第152話 懐かしの客

「ふぅーーーー……ッ!!!!」


目当てのモンスター、バルドセンチネルを発見したアストは普段使用しているロングソードをしまい、鍛冶師ベルダー作の風刀を取り出し、気付かれる前に風の斬撃波を飛ばした。


「ッ!!! ッッッッッッ!!!!」


ギリギリで反応したバルドセンチネルは咄嗟に全身に魔力を纏うものの、アストが放った風斬波を耐え切ることは出来ず、ズバッと斬り裂かれた。


思いっきり斬り裂かれたのだが……怒りを露にしながらアストを見つけ、襲い始めた。


(はぁ~~~。これが昆虫系? の嫌なところなんだよな)


明らかに風斬波によって切断されたバルドセンチネルだったが、体が二つともまだ動いており、そのままアストに襲い掛かった。


「よッ、ほッ、っと」


顔がある方はともかく、顔がない方の個体は何故自分の方を正確に把握してるのか、もしかしたら両方ともスキルを持ってるのかなど、色々とツッコミたいことが頭の中に浮かびながらも、アストは後方に下がりながら幾つもの風斬波を放つ。


バルドセンチネルとしては躱しながら近づきたいものの、それが出来るほど温い攻撃は放たない。


結局バルドセンチネルは十等分ほどにされ、ようやく動かなくなかった。


「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」


「っし、終わった終わった。それじゃ、早いとこ解体しないとな」


見た目的に嫌われることが多いバルドセンチネル。

それを解体するとなれば、更に忌避感が増してしまう者が多いのだが……アストはどれも同じだろという精神で解体をスタート。


「ふぅ~~~。誰も襲って来なかったのは、ラッキーだったな」


体長がそれなりに長いこともあり、解体にはそれなりに時間が掛かる。


解体が終わるまでに二体か三体程別のモンスターが襲いかかってくるかと予想していたアストだったが、幸運にも一体も襲い掛かってくることはなく、解体は終了。


目的を果たしたアストは地図を確認し、即座に地上へのルートに向かう。


道中で面倒な事に巻き込まれることもなく、無事生還し、そのまま街へと戻って冒険者ギルドに直行。


(……まだ、超混む前だったかな)


既に日は殆ど落ちており、街の外で活動している冒険者がそれなりに戻ってきていた。


依頼を終えた者、素材を売却する者、併設されている酒場で夕食を食べる者たちで、ギルドのロビーでは徐々に徐々に冒険者で溢れていく。


「……やはり、今日中に終わらせたんですね」


「あぁ」


アストの順番が回って来た。担当する受付嬢は……昼間に久しぶりに会ったリーチェだった。


「バルドセンチネルの甲殻だ」


「…………………………流石ですね」


「どうも」


アストがバルドセンチネルを相手に行った攻撃は、風刀から放つ風斬波のみ。

加えて、直撃した風斬波はどれも弾かれることはなく、見事にバルドセンチネルを切断していた。


結果、バルドセンチネルの甲殻は全て目立った傷なく手に入れることに成功。


「こちら、達成報酬です」


「あぁ」


顔見知りではあるが、今は仕事の時間。

二人はそれ以上何も話さず、リーチェは次の冒険者の相手を……アストは素材買い取り用のカウンターへと向かった。


(なんか……チラチラと視線を感じるな。俺の事を覚えてる奴らか?)


列に並んでいる間、多数の方向から視線を感じるアスト。


ここ最近、冒険者としても名を上げているアストではあるが、本人の見た目がそこまで派手ではなく、特徴的な部分もないため、知らない者があのアストだと気付くことは少ない。


だが、知っている者であれば……過去に共に戦った経験がある者などからすれば、割と忘れずに覚えている事が多い。


(今絡まれるのは……避けたいかな)


大勢の冒険者たちがいる場所で、影響力がありそうな人物には絡まれたくない。


そんなアストの思いが天に通じたのか、ギルドを出るまでは誰に関わらずに退室することに成功。

その後、泊っている宿の食堂で夕食を食べ終え、適当な場所でバー、ミーティアを開店。


「やっぱりいたな」


すると、開店してから僅か十五分後、早速一人目の客が来店。


その客はアストの事を知っており……アストも、その客の事を覚えていた。


「久しぶりですね、ヴァーニ」


ヴァーニ、と呼ばれた赤髪短髪の男は、アストと同じく冒険者として活動している男。

体格はアストと同じぐらいであり、歳はアストよりも五つほど上の青年。


「あぁ~~、その喋り方は止めてくれ。お前のこう……仕事に対する姿勢とかは解るけど、マジでムズムズする」


「……ふふ、解ったよ」


まだ客がヴァーニだけということもあり、アストは砕けた口調で話すことにした。


「一杯目は……やっぱり甘いカクテルかな」


「おぅ。あれだ、えっと……カルアミルクって奴で頼む」


「オッケー」


相変わらず顔に似合わず甘いカクテルを頼む男だと、そのギャップに対して小さな笑みを浮かべながらも、アストは楽しそうにカルアミルクを作り始めた。

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