけることができなかった。


 今回の審問を手っ取り早く終わらせる方法、それは“事実”を語り、ヨハネスの使う術式【真実の耳】で話の真贋を調べてもらう事であった。


 なにしろ、国王も、宰相も、ヒーサは殺してもいないし、裏工作すら一切していないのだ。


 すべては黒衣の司祭カシン=コジが仕組んだことだと、証拠はないが看破しており、正直に話せば事足りた。


 だが、肝心のヨハネスがいない事には話が狂ってくる。有無を言わさず難癖付けて、そのまま処刑台へ直行ともなりかねないのだ。


 現に、居合わせている顔触れを見てみると、ヒーサに対して快く思っていない貴族や聖職者が多いと感じた。


 下手を打つと、そのまま押し切られて、真贋の判定のないままに死刑宣告が出されかねない危険な状況であった。



(で、他三名には『術封じの枷』がはめられていて、術の使用は不可能。暴れて逃げ出すことはできないときたか。いやはや、あちらもあちらで用意周到だな)



 ちらりと視線を送ると、被告人席の他三名、アスプリク、アスティコス、ライタンは術が封じられていた。


 こちらも備えているように、あちらも備えている。当然の話ではあるが、その思惑に乗ってやる気はヒーサにはなかった。


 そんな熱気と喧騒に満たされた大広間に、一人の若者が正装で入って来た。


 第三王子のサーディクだ。


 前回がそうであったように、この手の大きな事件は御前聴取で審議が行われる事が多い。


 『シガラ公爵毒殺事件』の際の審議も、国王フェリクが臨席し、宰相ジェイクが司会進行を務めた。


 しかし、今回はどちらもおらず、しかも法王ヨハネスが“なぜか”不在のため、司会を務めれるほどの国家の要人ともなると、もはやサーディクしかいなかった。


 あるいは“次期国王”としての箔付けのために、こうした席を用意したのではとも勘繰る事ができた。


 王や宰相に代わって司会進行を務めるとは、“そう言う事”なのだ。



(フンッ! 小賢しい真似をする。だが、最後に笑うのは“被告席側の人間”だということを、思い知らせてやろうぞ!)



 場が整ったのを見て、ヒーサはいよいよやる気に火が付いた。



「え~、皆様、静粛に願います! ただいまより今回の騒動の審議に入ります。どうかお静かにお願いいたします!」



 さすがに前線の将として場数を踏んでいるだけあって、喧騒の中でもサーディクの声は良く通った。


 注意を促されたので、列席者もお喋りを止め、いよいよ始まる審議の方へと意識を集中させた。



「それでは……」



「異議あり!」



 ここでヒーサが先手を打って攻めの姿勢で臨んだ。


 なお、この時点でヒーサは“まとも”にやるつもりがないのか、ふんぞり返って偉そうに腕や足を組み、とても審議を受ける人間とは思えぬ態度であった。


 当然、審理する側に座っていた王宮詰めの枢機卿ロドリゲスは眉をひそめた。



「“被告”が勝手に喋るな、痴れ者めが!」



「そう、それなのですよ。枢機卿、それが分からない」



「何の話だ?」



「被告と言う事は、私は何らかの犯罪行為に関わり、訴えられたことを意味しております。一体全体、私はいかなる罪状を以て訴えられたのでありましょうか?」



 顔には「なんで?」と書いてあるかのようにすっ呆けた表情をしており、露骨すぎるほどにヒーサは相手方を挑発した。


 当然、ロドリゲスはさらに不機嫌になったが、同時にたっぷりと痛めつけてやるぞと意気込み、不敵な笑みをヒーサに向けた。



「知れた事を! 国王陛下や、宰相閣下を暗殺し、王国を揺るがした白の魔女アスプリク! それと結託し、国権を蔑ろにした大罪人! それが貴様だ、シガラ公爵ヒーサ!」



「ふむふむ。つまり、陛下と閣下へ害をなし、国家への反逆行為を働いた。ゆえに罪人として引っ立てられた、と考えてよろしいかな?」



「当然だ!」



「なるほどなるほど」



 わざとらしく首を縦に振って頷き、そして、“言質”を得たとばかりにニヤリと笑った。



「では、私の異議申し立ては“正しかった”というわけですな」



「何の話だ!?」



「国王陛下を殺害した者が別にいる。それも審議席そちらにね」



「なんだと!?」



 審議席側に座っていた者達が互いに顔を見合わせたが、当然ながら鼻で笑う案件であった。


 そんなことなど、絶対に有り得ない。そう確信を持っていたからだ。



「何をバカな事を! そもそも、陛下の寝所に魔女が入り込み、サーディク殿下を縛り上げ、陛下を殺害。そのまま逃亡した。それのどこに他者の介在する余地があると言うのだ!?」



「他者ではありませんよ。なぜなら、国王暗殺の犯人は、“サーディク殿下”だと申し上げているのですからな!」



「な、なにぃ!?」



 あまりに突飛なヒーサの発言に、ロドリゲスのみならず周囲も思わず叫んでしまった。


 当然、サーディク当人も怒り、進行役と言う役目を忘れてヒーサに食って掛かった。



「公爵、今のは聞き捨てならんぞ! 私が父上を殺害しただと!? これ以上に無い侮蔑だ!」



「それでしたらば、“妹”に嫌疑をかける事も、侮蔑でありましょうが! 自身はダメで、妹なら好きにしろとは、随分と薄っぺらい兄妹の情ですな!」



「だが、現にアスプリクが父上の寝所に侵入し、私を縛り上げて、父上を殺害した! それ以上、何も出てこんわ!」



「皆さん、今の発言を聞きましたか!?」



 ここでヒーサが席から立ち上がり、芝居がかって仰々しく手を広げた。



「殿下はこう言った、『アスプリクが父上の寝所に侵入』と! それは絶対に有り得ない! なぜなら、その事件があった日の夜、アスプリクは私の寝所にいたからだ! 国王の寝所ではない!」



 まさかの情事の暴露に、場が一気に沸騰した。


 なお、ヒーサの寝所にアスプリクがいた事は事実であるが、寝台はアスプリクに譲り、自身は地べたで眠っていたため、正確には同衾していなかった。


 なお、いきなりの暴露話に、アスプリクは少しばかり顔を赤らめていた。不在証明アリバイの検証もあるだろうし、この話は出すだろうとは思っていたが、よもや真っ先に提示してくるとは考えてもみなかったのだ。



(いや、まあ、当然と言えば当然なんだけどさぁ。もうちょっと包み込む言い方とかなかったの!?)



 アスプリクは乙女の恥じらいを抑え込みつつ、ヒーサによる“裁判ごっこ”が勝利に終わる事を祈るのであった。

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