第51話『情報収集と遭遇』

「さて、この後についてだが。どうするカノア?」


 一時解散の流れとなり、次の予定についてエルネストが問い掛けると、カノアは周囲の目を気にしながらこの場の人間にだけ聞こえるくらいの声量を発する。


「解散する前にもう一つだけ伝えておかないといけないことがあるんだ」


 重要な話であることを理解したこの場の面々は今一度カノアの言葉に耳を傾けた。


「実はキリエが誘拐されたのと同じように、キリエの母親も何処かに連れて行かれてしまったらしいんだ。キリエの話によると、攫った奴らはクサントス帝国の何処かに居る可能性が高いということだ。俺たちはこの後、一度この街でも情報収集をしようと思っている」


 カノアがそう告げると、エルネストは沈痛な面持ちで答える。


「なんだと……。そう言うことなら俺たちも協力するぜ」


 エルネストがそう言うと十字架スタブロスの面々も同じ気持ちだと頷いた。

 キリエはその気持ちを受け取ると、沈んで居た表情を僅かに明るくし、涙ぐんで答える。


「みんな……。ありがとう!」


「全員一緒に動くってわけにはいかないな。何人かずつでチームを組んで行動するぞ」


 エルネストがその場を取りまとめるように今後の行動について提案をする。

 少数ながらも一組織のリーダーを務めているだけあってか、エルネストは的確に今後の行動について計画を練り上げていった。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「さて、何処から行ってみる?」


「そうだな——」

 

 横を歩いていたティアが声を掛けると、カノアは周囲を確認するように視線を動かした。


「内容が内容だけに誰彼構わず聞いて回るわけにもいかない。まずは情報が聞けそうな場所を探すところから始めよう」


「うん♪」


 カノアはティアとの二人チームだった。行動範囲はこの街に来てから歩いた場所のみだったため、二人で回ることになった。

 他チームの内訳としては、土地勘の無い街でもある程度情報収集に長けていると判断されたアイラをリーダーとしたアイリとキリエの三人チーム。

 エルネストたち十字架スタブロスの四人は、この街にある程度滞在していたこともあり、各々が単独で情報収集に当たることになった。


「表立って流れるような情報ではないことを考えると、アイラたちが居たようなスラム街を探すのが手っ取り早いが——」


「わっ!?」


 カノアが目的から逆算して自分たちの行動を組み立てていると、背後から誰かが走って来た。

 その人物は勢いよくカノアにぶつかると、覆いかぶさる形で二人はこける。


「大丈夫!?」


「痛てて……。なんなんだ、急に……」


 ティアが二人に声を掛けると、カノアに覆いかぶさっていた人物は自身の顔が見えるように少し深めに被っていたフードをめくってをする。


「ごめんね! ちょっと急いでて!」


 フードからチラリと覗いた顔はカノアより少し年上に見えるが、大人とも少女ともいえるような端正な顔立ちだ。

 来ているローブも高級そうな素材だったため、おおよそ何処かの貴族であることが伺える。

 その女は平謝りしたのも束の間、カノアの胸元を覗き込むように顔を近付けて凝視し始めた。


「どうした?」


「やっぱり、このネックレス……。ねぇ、君——」


「居たぞ!!」


 女が何かを言い掛けると、大勢の衛兵たちが声を上げながら走って来るのが見えた。


「やっばい! じゃ、じゃあごめんね!!」


 衛兵たちの姿が近付いてくると、女は素早く立ち上がって一目散にその場を後にする。


「何だったんだ、今のは……?」


 その後やってきた衛兵たちは倒れているカノアたちには目もくれず、その場から逃げ出した女を追いかけて行った。

 まるで暴風雨が過ぎ去ったかのような静けさが訪れると、カノアたちは呆然と女が去った方向を見つめていたのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆


 カノアたちはつい数時間前にも訪れていた中央街へと出向くと、この街について紹介してくれたマリネラを見つけて声を掛けた。


「やぁ。少し良いか?」


「あ、さっきの! また会ったね♪ 今度は二人?」


「色々と野暮用でな。聞きたいことがあるんだが、この街で情報を集めるとしたら何処か良い場所はあるか?」


「情報?」


「ああ。どちらかと言うと、あまり表に出ないような噂が聞けるような場所が望ましい」


 カノアが何か含むような言い方をすると、マリネラの目がきらりと光る。


「なるほど~」


「どうした?」


「君もクールな見た目に反して、なかなかのゴシップ好きなんだねぇ♪」


「いや、そういうわけじゃ——」


 マリネラは「お主も悪よのう」とでも言いそうな雰囲気で悪い笑顔を浮かべる。


「秘密の情報を手に入れたいなら、やっぱり酒場かな! あ、でも君はまだお酒呑め無さそうな歳だから入れないかも……。となると、裏路地を進んだ先の飾り窓区画か、それとも法が存在しないと言われてる暗黒街か——」


 ゴシップ熱に火が付いたのか、マリネラは何やら物騒な事をブツブツと言い始める。聞いた手前、遮る訳にもいかないとカノアとティアは顔を合わせて苦笑いをした。

 だが何か思い出したようにマリネラは手をポンっと叩くと、二人にある提案をする。


「ガーデンパーティに潜入してみるってのはどう?」


「ガーデンパーティ?」


「近々エウゲン侯爵って貴族がガーデンパーティを開くらしいの。平民も貴族も集まるオープンなパーティだから、それなりに情報には期待できると思うよ! ただし招待制だから、招待状は何処かから手に入れる必要はあるけどね!」


「貴族のパーティか。確かに情報に期待ができそうだ」


 カノアたちは良い話を聞けたと、マリネラに感謝をしてその場を後にしたのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆


「ここか」


 夕方頃になり、カノアとティアは事前に集合場所として決めていた大衆食堂へと足を向けていた。


「お二人ですか?」


 少し古びた木製の扉を開くと店の人間が出迎えた。


「いや、他にも——」


「あ、居たよ!」


 カノアが答えようとすると、ティアが店内をきょろきょろと見渡して端の席に陣取っていたエルネストたちの姿を見つけてカノアに教えた。どうやらカノアたち以外は全員揃っており、到着したのはカノアたちが最後のようだ。店の人間に案内され、カノアたちもエルネストたちと同じ卓に着く。


「遅くなった」


「いや、俺たちもさっき集まったところだ」


「じゃあ全員揃ったところで成果について——」


 カノアが手に入れて来た成果について早速口を開こうとすると、エルネストがそれを止める。


「その前にやることがあるだろう?」


「やること?」


 カノアが聞き返したところで、人数分の飲み物が卓に運ばれてきた。


「お待たせしました~♪」


 エルネストは運ばれてきた樽で出来た大きなジョッキを片手に持つと、豪快に掲げて宴の開始を宣言する。


「乾杯だ!!」


 エルネストはそう言うと、一気に酒を呑み干したのだった。

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