雷獣雷神

最初に飛び込んだのは綺麗な青い景色。

でも、それはすぐに変わった。

次に見えたのは、この世の物とは思えない程の醜い景色。

様々な人や妖の怒りや悲しみ、憎悪のような何かが堰き止められることなく頭に流れ込んでくる。


怖い。


早く楽になりたい。


私はその一心で銃口を自分の頭に向ける。

引き金を引こうとするが、誰かに止められた。

恐らくアキラ君が止めたのだろう。

そのまま脇に抱えられる。

今の私は足手纏いにしかならないだろう。

この何かで発狂しないよう耐えるしかない。

目を瞑り、舌を噛み、ただただ耐える。

そうしていると、どこからか鈴の音が聞こえた。

それと同時に流れ込んできていた何かがぴたりと止まる。

意を決して目を開けると、最初に見た綺麗な景色が広がっていた。

なぜ普通になったのかは分からないが、これなら大丈夫だ。


『ゴロちゃん!』


心の中で叫びゴロちゃんを呼ぶ。

すると思いが届いたのかゴロちゃんは首に巻きつき、私に力を流し込む。

私はアキラ君の腰ベルトに挿さっていた拳銃を取り出し、3発周りに撃つ。


雷神咆哮トールロアー


撃った銃弾から広範囲に雷が放たれる。

反動で後ろに飛び、出口らしき場所に向かう。

近づいてくる河童達は雷に当たり、追跡が出来なくなっている。


『このまま行けばって重っ!』


アキラ君が急に重くなる。

顔を見てみると、完全に気絶しており口から空気が漏れている。

…これもしかして私の雷当たった?


『こうなったら、やるよゴロちゃん。』


シリンダーに1本、銃弾ではなく螺子を装填する。

そして、ゴロちゃんに頼み力をさらに分けてもらう。

…私はアキラ君やフブキちゃんのように憑依に耐えられる身体では無い。

けど、それに近いことは出来る。

これは、1日7回撃てる私の必殺技。

銃を構える。

髪は少し浮き、赤みを帯びる。

銃から、腕から雷が溢れ出る。


雷神の槌ミョルニル


引き金と同時に、強い光と衝撃が辺りを包み込んだ。

私とゴロちゃん、アキラ君は陸に弾き飛ばされる。


「ケホッ、コホッ、」


口や肺に入った水を吐き出す。

直ぐにアキラ君の容態を見ると、呼吸をしていない。

急いで胸部を圧迫し、水を吐き出させる。

数回押した後、手に凄い熱が襲いかかった。

驚きのあまり離すと、クロちゃんが飛び出してきた。


「ゲホッ、ゴホッ、死ぬかと思った…」

「だ、大丈夫?」

「息苦しいし、身体中も痛いしビリビリする…あ、アキラの息は戻しといたぞ。」


アキラ君の口元に手を当てると、確かに息をしている。


「た、助かった。」

「あっれ〜?戻るの早いなぁ。」


声がする方向に直ぐ銃口を向ける。

その方向には先程の男がいた。


「お国の犬も意外と優秀だね。」

「さっきも国の機関とか言ってたけど、私たちはそんなんじゃないんだけど?」

「…え、そうなの?」

「オイラたちは百kムグッ」

「ただの個人経営よ。」

「まじか〜、それはごめんね。相手間違えたよ。」


男は申し訳なさそうにする。


「まぁでも、こっちのことを知られちゃったからには消えてもらうよ♪」

「っ!雷神咆哮トールロアー!」


3発撃ち込むが、霧からゲートを作り出され避けられる。


「あんまり時間が無いんだ、こっちもそれなりのレベルで行かせてもらうよ。」


男の首が淡く光る。

この光は見たことがある。

アキラ君の手にあるのと同じだ。


「憑依…」

「正解!」


男の額からは角が伸び、昔の鎧のような物を着ている。


「もしかして、鬼?」

「言う訳ないでしょ。」


マズイ。

鬼だった場合、色は赤から紫。

…私には荷が重すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る