第150話 再会

「アスト、よね」


「ん? あぁ……リーチェ。久しぶり」


青髪のセミロングの美人受付嬢、リーチェ。

髪色と髪型、加えて大人しめのクールな表情に、豊満な胸。


それらの特徴から、アストは直ぐに以前ラプターで活動していた際に出会った受付嬢であることを思い出した。


「一年ぶりぐらいかしら……また、少し老けた?」


「大人になったと言ってくれると嬉しいんだが」


「出会った時には、既に中身も外見も大人だったからね」


クールな表情を少し崩し、微笑を浮かべながら話すリーチェの姿に……同僚の受付嬢たちや、偶々ロビーにいた冒険者たちは目を点にしながら驚いていた。


クールな表情、態度は普段からであり、同僚たちと話している際には笑みを浮かべるものの、基本的に冒険者たちと喋っている時はクールな表情を崩さない。

そして……同僚である受付嬢たちであっても、今目の前で浮かべている笑顔は見たことがなかった。


それもその筈であり、リーチェはアストに体の関係を許したことがある。


「それにしても、あなたは旅をしてると聞いてた筈だけど……どうしてまたラプターに?」


「知人に、ダンジョンはどんな場所なのかと尋ねられて、それに答えた。そしたら……久しぶりに探索してみるのも良いなと思ってな」


「知人、ね……本当に知人なのかしら」


「本当に、ただの知人だよ」


からかう様な問いに対し、アストは特に慌てることはなく、いたって冷静に返した。


「そう……何はともあれ、また来てくれて嬉しいわ。ついでに、またバカな子たちを躾けてくれると、更に嬉しいかしら」


「勘弁してくれ。リーチェ、俺は基本的に一冒険者だ。そこら辺を忘れないでくれ」


「バーテンダーとしても活動してるのに?」


「……あぁ、そうだな。その辺りだけはちょっと違うな。ただ、その点を除けば一冒険者だ」


「…………ふふ、そういう事にしておくわ」


一方的に絡み、用が済んだとばかり受付嬢としての仕事に戻るリーチェ。


(あいつ……あんなに人をからかう様なタイプだったか?)


アストの記憶が正しければ、リーチェは個人的に会話する分には楽しいものの、人をからかう様なタイプではなかった。


(それに、サラッと笑ってたな…………何か良い事でもあったのかもな)


気にしても仕方ないと思い、アストは再びクエストボードに視線を戻す。


(……………………これを、受けるか)


数分後、アストは一枚の依頼書を取った。


「これを受ける」


「かしこまりました……それで、一人で受けるのかしら?」


カウンターにいたのは、先程話しかけてきた受付嬢のリーチェ。


「あぁ、そうだよ」


「……二十一階層で探索すれば、その日のうちに帰ってこれるって計画かしら」


「そうだ」


「…………まぁ、あなたら大丈夫ね」


そう言いながらリーチェは依頼を受理した。


「気を付けて」


「あぁ」


余計な言葉は挟まず、二人は特に食事の約束などすることもなく別れた。





「り、リーチェ」


「何かしら?」


「今の冒険者、仲が良いの?」


恐る恐る先程の冒険者との関係性を尋ねるリーチェと同期の受付嬢。


「そうね……多少ね。でも、忘れたの? 彼、あのアストよ」


「アスト…………あっ、あのアスト君ね!」


遠目からしか見ていなかった為、彼女はアストがあのアストだと判別できていなかった。


「なんか、ちょっと大人びてたわね」


「そうね。一年ぐらいしか経ってないのに、ちょっと老けてたわ」


「あれでしょ、それだけ本業はバーテンダーだって言いながら色々と首を突っ込んで、刺激が強過ぎる冒険をしちゃってるんじゃない」


「……あり得そうね」


二人とも受付嬢ということもあり、ラプター以外で活動している冒険者の情報も耳に入ってくる。


「多分、あの噂も本当なんでしょ」


「アストが、Aランクモンスターを討伐したっていう話ね」


当然……アストがAランクモンスターを討伐したという、ビッグニュースも彼女たちの耳に入っていた。


アストのランクがCということもあり、最近就職したばかりの受付嬢、ギルド社員たちは信じていなかったが、一部の者たちはあのアストなら……と、割と信じていた。


「あら、なんだ浮かない顔ね」


「……彼の実力なら、基本的にはBランクモンスターを相手にするので限界。だから…………その話が本当だというなら、相当な無茶をしたという事よ」


「あっ、そっか…………ん~~~~~、そう考えると、あまり手放しで喜べない感はあるわね」


アストが、他の冒険者たちにはない特別なスキルを有していることは、彼とそれなりに関わりのあるギルド職員であれば気付いている。


ただ、それと同時に素のスペックだけを考えれば、Aランクモンスター……もしくはそれクラスの実力を持つモンスターと互角に戦うことは出来ないことも知っている。


しかし……状況によっては、だからなんなのだと……あまりにも冒険者らしくなく、地獄の業火に足を踏み入れてしまう。


(そんな癖も……直ってないのでしょうね)


気にしてもしょうがないと解っていても、それを知っているからこそ……心の中から無事に帰ってきてほしいと、今更な言葉を零した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る