第63話『騎士たちの宴 #1』
両開きの扉が僅かな音を立てて左右に広がる。
薄暗い大広間に廊下の灯りが差し込んだかと思うと、一人の少女が入って来た。
「ホド、何処に行っていた? もう始まっているぞ」
「あら、ボクのことがそんなに気になる? でも女の子に何してたか聞くなんて、デリカシー足りないぞ?」
「ふん、戯言は良い。さっさと席に着け」
「むぅ。それとその名前あんまり好きじゃないから、こっちに居る時は
「くだらないことを言うな」
「ちぇー、釣れないなぁ」
唇を尖らせながら
「これで全員揃ったな。それで、例の少年は今どこに?」
円卓を囲んでいた中の一人の若い男が言葉を発すると、壁際に整列していた研究員と思わしき面々の内の一人が声を上げる。
「報告させていただきます! まだ行方は掴めていませんが、王都タラサの検問より、該当する人物は通っていないと報告。まだ王都内に潜伏している可能性が高いと見られます」
その報告を聞き、若い男は円卓を囲む面々に諭すように提案を始める。
「この中にも彼を素材として利用したいと考えている者は多いだろう。そしてそれを制止したところで、誰も聞くとは思えない。そこで提案だが、彼は彼を最初に捕まえたものが優先権を得るというのはどうだろうか?」
「つまり、早い者勝ちってことか」
「分かりやすくていいね」
「あら。そうなると、今は私の管轄に居るはずだから私が奪ってしまっても良いということかしら?」
「構わん」
妖艶な雰囲気を纏った女が嬉しそうに問い掛けると、若い男は承諾をした。
そして女はその言葉に満足し、自身からも一つ情報を提供する。
「それじゃあ私からも鍵の少女についての報告よ。ループが壊れてしまったからこれ以上素材を集めることは出来なくなったけど、おおよそ完成しているわ」
「それならば良い。では今宵、計画を次のシナリオへと移行する。今後は鍵の覚醒、そして謎の少年の捕獲を並行して行う」
円卓を囲む面々はその言葉に不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、ランダムウォーカー。いつまで
薄暗い大広間に、それぞれの思惑が交錯していた。
◆◇◆◇◆◇◆
「なんで黙ってる? どうしてそこから出てきたのかって聞いてるんだ」
頭上から降り注ぐ雨の冷たさのおかげで冷静さを保つことが出来た。
カノアは背後から聞こえてきた少女の声に焦ることなく、一呼吸置いて振り返る。
「返事の内容によっちゃタダじゃ済まさ――」
「雨宿りをしていたんだ」
その言葉に声を掛けて来た少女は怪訝そうな顔でこちらを見ているが、カノアは臆することなく会話を続ける。
「……そんな場所で、か?」
「知り合いとはぐれてしまったんだ。雨が上がるまでの間と思っていたんだが、なかなか止まなくて」
カノアは肩をすくめ、困ったという表情を浮かべる。
「ふぅん。スラムの奴なら間違ってもそんな場所で雨宿りしようなんて思わないが、お前他所者か?」
「ああ、メラトリス村から来たんだ。王都に来るのは初めてで道に迷ってしまって」
「……そうか。その先の地下水路は魔物が出るって噂があるんだ。悪いことは言わねぇからもう近付かないことだな」
少女は踵を返し、物陰に隠れていた純白の髪の少女に話し掛けると、その場を後にしようとする。
(やはり、俺のことは覚えていないか)
「なぁ、君たち!」
「あ?」
突如声を掛けられた二人の少女はカノアの方を振り向く。
「すまないが、夜まで雨宿り出来るところは無いか?」
「夜まで? なんだ、兄ちゃん訳ありかい?」
少女は再び踵を返し、カノアの元へと歩み寄ってくる。
「お望みなら衛兵も知らない道を使って、すぐにでも王都の外に連れて出してやるぜ?」
「いや、夜までは王都の中に居たいんだ」
「変わったやつだな。いいぜ、着いてきな」
そう言うと少女は雨に濡れた金髪をかき上げ、カノアを案内するように歩き始めた。
「王都に来るのもこれで最後だろうからな」
雨音にかき消されそうな声で、カノアは呟いた。
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。案内を頼むよ」
カノアはわざとらしく微笑むと、二人の少女と雨の路地裏を歩き始めた。
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