第54話『アポカリプス機関 #1』
「ん……」
薄暗く狭い部屋の中、ティアはベッドの上で目を覚ました。
部屋を照らすのは、入り口と思われる扉に付いている小さな窓から差し込む光だけ。
「ここは……」
体を動かそうとして、自分の手が後ろ手に拘束されていることに気が付く。
ティアはバランスを崩さないようにゆっくりと上体を起こした。
「私、何でこんなところに……」
ぼんやりとした頭で記憶を遡るが、今自分が置かれている状況を上手く整理できない。
まどろみの中、扉の向こうから誰かの声が聞こえてくる。
「もうすぐ完成というこのタイミングで、素材が生きたまま手に入ったのはまさに幸運だな」
「素材? 一体何の話をしているのかしら?」
扉の外の声に集中するように聞き耳を立てるが、声はすぐに聞こえなくなった。
「……行っちゃった。何だったのかしら」
ティアが薄暗い部屋を見回していると、今度は扉の向こうから、コツ、コツ、と言う足音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなると、ティアの居る部屋の前で止まった。
すると扉が開き、沢山の光が部屋の中に入って来る。
「ご機嫌どうかな?」
「あなたは誰?」
部屋に差し込む光を遮るように、黒いローブのシルエットが浮かび上がっている。
ティアからは逆光となるため顔は見えないが、若い女の声であることだけは分かった。
その影はゆっくりとティアに近付いてくる。
「さぁ、始めようか」
黒いローブからまっすぐに手が伸びると、その手はティアの腕を掴んだ。
◆◇◆◇◆◇◆
白く長い廊下が続いている。
その廊下を、白衣を着た二人の男たちが歩いていた。
「外の連中と比べて中は暇だな」
「今日は例の実験体の完成日だからな。何処かのスパイが潜り込まないようにって城門やら周辺の警備やらに出払っているお陰で、こっちは平和そのものさ」
「完成日ねぇ。それで言えば例の素材、すぐに使っちまうのは勿体ないよなぁ。せっかくなら少しくらい遊ばせてくれても」
そう言って男はいやらしい顔を浮かべる。
「おいおい、そんなこと言っているのを聞かれたらお前も魔獣にされちまうぞ?」
「ははは、そいつはごめんだ。俺もまだ生きていたいし、何より人間として死なせてほしいからな」
男たちは何かを嘲笑うように談笑する。
だが、その背後から無精髭を生やした大柄な男が、渾身の力を込めて一人の男を殴り飛ばす。
「ひえっ!?」
残されたもう一人の白衣の男はあまりの出来事に素っ頓狂な声を上げたが、今度は自分の番であることの宣告代わりに胸ぐらを捕まれる。
「ティアは何処に居る?」
「な、なんだお前らは。まさか他国のスパイ!?」
「聞いていることに答えろ。それとも、それをてめぇの遺言にしてやろうか?」
エルネストは腰に携えていた拳銃を素早く抜くと、白衣の男のこめかみに突き付ける。
「ま、待ってくれ! 俺は研究には関わっていない! 助けてくれ!」
「研究? そんなこと聞いていない。今日この研究所に連れて来られた女の居場所を教えろと言っている。答えられなきゃその時点でお前は死ぬだけだ」
「ば、場所だけなら知っている! 第一研究室だ! た、頼む! 命だけは助けてくれ!!」
エルネストは男の顔を思いっきり殴った。
殴り飛ばされた男は、数メートルは空を飛んだ気がする。
横に居て一部始終を見ていたカノアは痛々しいと目を瞑った。
「ティアの居場所は分かった。それに、こいつらの話だとどうやら警備は外に出払っているらしい。好都合だな。がはは」
エルネストは満足げに笑うと、廊下に転がっていた二人の男を拾い上げ、近くにあった物置部屋に投げ捨てた。
◆◇◆◇◆◇◆
「第一研究室。あそこか?」
エルネストは廊下の端から少しだけ顔を出し、周囲を警戒しながら視線を伸ばす。
視線の先には厳重な扉と、その上に何やら文字が掛かれたプレートみたいなものが掛かっている。
カノアはこの世界の文字が読めないので、エルネストの声に耳を傾けながら周囲の警戒に徹していた。
「さて、どうするか。ここからじゃ中の様子が――」
「きゃーっ!!」
エルネストが作戦を練ろうとすると、扉の中から女の叫び声が聞こえて来た。
「悲鳴!? くそっ、迷っている暇はねぇ! ドアぶち抜いて入るぞ!」
そう言うと、エルネストは腕に装着したソフィアに触れ、強力な風の塊を発射した。
風の塊が直撃した扉は大きな衝撃と共に歪み、エルネストはその歪みに対して自身の巨体でタックルし、追撃を加える。
衝撃に耐えられなかった扉は部屋の内側にひん曲がり、エルネストはその扉をもぎ取るようにして破壊した。
「なんだこれは!?」
エルネストは部屋の中に入ると驚愕の声を上げる。
カノアも遅れながら部屋に入ると、そこには惨劇が広がっていた。
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