2
「本当に大丈夫か」
二年のあいだ、護衛を務めてくれた騎士のドミニクが強面を心配そうに歪めた。
「心配いらないです。王家の護衛がついてくれるし」
マリが今から乗り込むはずの馬車の周りを取り囲むのは、すべて兜で顔を覆った騎士たちだ。馬車の中には世話をしてくれるという側付きメイドが二人。護衛というには物々しい様相だ。暗い色の目立たない馬車も相まって、聖女の嫁入りというより犯罪者の護送のようだった。
「わたしのことより早くおうちに帰ってあげてください。奥さんが待ってるんでしょう?」
ドミニクは、二年前はまだ新婚だったというのに聖女の護衛が決まった不憫なひとだ。王都近くに巡礼でやってきたときには一時帰宅もしていたが、二年の単身赴任はやはり気の毒だった。
「……何かあれば必ず助けになる」
マリの手を強く握って、ドミニクは離れた。他に護衛の騎士は五人いたが、彼のほかの見送りは許されなかったのだ。
「ありがとう。ドミニクさんもお元気で」
マリがこのトルティナ王国へ召還されたのは、大陸全土に広がった瘴気を浄化するためだ。この世界では瘴気が充満するたびに魔物が凶暴化するので、定期的に浄化が必要だという。そのための浄化の塔が各地にある。選ばれた聖女は各地の塔へと巡礼に向かうのだ。
聖女となるのは大変名誉なことだということで、どこへ行っても歓待を受けたが、浄化の塔の周りは一番魔物が多く出る。飛行機などない旅は歩き通しで野宿も珍しくなかった。
(よく生きてるなぁ…わたし)
苦労知らずの現代っ子がよく生き残ったものだ。今や虫も大丈夫になった。
どの世界でも同じだが、虫より怖いのは人間だ。
(いい人たちがいればいいけど)
馬車に揺られること十日。くだんの侯爵領へ無事入ることができた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます