第122話
Sクラスになって、私の毎日は快適だ。
何か文句を言われることも、ぶつかって巨神兵のあだ名が広まることもない。
というのも、昼休みに一緒にご飯を食べようと約束しているナオとデニスさん、同じクラスのイライアス皇子とクリス様、研究所のユリウスさんとジュードさんしか学校ではほとんど会わないからだ。
体術のクラスの時は、他の魔法科の生徒と一緒に受けるのだが、いかんせん私の体力が他の人と比べようになく悪いということで昨年同様、私一人別メニューなのだ。
社会学は、週に2日になったからとても楽になると思っていた。毎日毎日レポート出していたのが、週2回になるのだから。
ところがそんな期待の入った予想は完全に裏切られることになる。
去年は毎日レポートを提出していたが、大体1枚に収まる様なレポートだった。多くて2枚だろうか。
それが今年ときたら、週に2回とはいえ、5、6枚にも及ぶレポートなのだ。
全くオルトヴェイン先生は相変わらずスパルタだ。
薬草学、魔物学は2年ではもうないけれど、薬草学の助手は続けている。
魔法の授業が自由参加になったので、薬草学の助手をしていても昨年ほど忙しくない学生生活だ。
今日は薬草学の助手として温室に来ている。
「バンフィールド先生、これは?」
「これはメイの実よ。赤ソラスの葉と一緒にしてるとこんな色になるのよ」
これがメイの実!?
メイの実とは、緑色の実だったはずだ。
だが今目の前の瓶に入っている実は紛れもなく赤い色をしている。
赤ソラスの色が移ったのだろうけれど、そんな変化があるとは知らなかったなぁ。
「色が違うのでわかりませんでした。でも、なぜ赤ソラスと一緒に?」
「以前この2つの薬草をテレンスさんに頼まれて準備してたんだけどね。赤ソラスと一緒にしてると色が変わった! なんて言ってたから、気になって私もやってみたの」
テレンスさんは、魔法研究所の研究員だ。
確か研究科目は、『常用ポーションの開発』だったはず。
なれば、これは常用ポーションの材料になるのだろうか?
今日の助手業はそのメイの実の仕込みらしい。
というのも薬草から薬を作るバンフィールド先生も常用ポーションを作るテレンスさんも同じように人を健康にすると言う目的意識があり、共同研究したり、意見を交換したりする仲なのだとか。
テレンスさんはこのメイの実の滋養の強さからポーションを作れないかと試行錯誤しているが、バンフィールド先生はそれを体力のない子供やお年寄りに使う薬に混ぜ込むことで、回復を早められないかと研究しているらしい。
その為、大量のメイの実を準備していた。
たらい一杯のメイの実を見ると、少しげんなりするが、初めて扱う植物だから興味もある。
まずはもう1つのたらいに水を溜め、1つずつ丁寧に洗う。
それからヘタを取り、洗った赤ソラスと一緒に甕に入れる。
言うのは簡単だが、やるのは難しい。
ヘタがとても小さくて取りにくいのだ。
しかもこの量。
今日はそれだけで終わってしまった。
仕込み後にバンフィールド先生が紅茶を淹れてくれる。
2人でのんびり何気ない話をしながら、お茶を飲んでいるところにやってきたのはヒュー先生だ。
「よぉ! ばあさん。薬が切れたから、10個ほどもらえないか……。お? テルーいいところにいた! ちょっと今いいか?」
よっこらせと私とバンフィールド先生の間に座ったヒュー先生曰く、私が聖女と噂された処置の仕方を宮廷治癒師、宮廷薬師に直伝したのだとか。
怪我した場所を水で洗って、薬を塗って、魔力で蓋をするアレだ。
治癒師団長と薬師団長は練習の末できるようになり、実際に怪我の経過が良いと効果は確認できたらしい。
ただ、それ以外の治癒師、薬師ができないため、コツがあるかと聞きに来たのだという。
コツ……コツ?
グッと押さえるだけなんだけどな。
一応ヒュー先生にグッとするだけだと言ったけれど、全くわかってなさそうだった。
ヒュー先生が帰って気づいたけど、治癒師になるのは聖魔法使いばかりだから、彼らはこんな技術必要ないのではないだろうか?
「だって聖魔法使いなら薬を塗らなくても治せるのだし……」
「おそらく彼ら自身は使わないわ。有効性を確かめて、ギルドや薬師に情報を流すのよ」
考えていたことを口に出していたみたいでバンフィールド先生が教えてくれる。
先生曰く、帝国の医療関係は宮廷治癒師、宮廷薬師から新薬や危険な薬草などの情報が回るようになっているらしい。
危険な地域に行き、自分で処置しなければならない冒険者にも必要な情報なら冒険者ギルドにも情報を流す。
こうやって帝国の医療全体のレベルを保っているのだとか。
「あなたの治療法は、冒険者にも、日常的に起こりうる怪我にも使える話だと思うわ。だから、みんなが使えるような形で情報を流したいのだと思うわ」
みんなが使えるように……か。
何か方法はないかな?
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