第二章 Refrain Re:Code

序編

第0話『prelude -Fate turns again-』

 こうなる気がしていた。

 いや、こうなることは分かっていた、というのが正しいのだろう。


「いやっ! 死なないで!!」


 体に重さが加わる。

 誰かが、倒れている俺の体に覆い被さって来たらしい。

 だがその身体を抱きしめようとしても、腕が上がらなかった。


「お願いだから! もう、わがまま言わないから!!」


 俺は、涙で顔を歪ませているであろう少女の慟哭どうこくを黙って受け入れることしか出来なかった。

 だが少女が泣いていることは分かっても、実際にその顔を自分の目で見ることは叶わなかった。

 既に目がかすんでいて、はっきりと見えなくなっていたからだ。


「いや、いやよ……。お願いだから、死なないで……」


 視覚だけではなく、聴覚まで鈍くなっていくのが、段々と遠くなっていく少女の声で理解出来た。


 ――そうか。もう、終わり、なのか。


 そんな考えが脳裏をよぎると、俺は自身に下された運命の審判を受け入れるしかないことを悟る。


 ――つくづく、運命ってのは残酷だ。


 目が見えず、声も聞こえず、体も動かせない。

 まぶたを閉じようとして、それすらも叶わない事が命の終わりを告げていた。


 ――最期に祈ることさえも許されないとは。これが背負った十字架の重さか。


 思考だけが存在する世界で俺は言葉を探す。

 俺の愛した少女へ向ける、最期の言葉を。


 もう動かせなかったはずの腕に最後の力を込める。

 目は見えていないが、温もりだけは感じられた。

 俺はその温もりを確かに抱きしめると、この世界に来てから何度も感じた温かさに心からの幸せを感じた。


 自身の体に覆い被さるその細い身体をゆっくりと抱き寄せると、耳元でただ一言呟く。


「――愛してる」


 その言葉を振り絞る様に吐き出すと、全身から力が抜けていくのが分かった。

 もう誰の声も届かない。

 何の音も聞こえない。

 匂いも。重さも、分からない。

 そして俺は、を迎えた。

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