悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
11-41 嫁公認!? 愛妾の一人や二人で文句は言いません!
11-41 嫁公認!? 愛妾の一人や二人で文句は言いません!
宰相ジェイクを自分が殺し、その黒幕としてヒーサも目を付けられている。
アスプリクよりもたらされた情報は、まさに驚天動地であった。
つい最近まで国中に名声を轟かせていた英雄と聖女が、いまや反逆者と成り果てた。
シガラ公爵家の面々からすれば寝耳に水、完全なる濡れ衣であったが、すでに事態がそう固まりつつあることを、知らせに来た二人の様子から思い知らされた。
すぐに本営の天幕が用意され、厳重に人払いをした後、すぐに会議の場が設けられた。
上座にヒーサを据え、他に妻のティース、その従者マーク、将軍のサーム、上級司祭のライタン、そして報告を持って来たアスプリクとアスティコス、計七名が顔を揃えていた。
「……掻い摘んで言うと、土産に持って行った酒に毒が仕込まれていて、それを飲んだ宰相閣下が死亡。その場から逃亡し、捕縛の手を逃れるために王都内部で戦闘に入り、それからここまで落ち延びてきた、と。しかも、その裏にはカシンの影がちらついている」
ざっと説明を受けた限りではあるが、ヒーサは状況をすんなり把握した。
「ごめん、ヒーサ。まんまとしてやられた。僕の油断が原因だ」
アスプリクは泣きそうになりながら頭を何度も下げてきた。実際、事の発端は仕込まれた酒を受け取り、それを罠とも気付かずに持って行ったのが原因であった。
弁明しようもない程の失態であり、どう処せられるのか、ただそれを待つばかりであった。
「お前らしくない失敗だな。術士は一般の人間より、感覚が優れていると聞いていたが、アスプリクほどの腕前でも気付かないほど上手く偽装していたか、それとも隙があったか。祭りに浮かれて、羽目を外し過ぎたか?」
ヒーサの指摘はまさにその通りであった。
アスプリクはヒーサへ様々な感情を抱いていた。
友情、敬愛、憧憬、そして、思慕。今まで抑圧されて生きてきたアスプリクにとって、それを開放してくれたヒーサは、あまりにも眩しすぎた。
そんなヒーサに抱いた一番の感情は、やはり恋心だ。年相応の暮らしをしていれば、抱いていてもかしくない感情であり、それを向けるイケてる男がすぐ近くにいた。
しかし、ヒーサはすでに既婚の身であり、横恋慕は良くない、ティースに申し訳ない、そう考え、その感情をできる限り押し殺してきた。
だが、あの日の夜、ヒーサに迫られて、ついついその誘いに乗ってしまい、抱いた燃え上がる情熱と共に一線を超えてしまった。
結果、浮かれに浮かれてしまい、隙を晒したあげく、仕込まれた酒を掴まされると言う失態を演じてしまった。
目の前の想い人は実は偽者で、黒衣の司祭の変装だと気付いていれば、こんな無様な結果にはならなかったであろう。
そう思うほどに、アスプリクは自らの迂闊さを呪った。
「ヒーサの言う通りだ。僕は羽目を外し過ぎた。なんて馬鹿だったんだろうか」
「悔いる気持ちは分からんでもないが、どんな手管でしてやられたんだ?」
グサリと突き刺さるヒーサの言葉に、アスプリクは泣きそうになった。
ヒーサへの思慕を見抜かれ、ドキドキ気分で同衾した挙げ句、それが真っ赤な偽者で、浮かれて油断しました、などと言えようもなかった。
これ以上もない赤っ恥であり、それ以上にヒーサやティースへの申し訳なさで、精神が圧殺されそうであった。
正直に話すべきか、言葉を濁して遠回しに言うべきか、あるいは適当言って誤魔化すか、容易に答えの出ない自問に思考が堂々巡りをしていた。
そんな言いにくそうにしている少女に対して、動いたのはティースであった。
ペチッとヒーサの後頭部に軽く平手打ちを食らわせた後、少しため息を吐き、それからアスプリクに視線を向けた。
「ま、アスプリクの言いにくそうな態度から、おおよそ察しがついたわ。大方、幻術が得意なカシンに騙されて、ヒーサの姿で誘われたんでしょ? んで、ホイホイついて行って、浮かれ気分で隙を晒した、と」
ティースの予想は、ズバリその通りであった。言葉を多少濁してはあるが、間違いなく“床を同じくした”ことはバレバレだった。
アスプリクは白磁のような肌を真っ赤にして、呻きながら顔を机に突っ伏した。
だが、ヒーサやティースからも特にこれと言った反応はなかった。
「なんだ、“その程度”のことか。もう少し手の込んだ手段で来たのかと思ったら、随分と古典的なやり方だな」
「使い古されているから、古典的とも評されるのですよ。男女関係のこじれから、秘密が外に漏れ出るなど、良くある話です」
「まあ、それもそうだな。にしても、カシンめ、私の姿を使ってアスプリクとお楽しみとは、これは並ならぬ報復が必要だ」
「ご自分の方がより愛でてやれる、とでもお考えで?」
「無論」
アスプリクは元より、周囲の面々も反応に困る夫婦の会話であった。
公爵夫婦はシレッとした態度であったが、周囲は困惑しながら顔を見合わせていた。
「あ、あの~、ヒーサにティース?」
「なんだ?」
「その、怒ったりととかしないの?」
「むしろ、こちらが侘びねばならんな。色々と忙しかったから、愛妾と戯れる時間を作ってやれなかった」
「愛妾……!? て、いつから僕は愛妾だったの!?」
「ん? 出会ったその日には、私はそのつもりであったが? まあ、優先度が正妻の方が上であったから、床入りは避けていたがな」
「えぇ……」
よもやのヒーサからの回答に、アスプリクの混乱は増す一方であった。
視線をヒーサの横にいるティースに向けると、これもまた薄い反応で、特に関心を引かない話、程度の態度だ。
なお、これは大嘘である。
ヒーサはアスプリクの事を可愛くは思っていたが、それは“愛妾”を愛でるというより、“孫”を可愛がるくらいの感覚だ。
なにしろ、ヒーサの好みはテアのようなボンッキュッボ~ンな女であって、アスプリクのようなまな板に梅干し体型ではない。
ちょっとしたリップサービスで場を和ませる以上の意味はなかった。
「あ、あの~、ティース? ヒーサがこう言ってるけど、いいの!?」
「ええ、別に。私はヒーサに対して、一欠片の愛情も敬意も抱いていないから。だから、嫉妬も湧かない。愛妾の一人や二人、お好きにどうぞとしか思わないわ」
「えぇ……」
このティースの回答も、アスプリクをますます混乱させた。
あの日、赤ん坊を奪い去ったその日から、心境が大いに変わってしまったのだなと、判断せざるを得なかった。
実際、ティースは“吹っ切れた”と言ってよい程に、考え方が変わっていた。
自分が腹を痛めて産んだ子供を生贄に捧げ、それでもなおカウラ伯爵家の再興を求めたのだ。
無論、ヒーサに退路を断たれた上での決断ではあったが、最終的にその道を選んだのは、他でもない自分自身なのだ。
ヒサコの息子(実は自分の息子)を王位に就け、以て伯爵家再興の足掛かりにする。ヒーサの計画に乗った時から、ティースはその事しか頭にないのだ。
必要なのは、ヒーサから“種”をいただいて子供を次々と産む事であり、正妻の座さえ保持できるのであれば、愛妾を抱えようが特に問題とも考えていなかった。
「な、何と言うか、ティース、随分とすっきりしたと言うか、憑き物が落ちたと言うか」
「こんな性悪と本気で向き合っていれば、嫌でもこっちも性悪になるわよ」
「そ、そうなんだ」
なんだか、今まで自分が悩んで悶々としていたことが馬鹿らしく感じるアスプリクであった。
要するに、ヒーサに抱いていた思慕の想いは、秘する必要などなにもなかったのだ。
それこそ、ヒーサの寝所に潜り込み、同衾を願い出ても、誰も文句を言う者はいなかったというわけだ。
ヒーサはそれを迷惑にも感じず、ティースにしても嫉妬を呼び起こすものでもないというわけだ。
(じゃ、じゃあ、今までの僕の苦悩って……)
完全に空回りをしていたと言う事であり、そう考えると全身から力みが抜けていくようであった。
同時に、それは嬉しくもあった。
ティースに対しての遠慮もあったため、アスプリクはヒーサに対して随分と引いた距離感で接していたが、
「んじゃさ、ヒーサ、今夜は二人きりってのもいいのかい?」
「別に構わんが、その前に今後の打ち合わせを終えてからな」
「あ、うん、そうだね」
アスプリクはにやけ顔のままに頷いて、横に座っていたアスティコスをドン引きさせた。
(う~ん、十四歳にして、この色狂い。少しばかり先行き不安だわ)
姪の今後について、頭痛の種ができてしまったとアスティコスは嘆くのであった。
そんな微笑ましい(?)一幕もありながらも、会議は進んで行った。
そして、ヒーサを除く全員が頭の中から抜け落ちていたのだが、すぐ側にいるはずのテアが、いつの間にか消えていた。
ぶっ飛んだ会話が繰り広げたために、そのことに気付く者はいなかった。
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