第145話 切っ掛けになる門
「…………」
アストはパーラたちと食事を取った後、ミーティアを開いていた。
夕食後に店を開く……それを聞いた時、パーラはそのままミーティアで二次会を開こうとしたが、普段以上にエールを呑んでいたため、千鳥足状態。
同時にケリィーもアストのダンジョン冒険譚を聞いててテンションが進み、同じく千鳥足状態になってしまっていたため、モルンとフィラが二人を背負って宿に戻って行った。
因みに、夕食で呑んだアルコールの摂取量はアストにとって肝臓一分目程度であるため、仕事に全く支障はなかった。
(ダンジョン、か…………ふふ、本当に懐かしいな)
過去の冒険を懐かしむほどアストの冒険者歴は長くないが、それでも以前ダンジョン探索を行ってから、既に一年以上が経過していた。
(本当に……本当に危険な場所ではあったけど、それでも……楽しかったのは、間違いないな)
ダンジョンを探索するとなれば、基本的にパーティーを汲まなければならない。
アストはコミュ障ではないため、初めてパーティーを汲む同業者たちと打ち解けるのも早く、普段は一人で行動しているが……パーティーで行動する楽しさも知っている。
(…………久しぶりに、探索してみるのもありか)
副業として活動しているものの、間違いなくアストの体には……冒険者としての血が流れている。
加えて……ダンジョンには、稀に中に酒が入った宝箱が出現する。
基本的に宝箱の中に酒が入っていれば、ハズレということはない。
ドワーフたちの養命酒である火酒なども、宝箱などから手に入るため、それだけでもアストにとってダンジョンは探索する価値が価値があった。
なんて考えていると、早速一人目のお客さんが来店。
「いらっしゃいませ。こちらおしぼりとメニュー表になります」
「ど、どうも」
来店客は比較的若く、歳はアストとそんなに変わらない。
(ふむ……体付きは良いけど、モンスターや盗賊を相手にしてる、って感じじゃないな…………となると、建築業か鍛冶場で仕事をしてる人か)
ゴリマッチョというほどではないが、程々に良い筋肉を身に付けている青年の名はルパンダ。
アストの予想通り、新米鍛冶師として働いている青年である。
「………………あの、すいません。俺、バーに来たことがなくて、あまりカクテルの名前とか知らなくて」
ルパンダは、この露店がここ最近、騎士団の騎士たちと共に激戦を制止、名が広まった英雄……アストの店だと知っていた。
彼がバーテンダーとして活動している話も、何となく知っていた。
ルパンダは失礼かもしれないと思いながらも……初めて訪れるバーに、ミーティアを選んだ。
「畏まりました。それでは、価格帯はこちらの商品をベースに飲みやすい一杯を作りますね。おつまみ、軽食の欄はこちらになります」
「あ、ありがとうございます」
つまみをどれにしようか悩んでいる間に、アストは吞みやすさ抜群……しかし吞み過ぎ厳禁であるカルアミルクを作った。
「っ、なんと言いますか……割と、甘いですね。でも、エールとか同じように、ちゃんとアルコールの味がする」
「個人的に、カクテルを始めて呑む方へのお勧めの一杯です」
呑む側の意見であれば、アストはアレキサンダーをお勧めしたい。
ただ、今のアストは客ではなく、ミーティアという城の主であるバーテンダー。
仮にエールなどの酒は呑み慣れているとしても、カクテルには果実水の様なカラフルで呑みやすい味がある。
アルコール度数が自慢の指標となってしまっている者はバカにするかもしれないが、アストは酒なのにこんな飲みやすい味があるのかと……まず、それを知ってほしい。
それが、カクテルへの扉になると考えている。
「えっと……このクラッチホークの唐揚げと、マルゲリータピザを一つずつお願いします」
「畏まりました。少々お待ちください」
注文を受けたアストは慣れた様子で調理を開始。
その間、二人の間に会話はなく……ルパンダはちびちびとカルアミルクを呑みながら、クラッチホークの唐揚げとマルゲリータピザを作るアストの姿を眺めていた。
(? やけに見られるな)
ちょっと珍しいなと思いながらも、誰かに見られながら作るという事には慣れているため、アストは普段通りの様子で完成させていく。
「お先にこちら、クラッチホークの唐揚げになります」
クラッチホークの唐揚げの提供後、十分以内にマルゲリータピザが完成。
唐揚げを食べ、カクテルだけではなく料理も美味いと確信していたルパンダ。
出来立てということもあり、熱々ではあるが……ルパンダはその熱さを我慢し、思いっきりかぶり付いた。
(作った料理を美味いと言ってくれたお客さんは、有難いことに何人もいた……でも、ここまで美味そうにかぶり付いてくれるお客さんはいつぶりだろうな)
あまりにも良い食いっぷりに、作ったアストとしても見ていて無意識に本音が零れる。
だが……皿から料理が無くなった頃、突然ルパンダは涙を零し始めた。
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