7-52 襲撃! 聖地の群がるゴブリン軍団!

 それは突如として起こった。


 エルフの里から少し離れた場所にある聖域。そこはエルフの墓所であり、茶の木が墓標の代わりとして林立する、里の者には特別な場所であった。


 しかし、ここ最近、その聖域がごたついていた。


 普段であるならば、森に回帰した同胞の冥福を祈る静寂に満たされし場所なのだが、どういうわけか小鬼ゴブリンの侵入が続いていた。


 とは言え、醜悪な妖魔の侵入は初めてというわけではない。いつもならば、年に一度か二度、やって来る程度だ。


 だが、今回に限って言えば毎日、どころか一、二時間おきにやって来るような頻度であった。


 それに対して、エルフ達の対処は適切であった。矢を射かけ、森の木々に影響が出ない範囲で術も使用し、これらを撃退していた。


 やって来る小鬼ゴブリンはせいぜい十匹前後であり、先日の人間による侵入のために配備しておいた見張り者達で容易に捌けた。


 頻度が高いので、交代要員も用意されており、その夜の来訪も即座に退けれるものと考えた。


 だが、それは大いなる間違いであった。



「どうなっている!? あの数、尋常じゃないぞ!」



 哨戒部隊のまとめ役が、悲鳴にも近い声を上げた。それもそのはず。次々と現れる小鬼ゴブリンの群れは十や二十で済む数ではなかった。


 どこからともなく湧いて出て来ては、エルフの聖地に迫って来ていた。


 視認できる数は増えていき、その数はすでに百を超えていた。



「おい、あの数、ここに居る我々では対処できんぞ!」



「数が違い過ぎる!」



 他のエルフも同様に、困難極まる状況に声を張り上げた。


 何しろ、数は凄まじい勢いで増えていた。百が二百に、二百が三百に、三百が五百にと、処理速度を上回る数が湧いてきた。


 エルフは優れた弓使いであり、また術の才能も人間を上回っている。なにより、森からの加護を受ける存在であり、森林地帯での戦闘ならば、ちょっとやそっとの数の差など物ともしない。


 だが、今回はその許容限界を遥かに超えていた。


 なにしろ、聖域周辺での警戒に当たっていたのはせいぜい十人ほどであり、集結しつつある小鬼ゴブリン軍団の一割にも満たない数だ。



「まずいな。さらに増える気配がある。一度後退し、応援を呼んで来るぞ!」



 まとめ役の判断も早かった。まず、足の速い者を里へと走らせ、残りは時間稼ぎのため、遅滞戦闘に徹したのだ。


 無論、無理はせず、相手の足を鈍らせることに終始し、とにかく損害を抑えつつ、突いては引き、引いては弓矢や魔術で牽制を入れたりと、とにかく増援の到着を待つこととした。

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