第2話
剣士は眠らなかった。
ただ、私を探るような目でジロジロと見るだけ。
あ、怪しまれている。
さっきやった荷物の話題は悪手だったか?
いや、でも、もう少し、もう少しだけ時間を過ごせば寝てしまうわ。
「金塊ってすごいですね。見せてもらうわけにはいきませんか?」
「まぁ、……少しならな」
リュックの中には大きな金の塊が入っていた。
す、すごい……。
絶対に盗んでやるわ。
こいつが寝るまで、私の身の上話でもしておこうか。
「実は私。両親を流行病で亡くしまして……」
もちろん、作り話ね。
一時間後。
「──そうして、天涯孤独となった私は親が飼っていた山羊を飼って生計を立てているのです」
「うーーむ。悲しい話だな」
寝ろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!
なんで寝ないんだこいつぅうう!?
「の、喉が渇きませんか? お代わりのミルクを持って来ますね」
と、その場を離れる。
おっかしいわねぇ?
私は野草には詳しいんだけど??
眠り草を間違えたのかしら??
粉末を少しだけ舐めてみる。
ペロリ。
うん。間違いない。
これは強力な眠気を引き起こす、眠り草の粉末だわ。
あ…………。
舐めちゃった。
睡魔が襲う。
め、めちゃくちゃ効くじゃない!
眠っちゃダメだけど……。
ダ、ダメだ……。
この睡魔……。
勝てない。
遠くで剣士の声がする。
「おい女! 大丈夫か!?」
ああ、これ絶対にダメなやつだ。
男の前で寝ちゃうなんて……。
私の処女が奪われる。
体を弄ばれる……。
「おい! 気を失ってるのか? おーーい!」
終わった……。
男の前で寝るなんて……。
私の人生、完全に詰んだ──。
それから、気がついたのは肉の焼けるいい匂いがしてからのことだった。
「は!?」
「おお、起きたか」
「え?」
目の前には焚き火。その傍らには肉が枝に刺さって焼かれていた。
私はシーツを掛けられて、柔らかい干し草の上で寝ている。
急いで股の間に手を入れた。
……と、特に異常はない。
下着を脱がされた形跡もないわ。
「急に倒れちゃうからさ。驚いたよ」
「あ、あなたが……。私を?」
「うん。この辺は盗賊が出るっていうしな。危ないから起きるまで待っていたんだ」
空は真っ黒だ。
こんなに遅くまで私の側で見守ってくれてたのか……。
「肉が焼けた。ふふふ。腹減ってるだろ?」
「貴重な肉を……。持って来ていたのですか?」
「まさか。その辺で狩ったんだよ」
「え?」
「へへへ。丁度いい焼けごろだ。食おうぜ。ふふふ」
それは山鳥と野うさぎの肉だった。
剣しか持ってないのにどうやって狩ったのだろう?
お、美味しい……。
こんな美味しい肉を食べたのは久しぶりだ。
「もしかして……。剣で斬ったのですか?」
「え? それしか狩る方法なくね?」
「いや……」
普通、弓では?
ってか、弓で狩るのだってめちゃくちゃ難しいんだ。
獣は素早いからね。
「あの……。剣士様。そういえばお名前を聞いてなかったです」
「グラディだ」
「グラディ様……。介抱してくれてありがとうございます」
「敬語はよしてくれよ。フランクにいこう」
そういって、木の実をモグモグと食べる。
あ、あの実はもしかして……。
「あ、もしかしてこれを食いたいのか? 悪いがこれはあげれないんだ」
「あ、いえ……」
「これは毒の実だからな。普通の人は食えないんだよ」
そうよね!
毒の実よね!
普通食べたら死ぬわよね!
「これは解毒の訓練でね。普段から毒の実を食べて、毒の攻撃に耐性をつけているんだよ」
そ、そんな無茶な訓練……。
だから、眠り草が効かなかったのか。
このグラディという男。一見すると華奢で弱そうだけど、もしかしたら凄腕の剣士なのかも。
「しかし……。こんなに遅くなっては荷物の運搬ができませんでしたね」
「依頼の期限は明日までさ。朝から出発して、この金塊を隣国の王城に届けれれば問題ないよ」
夜に出歩くのは危険ということで、私たちは焚き火を囲んで一夜を過ごすことになった。
彼は私に自分のシーツを渡す。そして、自分は何も掛けずに寝てしまった。
ああ……。こんな親切を受けたのは初めてだ。
でも、仕事は別。
悪いけど、私は盗賊だからね。
一度狙った獲物を逃すなんて、大盗賊フォックスガールの名が廃るのよ。
グラディは寝ている。
金塊の入ったリュックはその横。
彼が寝入った隙にリュックを奪えば作戦成功ね。
しかし、彼は剣を離さずに眠っていた。
うーーん。
すばしっこい野うさぎを斬ってしまう程の剣技。
もしも、私が盗っ人とわかれば、すぐさま斬られてしまうだろう。
ダメだ。
彼の目の前で荷物を奪うのは危険すぎる。
意外と用心深いのね。……だったら、
次の日。
「え? リュックを運ぶ??」
「はい。昨日のお礼です。こんな重たい荷物ですからね。ここから隣国までは歩いて四時間くらいでしょうか。それまで私が荷物持ちをしますよ」
「しかし、重いぞ?」
「平気です」
だって一千万コズンだもん。
そんなわけで、私は荷物持ちに扮して金塊を狙うことにした。
お、重い……。
一時間も歩けばトイレ休憩だ。
彼もするということで、私たちは別々の場所へと移動した。
やったーー!
チャンス到来!!
このまま全力で走れば、この金塊は私の物よ!!
しかし、木にもたれかかる老婆が目についてしまった。
「痛ててて……」
見ると、膝から血を流している。
どこかで転んで擦りむいたのだろうか。
んもう! 男だったら無視したのにぃい!
「おばあちゃん大丈夫?」
「ははは。ちょっと擦りむいちゃってね」
「これ。傷によく効く薬草だから。塗ったげるね」
「へぇ。薬草に詳しいんだね」
「へへへ。山暮らしが長いからね」
さて、傷口には薬草を塗って包帯で巻いてっと。
「これで、よし」
「ありがとうねぇ」
よし!
じゃあ、この金塊を持って……。
「リオ……。おまえは底なしに優しい子なんだな」
ああ……。せっかくのチャンスが……。
私の後ろにはグラディが立っていた。その顔には恍惚とした笑みを浮かべて。
〜〜グラディ視点〜〜
ふぉおお……。なんだこの子。
可愛い癖に優しいだと?
完璧か??
て、天使すぎる。
こんな子と一緒に仕事ができるなんてな。
最高だよ。
今日はついてる!
人生で最高の日だ!!
──
次回。最後です。
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