第36話『スラム街の激闘 #2』

「あれがティアの言っていたメグ・シエラか……。聞いていた通りとんでもない魔法だな」


 ようやく暴風が収まると、カノアは体を起こし、下に居たアイリの無事を確認する。


「大丈夫か?」


「……うん。それよりも、背中……」


 カノアは魔獣に切り裂かれた背中が痛むのを感じる。深い傷ではないが、肉をえぐられるようにして出来た傷は見た目以上に痛みを伴った。


「これくらいの痛みなら……」


 カノアはゆっくりと立ち上がりアイラの方へ目を向けると、見間違いではないかと自身の目すら疑いたくなるような現実が視界に入ってくる。


「あの魔獣、あれでまだ死んでいないのか」


 寝転がっていたアイリも体を起こすと、カノアに告げる。

 

「お姉ちゃんを助けて」


 ソフィアを持たぬ自分に何が出来るか分からないが、カノアはその言葉に考えるよりも先に足が動いた。


 ◆◇◆◇◆◇◆


 口から血を滴らせている魔獣がアイラに飛び掛かった。

 間一髪のところでそれを回避するも、やはり先ほど使った魔法の反動が大きいらしくアイラは上手く受け身を取れず地面を転がる。


「くそっ、体が思うように動かねぇ……」


 魔獣も満身創痍と言った様子だが、それでも執念深くアイラに飛び掛かる。


「負けられねぇ、あたしがこの街を守るんだ」


 気合だけで何とか立っているアイラだが、やはり限界は近いようだった。

 一瞬膝に力が入らず姿勢が崩れたところを魔獣は見逃さなかった。


「しまった!」


 魔獣の大口がアイラを捉えようとしたその僅かな瞬間にカノアは魔獣に向けてまっすぐに手を伸ばし、魔法を唱える。


「【ミク・アネモス】!」


 魔獣の目を狙って空気の固まりが飛来する。威力は弱いが、目に直接空気の固まりを撃ち込まれた魔獣は一瞬怯んでその身を翻す。


「出た……」


 カノアは己の手をまじまじと見つめ、自身が確実に魔法を使えたことを実感する。辺境伯の屋敷以来少しずつ練習していた成果がここに来てわずかに実を結ぶ。

 だが、カノアには喜びよりも疑問の方が大きい。


「俺は今ソフィアを持っていない。なのにどうして……」


 謎は深まるが、ひとまずは目の前の脅威を取り除くことに専念したほうが良いとカノアはその疑念を振り払った。


「へへっ、やるじゃねえか」


 アイラはよろめきながらも立ち上がり、カノアの傍へと歩み寄る。


「んじゃ、第二ラウンド始めるかっ!」


 アイラが隣で気合を入れ直す。

 二人は双頭の魔獣をまっすぐに見据えた。

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