第37話 第二の関門 日本ダービー

 ダービーの1週間前


「本気なんですか?」


 例の記事について、大谷さんからも散々苦言を呈され、後ろでは再度大谷夫人から羅刹の目で睨まれた後、俺はダービーについてある提案をしていた。


「はい、日本ダービーはテイオーに最後まで全力で走ってもらいます」


 そうカザマテイオーは今まで直線で抜け出した後余裕があった為、直線では最後まで追わずにレースを終えていたのだ


 ただ今回ダービーではテイオーに全力で走ってもらう事を大谷さんに提言した


「今までアレだけ脚元の影響を考えていた貴方が今回に限り何故?」


「今回盛り上がりを見せる日本ダービーで、全ての競馬ファンに本気のテイオーを知らしめる為です」


 そう一つはカザマテイオーの全力を全国の競馬ファンに見せつける為、だがもう一つ本当の理由は史実でこのレースで骨折する事になるテイオーのifが成ったのか確認する為だ


「今まで繊細で緻密な努力にてテイオーの調教を進めてくれた大谷さんには申し訳なく思っています、ですがこの晴れの舞台でカザマテイオーがどれだけ凄いのか全国に向けて提示したいのです、お願いします!」


 俺が頭を下げると、ため息を一息つき


「正直言って、テイオーに負担となるやり方はお勧めしたくないのですがあの時、私の心のケアまで腐心してくれた貴方のお願いです、レースまで全力でサポートさせて貰います」


「有り難う御座います!」


 こうして私達はダービーに全力で挑む事にしたのだ



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 場面変わって府中競馬場、パドック馬主エリア


『無敗の二冠馬へ、飛翔カザマテイオー』


 今日は無難な応援幕だな


「本当はもっと派手にしたかったんですけど、誰かさんがど派手に宣伝してしまったので」


 真理子さんにジト目で睨まれる


「コホン、こうしてみるとテイオー人気で盛り上がってるのがわかるね〜」


「絶対に勝つからテイオーは!」


 パドックでのテイオーの様子も万全の様だ、日原騎手も今日は覚悟を決めた目をしている


「さあ時間だ、馬主席に行こう」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「第58回日本ダービー、20頭、全部がゲートに収まって体制完了、スタートしました!」


 テイオーはまずまずのスタートで6番手くらいだ

折り合いもついていい感じ


 最初のコーナー、なっ?! テイオーの進路を3頭の馬が塞ぎに来やがった!


 クソ、悪目立ちしたのがここで影響したか! 日原騎手すんません、一部周りから怒号が飛び交う


「ちょっとありゃあねえだろ!」


 前を塞がれて立ち上がりかけたテイオーは少し位置を下げインに入ろうとするも後方から位置を上げた他馬にインから締め出される、俺は思わず手すりに向け右手を叩きつける、そこまでするか!


 場内が騒然とする中、一瞬で判断した日原騎手は外へ持ち出す、不利を承知の上で大外へぶん回して後からレースする覚悟を決めたのだろう


「頑張れテイオー!」


 小次郎達もありったけの声援で後押しする


「3コーナーを超えてカザマテイオーは現在後方から3番手、後からの競馬になります、第4コーナーを抜けて先頭はアフターユー、しかしここで捕まったか直線に入ります、カザマテイオーは大外を回って直線に向かう」


 くそ、やはり大外からの競馬になった、テイオー頑張ってくれ


「さあ最後の直線、カザマテイオーはまだ後方、レオターバンが内から先頭に立った、レオターバンが先頭、残り200m」


「いけーテイオー!」「頑張れー!」


 俺も祈る様に「頑張れテイオー!」


「ここで外からカザマテイオーが来た、凄い足だ、先頭レオターバンにあっという間に追いつく、そのまま1馬身、2馬身グングン突き放す、3馬身、4馬身、とてつもない末脚、これは強いこれは強い、まだ突き放していく、まさに天翔ける走り他馬を突き離して今1着でゴールイン、カザマテイオー無敗のまま二冠達成、残るは後一つだ」


「いよっしゃーーーー!!」

「やった〜!」

「うわーーーー!」


 俺の心配など何事もなかったかの様に、まさに天才の走りでカザマテイオーが日本ダービーを制した。


 ホームストレートに引き返して来たテイオーに向け


「テイオー! テイオー! テイオー!」


 の大合唱、思わず目が緩んでしまった俺の目の前で日原騎手が2本の指を天に向け翳す、今度は


「日原! 日原! 日原!」


 の合唱が府中の森に木霊した



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 ウイナーズサークルにて、俺は慌てて大谷さんに確認する


「テイオーは無事ですか?」


「安心して下さい、少し後ろ脚が気になる様ですが痛みはそれ程でもないです、大丈夫」


「良かった」


「おめでとう御座いますオーナー、これで貴方もダービーオーナーの一員ですよ」


「そんなのはどうでもいいです、テイオーが無事なだけで」


 俺は歴史のifを乗り越えたテイオーを思わず抱擁するが、テイオーに頭をムシャムシャとされてしまった


「この野郎、心配した俺に向けてその態度はなんだ?」


 ヒヒーンと笑うテイオーに今度は小次郎が飛びつく


「すごかった、本当にすごかったよテイオー!」


 今度は優しい顔で小次郎を迎えるテイオー、この野郎態度に差があり過ぎるだろう!


「さあ口取り式ですよ、どうぞこちらに」


 俺は呼ばれたが


「小次郎、お前と真理子さんが行け」


「えっ、ダービーだよ良いの?」


「ああ、2人に任せる、俺は次の口取り式に出るからな、ここは任せるよ」


 そうifを超えてカザマテイオーが三冠を取った時、その時こそ俺が口取り式に参加するんだ


 こうして第58回日本ダービーは最高の形で終わりを告げたのであった。


カザマテイオー 5戦5勝 無敗 日本ダービー制覇

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