第151話 安全優先
(……この空気も、懐かしいな)
ラプターから少し離れた場所に、暗恐の烈火と名付けられたダンジョンが存在する。
ダンジョンの周辺には多くの屋台や店が存在し、ちょっとした街……とまではいかないが、村と呼べるほどの広さの建物が建設されており、熱気に関しては村と呼ぶには熱過ぎる。
(昼過ぎだからか、少しは落ち着いているな)
ダンジョンの入口周辺には、自分を売り込む冒険者や、必要なメンバーを口にして勧誘するパーティーもいる。
現在は昼過ぎということもあり、殆どの冒険者たちは既にダンジョンに潜っているが、まだチラホラと冒険者たちが入口前にいた。
そんな中、一人の冒険者が訪れた。
身に付けている装備品などから、見た目は若くともルーキーではない事を察した者たちはアストを勧誘しようとしたが……声を掛けられる前に、アストは意味ありげにアイテムバッグの中から風刀を取り出した。
「「「「っ…………」」」」
(そうそう。下手に声を掛けてくれない方が助かる)
アストとしては、どんな冒険者に声を掛けられたとしても、今回は同業者と一緒に探索するつもりはない。
当然、アストは取り出した風刀で誰かを斬りつけるつもりはないが、それでも他の冒険者がどう感じるかは……その人たち次第。
アストはその感じ方などは一切気にせず、ダンジョンへと入った。
「…………そういえば、こんな光景だったな」
入る際、アストはとある棒状の物体に手を置き、二十一階層転移したいと念じていた。
その結果、二十一階層の洞窟にアストは転移。
暗恐の烈火は洞窟と遺跡が複合されたタイプのダンジョンであり、二十一階層は洞窟の階層となっている。
アストが受けた素材納品依頼の対象であるバルドセンチネルは、良く二十一階層以降の階層で確認されている。
「そうだ、あれを付けとかないとな」
アイテムバッグの中かあるイヤリングを取り出し、片耳に装着。
これにより、アストの聴覚が強化された。
百足系モンスターであるバルドセンチネルは、足音が小さい。
だが、移動する際の足音が特徴的なこともあり、耳にすることが出来れば、直ぐに近くに存在するのかが解る。
(……この感覚、久しぶりだな)
常に緊張感を感じる。
当然、街の外で探索する際も緊張感はあるものの、アスト的には普段の探索とダンジョンでの探索時では大きな差があると感じている。
これはアストだけの感想ではなく、多くの冒険者たちが似た様な感想を持っていた。
(ん? あぁ……もうロックオンされたか)
諦めた表情を浮かべながら、アストはロングソードを抜剣。
数秒後には上位種のコボルトが複数体現れた。
「「「ガァアアアアッ!!」」」
「本当に、元気な事で」
ダンジョンに生息しているモンスターは、地上に生息している同じモンスターと比べて好戦的、気性が荒い傾向がある。
アストも初めてダンジョン探索を行った時、その差に面食らったことがあった。
だが、今では慣れた様子でロングソードに風を纏い、まずは一体目の爪撃を躱しながら腕を斬り落とし、二体目の短剣による刺突を躱しながら風斬波を放つ。
一体が死に、もう一体も腕から大量の血を流しているにもかかわらず、残りの一体はその状況気にも留めず爪から魔力による斬撃波を全力で放った。
(それは食らいたくない)
そう主ながらアストは横に飛んで回避。
追撃がくるも、アストが放った斬撃波が先に上位種コボルトの脚に直撃。
「ガっ!?」
一体は片腕が斬り落とされ、もう一体は両足に大きなダメージを負った。
その状態になれば、もはや数の有利などは一切なく、ワンサイドゲームになった。
「ふぅ……ダンジョンに入って早々、肩慣らしにはなったか」
アストが狙っているバルドセンチネルは、コボルト上位種三体よりも強い。
あまり別のモンスターに遭遇し過ぎてバルドセンチネルに遭遇する前に体力が削られるのは良くないが、それでも軽く体を暖めておく必要はあった。
(魔石だけを回収しておこう)
上位種とはいえDランクであるため、アストにとっては丁寧に素材を剥ぎ取る価値はないが、それでも魔石だけは回収。
死体に関しては、ダンジョンは人間やモンスター関係無く、死んだ肉体はダンジョンが吸収して食べてしまうため、あまり気にしなくて構わない。
「…………向こうに行ってみるか」
アイテムバックの中から地図を取り出し、現在地と過去の記憶からバルドセンチネルと戦ったことがあるであろう場所を思い出す。
ダンジョンの地図に関しては冒険者ギルドに金を払えば購入出来る。
冒険者の中には、初めて探索するダンジョンなら地図を買わず、自分たちでマッピングしながら進みたい!!!! と考える者もいるが、アストは基本的に迷って死ぬような真似はしたくないので、多少金が掛かっても地図を購入している。
(そういえば、リーチェに変わってるかどうかを聞いてなかったな……まぁ、一年と少しぐらいで変わることはないか)
気にするだけ時間の無駄だと思い、アストは一時間ほど移動し続け、二回ほどモンスターと戦いながらも……ようやく目当ての足音が耳に入った。
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