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「本当に大丈夫か」


 二年のあいだ、護衛を務めてくれた騎士のドミニクが強面を心配そうに歪めた。


「心配いらないです。王家の護衛がついてくれるし」


 マリが今から乗り込むはずの馬車の周りを取り囲むのは、すべて兜で顔を覆った騎士たちだ。馬車の中には世話をしてくれるという側付きメイドが二人。護衛というには物々しい様相だ。暗い色の目立たない馬車も相まって、聖女の嫁入りというより犯罪者の護送のようだった。


「わたしのことより早くおうちに帰ってあげてください。奥さんが待ってるんでしょう?」


 ドミニクは、二年前はまだ新婚だったというのに聖女の護衛が決まった不憫なひとだ。王都近くに巡礼でやってきたときには一時帰宅もしていたが、二年の単身赴任はやはり気の毒だった。


「……何かあれば必ず助けになる」


 マリの手を強く握って、ドミニクは離れた。他に護衛の騎士は五人いたが、彼のほかの見送りは許されなかったのだ。


「ありがとう。ドミニクさんもお元気で」



 マリがこのトルティナ王国へ召還されたのは、大陸全土に広がった瘴気を浄化するためだ。この世界では瘴気が充満するたびに魔物が凶暴化するので、定期的に浄化が必要だという。そのための浄化の塔が各地にある。選ばれた聖女は各地の塔へと巡礼に向かうのだ。

 聖女となるのは大変名誉なことだということで、どこへ行っても歓待を受けたが、浄化の塔の周りは一番魔物が多く出る。飛行機などない旅は歩き通しで野宿も珍しくなかった。


(よく生きてるなぁ…わたし)


 苦労知らずの現代っ子がよく生き残ったものだ。今や虫も大丈夫になった。

 どの世界でも同じだが、虫より怖いのは人間だ。


(いい人たちがいればいいけど)


 馬車に揺られること十日。くだんの侯爵領へ無事入ることができた。


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