11
夏のあいだ、色づいていくブドウをマリとロジェは毎日のように見に行った。
管理人のバルのあとを二人でついて回って、時にはロジェもブドウの房の摘み取りに加わった。
午後の休憩に、マリが木陰で休んでいるとロジェがソーダ水を川から引き上げて持ってきてくれた。小ぶりとはいえ瓶は重いはずなのに、彼は六本の束を軽々と持っている。マリではきっと重くて両手に一本ずつ持ってくるのが関の山だっただろう。
近くで休んでいるバルや他の小作人たちによく冷えたソーダ水を配って、最後にマリにも瓶を渡してくれる。栓を抜くのも手慣れた様子だ。ソーダ水には果物の香りがついていて、すっきりと甘い。
「よく飲むの?」
「学校で流行っているんです」
自分のソーダ水の栓を抜いて、口を付けるロジェはもう子供を半分抜け出しているようにも見えた。
「あーあ…可愛かったロジェが大人になっていくなぁ」
「僕は嬉しいです」
ロジェは面白がるように笑って、
「やっとマリさんにバスケットを持たせなくてよくなりました」
重いからといって持たせてくれなかった、と彼は口をとがらせる。そういえば、小さな頃からこればかりは不満げだった。ロジェは変なところで頑固だ。
「気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいきません」
拗ねたように言うロジェはやっぱりまだ可愛くて、マリが小さな子供によくやるように隣から頭を撫でるとちょっと睨まれた。
「今に、頭に手が届かなくなりますからね」
「そうだね」
まだ十二歳のロジェはもっと大きくなるのだ。マリの手が届かなくなるのは思っていたよりずっと早いだろう。
「マリ」
バルが遠くで手招きしている。そろそろ作業の再開かとロジェとマリは急いでソーダ水を飲み干す。
またバルのあとをついて回ろうとする二人に、バルは麦わら帽子をふたつ差し出した。
「娘夫婦のおさがりだが」
「貸してもらえるんですか!?」
少し古びた麦わら帽子は小麦色で可愛い黄色のリボンがついている。急いでボンネットをはずしてかぶると、やっぱり段違いに涼しい。
「似合う?」
同じく麦わら帽子をかぶったロジェは「ええ」と頷く。
「よくお似合いです」
マリが髪を結ったときと同じように言うロジェがなんだかおかしくて、二人は顔を合わせて笑い合った。
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