悪役令嬢・松永久子は茶が飲みたい! ~戦国武将・松永久秀は異世界にて抹茶をキメてのんびりライフを計画するも邪魔者が多いのでやっぱり戦国的作法でいきます!~
7-45 初仕事! 法王様、下知はこれにてよろしくお願いします!(後編)
7-45 初仕事! 法王様、下知はこれにてよろしくお願いします!(後編)
「国王陛下を心変わりさせる、何か良い策でもあるのですか?」
ティースとしては、そこが何より気になる点であった。
教団と事を構えるのを容認できるほどの魅力的な提案、それの正体を知らんと耳目をヒーサの集中させた。
「うむ。“十分の一税”の廃止だ」
「……は?」
ティースだけでなく、アスプリクやライタンまでもが目が点になった。
それほどまでに、ヒーサの提案が意外過ぎたのだ。
ちなみに、“十分の一税”とは教団側が教区内の農民や商人に対して、収入の十分の一を税として徴収する権利のことである。これが毎年結構が額になるため、教団の主な収入源となっていた。
この納税については、領主である貴族があらかじめどの程度支払うかを提示しておき、それを教団側に支払う形式がとられていた。
そのため、この数字を動かして、教団に支払うから仕方ないよね、などと言ってより多くの税を徴収して一部を懐に収める貴族がいたり、あるいは教団との繋がりを強くするためにより多くの税を徴収して収めたりと、何かと悪名尽きない税であった。
他にもこれとは別に、教団の直轄である寺院領からの年貢や、儀式等を行う際の貢納金、貴族や富豪からの喜捨など、教団の収入源は多岐にわたる。
このため、教団は国一番の金持ちであり、王家や“財”の公爵たるシガラ公爵家をも凌ぐ財力を持ち合わせていた。
「十分の一税は、結構な負担だからな。これを廃止すれば、庶民は大喜びだろうよ。領地を経営する貴族も教団に取られる分がなくなるから、減税したとしても潤う。なにしろ、十分の一税を支払う分の半分を減税したとしても、貴族の手元には半分が手元に残るし、庶民も十分の一税の支払い分が半分になるから、税負担が軽くなる。教団側が一方的な減収を容認してもらえれば、それが叶うと言うわけだ」
「それだと、教団側の維持費が捻出できなくなる危険性が出ます!」
ライタンもシガラ教区の代表者であり、教団経営の収支ついては誰よりも理解が深かった。
たしかに、収入源は多岐にわたるが、やはり十分の一税の占める割合が大きいのだ。もしこれが丸々失われるとなると、大幅な減収となってしまい、経営が難しくなる可能性があったのだ。
「ああ、その点は大丈夫だ。現状、教団に反旗を翻すのは、シガラ公爵領とカウラ伯爵領の、王国全体からすればほんの一部の領域だからな。維持費やら経費はそこまで大きくはあるまい? なんなら、不足分はこちらで補填してもよい。あとはライタンが上手く切り詰めてくれると信じている」
「信じてもらうのは結構ですが、やはり厳しいものは厳しいです。そちらへの請求額もそれ相応になる物とお考え下さい」
「それは承服しよう。まあ、王国全土を揺るがす事案としては、法王の僭称よりも、そっちの方が大きいかもしれんしな」
なにしろ、王国全体の税制度が大きな変更を余儀なくされる宣言である。教団は当然反発するであろうが、利益を得る貴族も庶民も賛成の大合唱となるだろう。
そして、十分の一税は王家の直轄領にも適応されるため、王家にとっても悪い話ではない。十分の一税廃止に動く貴族からの圧力もあるし、自身の利益にもつながるので、王家としてもそちらに舵を切る可能性が出てくる。
そうなると、僭称法王にも支持者が出始め、そこに“箔”が生み出されることとなる。
本物であれ、偽物であれ、結局のところ、それを有難がる者がいるかぎりは、どちらでもいいと言えなくもないのだ。
自身に利益をもたらす方が正義であり、そちらに靡くものであった。
「“箔”さえ生み出してしまえば、力を身に付けていくのも時間の問題だ。あとは我ら『
「それを以て、国王陛下に圧力を加えると?」
「ま、ある程度まで事態が進めば、宰相閣下が国王陛下への説得を強めるだろうよ。教団の力を削ぎたいと考えるならば。十分の一税廃止は強烈だからな」
「反発も強烈でしょうけどね」
「そこは宰相閣下に頑張ってもらう。なにしろ、騒動の渦中の、更にど真ん中に放り込まれるのは、宰相閣下ご自身だからな」
実際、宰相ジェイクは公的にも、私的にも、渦のど真ん中に追いやられていた。
公的には、宰相として国内の混乱を鎮めねばならず、教団との折衝や各貴族との利害調整に加え、税制の改革を余儀なくされる。
一方私的には、兄であるアイクとヒサコとの婚儀を進めて、シガラ公爵との結束を強めたいが、教団との関係悪化が懸念されるため、上手く折り合いをつける方法を見つけねばならなった。
あるいは婚儀の話をなかったことにすることも考えるだろうが、自身の妻の実家を完全崩壊から救った恩義(実は崩壊させた張本人はヒーサ)もあり、義理に薄い行動は後々に悪影響が出てしまう。
また、妹アスプリクとの仲立ちは、ヒーサ・ヒサコ兄妹の取り成しがなければ不可能なところまで来ており、ますますシガラ公爵家との関係を断てなくなっていた。
あらゆる事象が、ジェイクに向かって集中砲火を浴びせており、そうなる様に仕向けたとはいえ、ヒーサも身内になる予定の男に多少の同情を覚えていた。
「まあ、せいぜいジェイク兄には頑張ってもらうさ。自分が継ぐことになる王国が、内乱真っ最中でしたなんて、絶対嫌だろうからね」
他人事のように言い放つアスプリクであったが、そこまで追い込んだ一因は自分にもあることを自覚しての発言であった。
しかし、同情の色は一切ない言葉でもあった。いかに自由になったとは言え、自分の苦境を知っていながら放置したことは恨んでおり、そのことでの正式な謝罪をまだ受けていなかったからだ。
ジェイク自身はどうにかアスプリクに詫びを入れたいと考えているのだが、宰相という職務上、多忙を極めており、アーソの一件でも仕事上のこと以外は会話すら成立しなかったほどだ。
「聖人認定、十分の一税の廃止、これが法王となったライタンの初仕事だ。頑張ってくれたまえ!」
「もうなんか、やる気が削がれているのですが」
なにしろ、歴史の転換点になりかねない重大な局面に、自分がその主要人物となることが確定してしまったようなものであった。どうにか変わってくれる者はいないかと思ったが、アスプリクが拒否した以上、自分がやるしかなかった。
仮に自分がここで引いたとしても、混乱は増すばかりであり、収拾が今以上に着かなくなることは目に見えていた。それも自分にとっては不本意であるため、結局は嫌々ながらも重責を背負わざるを得ないのであった。
「なぁ~に、ここ一番を踏ん張ってさえくれれば、あとはヨハネス枢機卿に押し付けてしまえばいい」
「と言うと?」
「もし、ヨハネス枢機卿が
情勢を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、後始末は他人任せ。真顔でそれを言えるあたり、目の前の若き公爵はどこまで図太い神経をしているのか、本気で心配になってきた。
「その際はお前は引責辞任という形で教団を去ることになるかもしれんが、そうなった際は隠居料として、相応の保証金を出そう。まだ働きたいのであれば、公爵家に席を用意してもいい」
「そちらの方も手抜かり無し、というわけですか」
「ああ。働いた者にはきっちり報酬を払うし、優秀な人材はちゃんと抱えておきたいからな」
悪びれもせず言い放つヒーサに、ライタンは戦慄せざるを得なかった。
王家も、教団も、他の貴族も、自領の領民さえも、全てを欺くつもりでいる目の前の“
だが、すでに後戻りはできない。
とんだ騒動に巻き込まれたものだと、ライタンは天上の神に運命の過酷さについて文句を言ってやりたくなった。
それは無駄な事とだと知りつつ、法王となる式典はどういう感じにすればよいかなどと、現実的な思考で頭を埋めていくのであった。
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