第二部 第5章 1991年の夏
第38話 今年の夏は暑いと毎回言ってる気がする
ダービー終了後、念の為精密検査をしたカザマテイオーは左後ろ脚が若干のソエ気味という事で大事をとって早目に放牧に出す事になりました。
史実は乗り越えたもののやはり脚元に影響はでた為ヒヤヒヤしましたよ、大谷さんとも話し合いをして化骨に不安がなくなるであろう来年辺りまでは強い調教やレースでの激しい追いは控える事で同意し秋に挑む事になります。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
7月を迎え、今俺はブラザーズと共に福岡に来ています、理由は
「めーーん!」
「一本! それまで」
「「「「やったーー!」」」」
玉竜旗大会において我が戦闘部門担当の岡崎夫妻(仮)の見学の為、そして今目の前で健太が準決勝で勝利し、これで早苗と共に決勝の舞台に立ちました。
昨年は疑惑の判定? もあってか今年こそと健太や早苗より周りの方が盛り上がってる気がします
「健太先輩やったっす、決勝で田崎の奴にリベンジっすよ!」
「わかった、わかった」
「早苗先輩、団体での借りを返すチャンスですよ!」
「やるからには、勝つわよ、でも貴方達も落ち着きなさい」
てな状況、寧ろ健太と早苗よりも周囲がイレ込んじゃってる、うちの学校はスポーツ関連の名門って訳じゃないのに全国決勝まで来る2人の実力は、一部名門のOB達から蛇蝎の如く嫌われてるのだ
判定で物議を醸したのもその辺りが影響してる模様、なんだかな〜とは思うが、今日は念の為助っ人を私費で用意してあるのだ
「なんじゃ、あっさり決勝まで来たの〜」
「ジジイ控えてろよ、いつ出番があるかわからん」
「まあ相手との差はほぼ五分と言ったところかの? 良き修行相手よ」
先に早苗が決勝の舞台に立つ、昨年疑惑の判定で決勝で負けた相手の様だ、2人共静かに闘志を燃やしている
「始めー!」
「キャーー」「リャーー」
始まった、早苗の相手は昨年全国覇者の武宮さんだ、開始1分は静かな立ち上がりだったが1分を過ぎた辺りから相手武宮さんの烈火の様な猛攻、だがこの猛攻を早苗は耐え凌ぎ刹那のタイミングで小手を返す
「てーー!」
決まった! だが審判が浅いと判断し無効の旗を上げる、周囲がざわつき始める、そりゃそうだ俺の目で見ても有効はあったろう
だが判定が覆る事はなく、そのまま試合再開の合図、しかし相手の武宮さんの様子がおかしい?
急に動きが悪くなり、早苗から防戦一方になる
「悪い爺さん、やっぱり出番みたいだ」
「任せておけ、悪い様にはせんわい!」
「場外!」
やる気なく場外へ出た武宮さん、その後再開の合図も力なく項垂れる武宮さんへ監督からではなく審判長から
「武宮ーー!」
と恫喝の声が響く、いやお前が恫喝するんか〜い、と驚いてるとそいつの後ろから
「山辺〜、随分と偉くなったらしいの〜!」
「なんだおまぇ?! 藤林先…輩!」
「おう久しぶりじゃの山辺、今日は弟子の2人の様子を見る為に来たんじゃが、お前何をしとるんじゃ?」
いきなり審判長はしどろもどろになる
「いや、これは、あの……その」
「今度会長と飲みに行く約束をしとるんじゃが、何か言いたい事あるなら聞いてやるぞ?」
更にジジイが小声で
「お前らの小さい面子の為、若い芽を台無しにするつもりならワシにも考えがあるぞ!」
ヘナヘナと下半身から崩れる審判長がそのまま土下座の体制になり試合が一時中断、その際に早苗が武宮さんに小声で
「うちの師匠が何とかしたらしいわ」
と伝えた事ではっとした武宮さんに小さく早苗が頷き、やる気を取り戻した武宮さんと早苗は試合再開後、また火の出る様な一進一退の打ち合いを繰り広げる
最終的にお互い決着がつかず時間切れだったものの、判定は無効ではあった小手が支持され早苗の判定勝ち、これで早苗が初の全国制覇を成し遂げたのであった
試合後はお互い握手を交わし
「いつかまた、今度は正々堂々の勝負で!」
「ようやく戦績が1勝1敗に追いついたんですから次こそ決着をつけましょう!」
こうして全国大会の幕は降りた
えっ、健太は? OBの圧力も無くなった事で対戦相手と暑苦しい戦いの末、一応勝って全国制覇しましたよ、その後の地獄の様な汗だくの男同士の抱擁を口にしたくなかったんです、察してくれ!
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