第131話

実験をしていたら、あっという間に昼になっていた。

急いで食堂に向かっていると、ジェイムス様が歩いて来ていた。

「あぁよかった。すれ違わなくて」

なんとジェイムス様は律儀にお買い得な私との友達契約を守って、他の人から声をかけられないよう授業後研究室へ迎えに来ようとしてくれていたらしい。

意外と真面目だ。

この友達契約がなかったら、気づかなかった。


食堂ではナオとデニスさんが席を取ってくれていて、初めての4人ご飯だ。

「……」

き、気まずい。

というか、このメンバーで何を話せばいいのだろう。

沈黙が降りる中、最初に口を開いたのはジェイムス様だった。

「すまなかった」


たった一言だったけど、ジェイムス様の言いたいことはわかる。

「ジェイムス様。謝ってくださるというなら、一言いいかしら?」

ナオは一体何をいうんだろう?

「テルーと友だちになったと聞きました。色々あったので、正直まだ大丈夫かと不安は残ります。けれどテルーが決めたことに否をいうつもりはないわ。だけどね、これだけは覚えてて。ジェイムス様が伯爵令息でも……テルーを傷つけたら許さないから!」

ナオ!?

「い、一番の友達としてこれは譲れないわ」

「わかった」

一番の友達? 

そんな風に思っていたのかとジッとナオの顔を見つめる。

「もう、そんなに見ないで!」

デニスさんはジェイムス様に謝られるようなことされてないということで、ジェイムス様の謝罪からナオの一番の友達宣言まで終わった後からは、多少ぎこちなさはあるものの普通におしゃべりできるようになった。


「そういえば今日は何時に帰るんだ?」

「ちょっと勉強して帰ろうと思っているので、ジェイムス様先に帰って大丈夫ですよ」

そういうとジェイムス様とデニスさんがハーッとため息をついた。

「テルー、今日お兄さん来れない日でしょ。ジェイムス様と帰った方がいい。私も一緒にいたいけど、今日は店見てこようと思うから付き合えないし、必ずジェイムス様と帰ってきて。お買い得なんでしょ」

ジェイムス様も放課後の勉強に付き合ってくれるようで、私は放課後ジェイムス様と勉強することになった。


あっという間に午後の授業時間が終わり、ジェイムス様との待ち合わせの図書室に来た。

早速オルトヴェイン先生のレポートとメモ用紙を取り出す。

レポートはまだ真っ白だ。

昨日も少し資料を探したりしたのだが、なかなか考えがまとまらない。

真っ白のレポートとは対照的にメモ用紙は真っ黒だ。


資料室から借りてきた資料と本を突き合わせて、ガリガリとメモしていく私とそれをぼーっと見ているジェイムス様。

ちょっと……やりづらい。

「ジェイムス様もよかったら一緒に勉強しませんか?」

「お前はなんのためにそんなに勉強してるんだ?」

え?

唐突な質問に固まっているとジェイムス様も不思議な顔をして首を傾げる。

「お前は平民だ。しかも女だ。普通ならどこぞの平民と結婚するのだろうが、平民同士の結婚だ。そんなに勉強する必要ないじゃないか。それにこんな学校通わなければ俺らになんだかんだ言われる必要もないし、頑張って勉強してSクラスにならなければ、お買い得と言われることもない」

た、確かに!

言われてみればその通りだ。

「暴言吐かれたり、狙われたりしてもなんでお前は勉強するんだ?」

なんで……?

考えたことなかった。

学園に入ったのは、オスニエル殿下とアイリーンの勧めだったから。

でも、断ることもできたのだ。

家族が喜んだから?

確かに後押しにはなったけど……最終的に決めたのは私だ。

「なんでだっけ?」

「なんだそれ」

ジェイムス様は呆れた顔をしている。

「ジェイムス様は勉強されないんですか?」

ジェイムス様の質問にモヤモヤとした気持ちを持ちながら、話しかける。

「俺には必要ないから」

「必要ない?」


それからジェイムス様の話を聞くところによると、ジェイムス様の上には優秀なお兄様が二人いるそうだ。

もう跡取りもスペアもいる。充分だと。

「では、騎士になれと言われたのですか?」

ジェイムス様は騎士科だ。家の意向でそっちに進むのかもしれない。

「いや、言われていない」


ジェイムス様はそれ以上のことは語らなかった。

何か思うところがあるのかもしれない。

何があるかは知らないが、ジェイムス様は伯爵令息だが家の義務、干渉はないらしい。

あれ? それって……。

「自由ですね」

「は?」


私語が多いと言われて、図書館を出る。

今日必要な資料は見たから、今日は家でこれを基に考えてみよう。

私たちは門の方へ歩きながら話す。

「さっきの、自由ってどういうことだ?」

「えっと……。多くの平民は、私たちのように学園に通うことができません。通えても初等部くらいでしょう? そうなると大抵の平民の将来は決まります」

スキルを活かした職につくか、誰でもなれるが賃金、待遇の悪い職に就くかだ。

「多くの貴族だって将来は決まっています」

女性なら親に言われた相手と結婚することだろうし、男性なら親の跡を継ぐことだ。でもジェイムス様は違う。

クラティエ帝国一番の教育機関に在籍しているのだから、平民のようにこの仕事しかないという状況ではなく、努力次第で職を選べる可能性がある。しかも三男で、家からの干渉もない。

「だから、ジェイムス様の望むように生きられるじゃないですか。ジェイムス様は大人になったら何したいですか?」


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